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ある男の物語



 歩き疲れて、男は街灯のもとに腰をおろした。擦り切れた薄いズボン一枚を隔てて、石だたみの冷たさが肌にしみる。

ふと顔をあげると、遠くにぼんやりとにじんだオレンジ色の光が、いくつもいくつも明滅していた。まるで意志をもって浮遊

しているようなその光に、そういえば今夜は星まつりだったのだ、と男は深い息をもらした。あれは子どもたちが手に手に

提げている、カラスウリの明かりにちがいなかった。

 ずっと昔――男がまだほんの子どもだったころ、学校を終えると一目散に家へ帰り、年に一度のこづかいをもらって飛び

出していったものだった。近所の友だちと、めいめいで細工したカラスウリの明かりを川に流し、出店で他愛もない菓子を

買う。それを時々は友だちと取りかえっこしながら、はしゃいで村中を駆けまわっていた。くたびれはてて、ただ座り込むこ

の男にも、たしかにそんな時期があったのだ。

 男はもう一度深く呼吸して、目を閉じる。なつかしい暗闇には、まるで時の流れなどなかったかのように、あの頃の情景

が鮮やかに浮かんでいる。男はふるえるほどきつく、まぶたに力を込めた。やがて男の身全身から、ゆっくりと力が抜けて

ゆく。さいごにふたたび開いた男の睛に映ったのは、満天の星空だった。





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