拍手いただきありがとうございます!
拙い文章ですがお話をご用意しました。よろしければ読んでやってくださいm(_ _)m





2012年2月22日更新
Because of you






「帰したくない」

間接照明の灯る雰囲気のいい店内。
アラカルトで頼んだ料理のほとんどを食べ終えて、お皿に残した苦手な野菜をフォークでつっつきながらワンコの話をしている僕に、目の前の男がそう呟いた。

「へ?」

その前後の会話とのあまりの脈絡のなさに間抜けな声が出てしまう。
そんなのはおかまいなしに目の前に座るヒロは蕩けるような眼差しで僕のことを見つめていた。
お酒は飲んでないはずなのに顔が若干赤く感じるのは気のせいだろうか・・・。

「だから・・・」

「だから、言うな」

「・・・今日は大ちゃんのこと帰したくないよ」

「今日はって・・・。いつもじゃない」

あきれたような僕の口調にヒロは「だって・・・」と口籠る。
ホントはこうやって食事に出る時間すらなかった。
仕事はつまっていて余裕なんて少しもない。
それでも「会いたい」と言い続けるヒロに根負けして時間を作ったのだ。
もちろん僕もヒロ不足が続いて会いたかったっていうのもあるけど・・・。
寝る間も惜しんで仕事片づけて、アベちゃんにもスタッフにも頭下げて、どうにかこうにかもぎ取った3時間。
それ以上の時間はどうやっても無理だった。
だから最初に釘を刺した。
今日は絶対に帰らなきゃいけないって。
なのにこの甘ったれの三男坊は大袈裟なくらいに淋しいオーラを出してしょんぼりとうなだれている。

「だってこうして会うの久しぶりじゃん。大ちゃんの顔見たらさ・・・帰したくなくなった」

「でも、今日は戻らなきゃいけないんだよ。最初に約束したよね?」

「大ちゃんは俺と一緒にいたくないの?」

あぁ、全くこの男は・・・。
一緒にいたくないわけがないじゃないか!
この時間を作るのに僕がどれだけ苦労したと思ってるんだ!
まぁ、僕がそんなに必死こいてたことなんてヒロには言うつもりもないし、絶対に知られたくはないけど・・・。
出来ることなら僕だって帰りたくない。
ひとつのあたたかいベッドの中でじゃれあって話をしてヒロの腕に包まれてすやすやと眠りたい。
そんななんでもないようで贅沢な時間を僕たちは最近作れずにいる。
だけどそんなことばかりしてたら仕事はどんどん溜まっていってヒロに会うことさえできなくなってしまうかもしれない。
そのくらいわかれよ!このばかヒロ!!

だけど僕はそんな悶々とした思いを微塵も感じさせないようにヒロをなだめてる。
そうすることでなんとか自分を保っているのだ。

「一緒にいたいよ。だけど・・・」

「じゃあいいじゃん。ね、一緒にいよう」

大きなテーブルを挟んで向かい合って座るこの席では人の目を盗みテーブルの下で手を握ることは距離的にかなわない。
だからなのかヒロは僕の足を自分の足で挟んだ。
僕よりも体温の高いヒロの熱があたたかい。

「ねぇ、大ちゃん。いいでしょ?」

こんな風にわがままを言って甘えられるのって実は嬉しかったりする。
そうやって必死になって僕と一緒にいようとするヒロを見ると安心するんだよね。
愛されてるなーなんて実感したりして。

「でも・・・」

帰りたくないのは僕も一緒。いや、きっとヒロ以上にそう思ってる。
次こうやって会えるのはいつだかわからない。
それなら今日くらいいかな?
いや、ダメダメ!
やらなきゃいけないことは山ほどあるんだから。
でも、明日からまた死ぬ気で頑張ればなんとかなる・・・かな。
そんなこと考えながら葛藤してると、不自然な沈黙が流れた。
ついでに言うと僕の眉間にはしっかりとシワが刻まれていたと思う。

「・・・わかった。困らせてごめん」

そう言ってヒロは淋しそうに笑った。
そして離れていくヒロの熱。

「もう帰ろう」

「え?」

「今なら大ちゃんのこと帰してあげられる。このまま一緒にいたら帰してあげられなくなっちゃう」

まだ3時間は経っていない。
それなのにもう帰らなきゃいけないの?
帰るのは当初の予定通りで理性に勝ったヒロを褒めてあげるところなんだけど、いざ帰ると言われると寂しい。
帰してなんてくれなくていいのに・・・。

「そうだね」

だけどそれを口にできるほど僕は素直じゃないんだ。





なんとか時間を引き延ばそうとわざと帰り道ではないお店にしかないようなものを買いたいとわがままを言った。
それを嫌な顔せず引き受けてくれたヒロ。
あー、何やってるんだ、僕は・・・。
自分でも可愛くないと思う。
素直に「一緒にいたい」ってしまえば済むことなのに。

時間はいつの間にか過ぎていて約束の3時間が経とうとしている。
そして車は確実に僕の家へと近づいていた。
赤く光る信号が見てくる。
そこを右に曲がってしまえばもうすぐに僕の家だ。
普段はイライラする赤信号がいつまでも続けばいいのになんて思ってしまう。
だけど信号は車が完全に止まってしまう前に青に変わった。

―――タイムリミット

前の方から順番に動き始める車の列。
だけどヒロはその列を外れて信号の手前で車を路肩に止めた。

「どうしたの?」

「帰るっていったのは大ちゃんなんだから・・・。そんな顔しないで・・・」

そう言ってコツンとおでこをつつかれた。
何?今僕どんな顔をしてるの?

「俺は大ちゃんを帰したくないよ」

ヒロが僕の髪へ長い差し込みながら愛おしそうに僕を見つめる。
そんなことされたら僕の腕は条件反射のようにヒロの首へと伸びてしまう。

「ヒロ・・・」

「ん?」

「ヒロが帰したくないって言ったんだからね」

きっと僕の気持ちなんてヒロにはお見通しだ。
そしてそれを僕が素直に言い出せないことも。

「うん、わかってる。しょうがないから、だよね」

そう言って僕のおデコにキスをひとつ落とすとヒロは車を発進させた。

「明日、一緒にあべちゃんに怒られてよ」

「OK!任しといて!」

僕が素直じゃないのはきっとヒロのせい。
こんなにもわかってくれて、甘やかしてくれて、愛してくれる、ヒロのせい。

「大ちゃん、好きだよ」

「・・・ばーか」

車は青信号を右ではなくて左へ曲がった。








END







メッセージをいただけるととっても嬉しいです!!(拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。