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拍手ありがとうございます。 ご感想などありましたらお気軽にどうぞ。 お返事はdays、もしくはご連絡先にお返しします。 お礼文は五種類です。 *・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・* ある男の物語 歩き疲れて、男は街灯のもとに腰をおろした。擦り切れた薄いズボン一枚を隔てて、石だたみの冷たさが肌にしみる。 ふと顔をあげると、遠くにぼんやりとにじんだオレンジ色の光が、いくつもいくつも明滅していた。まるで意志をもって浮遊 しているようなその光に、そういえば今夜は星まつりだったのだ、と男は深い息をもらした。あれは子どもたちが手に手に 提げている、カラスウリの明かりにちがいなかった。 ずっと昔――男がまだほんの子どもだったころ、学校を終えると一目散に家へ帰り、年に一度のこづかいをもらって飛び 出していったものだった。近所の友だちと、めいめいで細工したカラスウリの明かりを川に流し、出店で他愛もない菓子を 買う。それを時々は友だちと取りかえっこしながら、はしゃいで村中を駆けまわっていた。くたびれはてて、ただ座り込むこ の男にも、たしかにそんな時期があったのだ。 男はもう一度深く呼吸して、目を閉じる。なつかしい暗闇には、まるで時の流れなどなかったかのように、あの頃の情景 が鮮やかに浮かんでいる。男はふるえるほどきつく、まぶたに力を込めた。やがて男の身全身から、ゆっくりと力が抜けて ゆく。さいごにふたたび開いた男の睛に映ったのは、満天の星空だった。 |
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