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「あんたバカ?」
「……ばかだもん」
 はあ、とため息をついた。向かいのカップからほわほわと立ってた湯気が見えなくなって、どのくらい経ったんだろう。せっかくおいしく淹れられたのに、とまたため息をつく。この子はいっつもそうなんだから。
 一つのことしかできないのは男。同時に複数の作業ができるのが女。最近そんな話を聞いたけど、勝手に定義するなよって思う。私とこの子、久美(くみ)にしたってそうだ。
 見た目はともかく、誰にでも言いたいことは言うしはっきりしない態度が嫌いで口が悪くて、おまけに口げんかの時は相手の逃げ場を完全に潰した上で完膚無きまでに叩きのめす私。まったくもってかわいげのカケラもない。でも、話をしながら勉強したり書類作ったりするのもできるし、学生時代は掃除しながら英単語覚えてたっけ。複数の作業を同時にやるのは、どちらかといえば得意。
 久美はっていうと、引っ込み思案で目立つのが苦手で、誰にでもふわふわしたやさしい話し方をして、ケンカなんてしようものなら泣くんじゃないかと思う、つまり典型的な「かわいい」女の子。なのに、何かしながら別のことをするっていうのが壊滅的にヘタ。ていうか無理。たぶん脳の構造からしてそういう作りにはなってないんだと思う。久美には悪いけど。
 だから、お菓子作ってて使い終わった食器洗ってたらお皿割ってあわあわして肝心のお菓子まで焦がしちゃった、なんていう芸当ができるんだと思う。第三者からするとそれすら可愛いのかもしれないけど、本人は至って真面目に悩んでる。
「久美、材料まだある?」
「……うん。失敗したら困るなって、思って」
 私は、笑って立ち上がった。うーんと伸びをして、腕を回す。さ、一仕事!
「上出来。じゃ、涙ふいてほらハンカチ。とっととやるわよ」
「え、唯(ゆい)ちゃん……?」
 不安げに見上げてくる、黒目がちな目。私はだいじょうぶ、と頷いた。腕をつかんで立ち上がらせて、そのまま台所へ連れていく。
「泣いてる暇はないの。明日なんでしょ、アイツの誕生日。ここで見ててあげるから、もう一度作ってみなよ」
 引っ込み思案で目立つのが苦手な久美が、自分で決めた。直接会って渡すんだって、たくさんたくさん悩んで決めたことだ。だったら私は、後ろで背中を押してあげたい。
「心配しなくても、ちゃんとここにいるから」
 だから思いっきり、ぶつかっておいで。


――何度でも言うよ       


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