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攘夷派4人の日常茶飯事 
90、夜遊び
※坂高、坂万、銀高?、高陸奥を含むカオスですが、ギャグです。深く考えないといいと思います。


人間、真に訳の分からない状況に陥ると、思っても仕方のないことばかりが浮かぶのは本当らしい。
おかしい。絶対におかしい。これは夢だ。いや、別にこんなことを望んだことは一度もないが。

……高杉は思った。半分以上現実逃避で。

「晋子ちゃーん、おんしゃ本当にめんこいのー」
「死ね!!バカ本!!」

何故、自分が、女装をさせられた挙句、坂本に押し倒されなければならないのか、と。



そもそも事の発端は、珍しく高杉ではなく、右腕的存在である万斉の失言にあった。
江戸で所用を済ませた帰り、一杯ひっかけるべく歌舞伎町になぞ寄らなければよかったのだ。そうしなければ、今頃は船で三味線を片手に気に入りの日本酒を舐めていただろうし、「かまっ娘倶楽部」という恐ろしい名前の店頭で客引きをする気持ち悪い幼馴染に会うこともなく、そして万斉のバカが現れた西郷に対し「これは興味深い。地獄の業火の中にありそうな化け物的な音でござる」と言い、ぶちのめされることもなかったのだ。
おそらく万斉に悪気はなく、珍しい音とやらに素直な感想を述べただけだろう。だが、相手はそう取らなかった。いじめられた相手がいじめだと思えばいじめ、という格言をかみ締める高杉である。

仮にも鬼兵隊総督と人斬りが揃っていて情けないことだが、そもそも店と西郷の雰囲気に圧倒されていたし、銀時と桂が向こう側については勝ち目はなかった。
かくして高杉と万斉は仲良く女装姿となり、今すぐ切腹すべきか、でもまだ世界を壊していないと高杉が葛藤をしている間に襖で区切られた座敷に押し込められ、客としてバカ本に会ってしまったのだった。
そして、何がなにやら分からない間に、酔っ払った坂本に押し倒されていた冒頭に戻る。

「坂本!!いい加減にどきやがれェェ!」
高杉は覆いかぶさってくる坂本を膝で押しのけながら叫んだ。
「あっはっはっ!気の強いところもめんこいの。わしとチューするぜよー」
そのほかにも必死の抵抗をしているのに、坂本は何も起こっていないかのように顔を近づけてくる。この馬鹿力め。何だ、コイツ。普段、こんな口説き方してんの?犯罪じゃね?と様々よぎるが、坂本の据わった目は、放置すれば何をされるか分からない危険性だけが溢れていてそれどころではない。
「死ねェェェ!!俺だ、高杉だ!気がつけ!!」
「いんや。わしの知っちょる高杉は、ちまか男で、もっと人相が悪か。おんしのような女子とはかけ離れてるぜよ!」
「テメェエエ、俺のことそんな風に思ってやがったのかァァァ!!それに俺は男だ!!ここは男が女装してる店なんだよ!」
言いたくもなかったが、尻の危機と秤にかけ、高杉は店の状況を叫んだ。
坂本には、これが一番効く。奴の女好きは、自分達の中でも突き抜けている。

だが―――

「じゃあ、確かめてみるってのはどうじゃ?」
ね? と坂本は笑った。その優しげながらも獰猛な笑みに、高杉の背中一杯に鳥肌が立った。

「人の話を聞けェェェ!!つか、真剣な顔すんな!怖ぇから!!」
「大丈夫じゃ、優しくするきー」
「ちっとも安心できねェ!!」

帯を解こうとする手を渾身の力で押し戻そうとしながら、高杉はまた子を連れてこなかったことを悔いた。
きっと細かいことなど気にせず、さっさと坂本の頭をぶち抜いてくれただろうに。

「失礼しまぁーす。お酒とお料理の追加を、……ってあれ、パー子邪魔しちゃったかしらぁ?」
「って銀時ィィィ!!テメェ、見てたよなァ!?」

高杉はドラマのようなタイミングで開いた襖の先にいた人物を見て、腹を切る方に心が傾いた。
見ていた。絶対に銀時は、こちらが切羽詰る状況に追い込まれるまで外で待っていた。間違いない。

「え~銀時って誰ぁれ?パー子、そんな野暮なことしないもん」
「嘘こけ!!テメェ、顔が笑ってんだよ!!!しかもしゃべり方がうぜぇ!」
甘ったるい銀時もといパー子の声に、高杉の額に青く血管が浮く。
怒鳴られたパー子はもちろん気にすることなく、更に恐ろしい爆弾発言をかました。
「お客さーん。うちの"店内では"お触り禁止なんですぅ。でも、今日はママが奥座敷にこもってるからー、別料金になるけど、お持ち帰りもオッケーかもよ」
「おお!すまんき!店のルールには従わなきゃいかんのー」
坂本は素直に高杉の上からどいたが、だが逃がさないとばかりに手だけは握ったままだ。しかも恋人つなぎで。
「テメェエエエエ―――!!俺を売る気かァァァ!!!」
(まてよ……。西郷か……!)
叫びながらも、脳裏にひらめくことがあった。聞けば、銀時と桂の両方をのしてしまうほど(決して自分はのされたわけではない。殴られて吹き飛んできた万斉を避け損ねただけだ)の強さで、たちの悪い客には鉄拳を食らわせると言う。
奥座敷ということは上客が来ているということだが、思いきり叫べば聞こえるだろう。
「晋ちゃん」
だがその計画は、坂本がトイレに席を立った瞬間にパー子が囁いた言葉で霧散した。
「オメーも俺達を春雨に売ってくれたじゃん?……ああ、でも西郷を呼べば助けてくれるぜ。『ママー!』って呼ばないと来ないけどな。いやぁ、笑えるなぁ。鬼兵隊の総督様が、普段あーんな屋台舟とかでかっこつけてるのに、男に襲われて『ママー』って呼びたきゃいんじゃね?」
「………銀時ィ」
相変わらず人の嫌なところを突く野郎だ。
やっぱり真撰組にしかけた時に、万斉ごとでもいいからヘリを爆破して殺せばよかった。
高杉はそう心底思った。しかし今は言い争いをしている場合ではない。坂本のバカが戻るまでが勝負だ。
「……万斉はどうした。あいつに相手を変えさせる」
そうだ。元はといえば、肝心要の時だけ空気の読めないあいつが悪い。大人しく奴が尻を差し出すべきだ。さすがの坂本でも脱がせば気がつくだろうが、気がつかなくても万斉が犠牲になる分にはどうでもいい。
「万代ちゃんは、あっちでヅラ子と飲み比べてるんだなー」
ほれ、と指を指された先では、客を早々に潰した後、鬼気迫る形相で飲み比べている桂と万斉の姿があった。
二人とも水を飲むように杯を空けていく。
「……終わったな」
もう万斉は捨てよう。高杉の心は決まった。確実に負ける。
桂はザルとまではいかないが、飲み比べは異常に強い。自分はそれほど飲まず、相手を自滅させる術に長けているからだ。
「晋子ちゃーん!待たせてすまんのー!」
「うげっ!もう来やがった……!」
高杉は反射的に立ち上がろうとしたが、絶妙のタイミングでパー子が止める。
そのまま、ものすごい力で元通り座らせると、

「坂本さまぁー、パー子お邪魔虫みたいだからこれで失礼しまーす。晋子ちゃんをよろしくね!」
語尾にハートがつきそうな声音に、高杉の顔から血の気が引いた。気持ち悪さと銀時の本気を悟ってだ。
「ちょ、本気で待て、銀時。俺達友達だろ。さすがに、それは酷すぎるだろ」
高杉は、普段ならば死んでも言わない言葉で縋った。
「ごめん、高杉。俺、テメーの半泣きの顔、リアルにそそるわ」
対して、ドS心を揺さぶられた銀時はにっこりと笑って言った。愉快で愉快でたまらない顔だった。

まさしく前門の虎後門の狼状態の高杉は、意地で悲鳴だけは堪えたものの、内心手放しで泣きたかった。
よく考えたら腹切ろうにも刀がない、と冷静に思ってしまうほど追い詰められた高杉に、顔だけはにこやかな坂本が近づこうとする。


「坂本ォォォ―――!!おんしゃ、バカかァァァ!!」
「げふぅ!」


見事な飛び蹴りが炸裂し、坂本が吹き飛んだ。高杉ではない。凍り付いていて動けなかったからだ。

「陸奥!?」

銀時と高杉が同時に言った。
吹き飛ばした坂本の頭を容赦なく踏みつけながら、陸奥が言う。

「頭……。ついに、仕事をさぼって男色か。ふぐりとおさらばする日が来たようじゃの」
陸奥はそのまま懐中から短刀を取り出した。目は完全に据わっている。
あまりの本気さに、同じ男として銀時と高杉は何も言えず、坂本もさすがに弁明を始めた。

「いやいやいや!わしがデートする晋子ちゃんは女子じゃき!」
陸奥は「晋子ちゃん」を凍るような目付きで眺めて冷静に言った。
「その晋子ちゃんは、高杉じゃ。わしの知っちょる高杉は、ちまか男で、ひょろひょろしとったが、一応男だったと思うが?」
「え?高杉?どこ?」
「だから、晋子ちゃんじゃ。よく見てみぃ。この目付きの悪い隻眼、この偉そうなわりにとろい動き、そして170cmしかない身長。どっからどうみても高杉じゃろうが」
「陸奥!!テメェも俺の敵かァァァ!!」
あまりな言いように着物をかなぐり捨てる勢いで怒鳴る高杉を、坂本はじっくりと見た。

「あっはっはっ!!おんしゃ、晋助じゃないかえ!」
「だからさっきから言ってるだろ!バカ本ォォォォ!!!」
「ごめんごめん、酔っ払ってたき!いやー、間一髪じゃ。抱かなくてよかったぜよー」
「俺の台詞だァァァァ―――!!!」
「じゃあ、女子はおらんのか……」
しょんぼりする坂本の首を叩き折りたい高杉だが、力勝負では叶わない。
だが、このまま帰すのも癪に障るので、少し考えていった。
「あそこでヅラと飲んでる万代っつーのがいるんだが、あいつは女だぜ。それにこの前、『快援隊の社長さんってカッコイイ』とか言ってたっけなァ……」
坂本はすぐに目を輝かせて、そちらに飛んで行った。

「あーあ。ばらしちゃって……つまんね」
それを見て銀時が呟いた。

「それにしても高杉。なかなかいい格好じゃ」
「……うるせぇ……、言うな」
坂本がいなくなった座敷で、陸奥が高杉に近づいて言う。
彼女にしては珍しく、にたりと人の悪い笑みだった。
「まぁ、頭の迫り方は強引にしろ、あの高杉が半泣きになるとはのぅ」
「……」
高杉は答えない。正直、顔から火が出るほど恥ずかしい。
それも、一応は男女の関係にある女に指摘されるなど(しかも妬いてもいない)生涯の不覚だ。
「どうせなら、今度はうちの船で余興にでもしてもらおうかの。わしが三味線を弾いちゃるき」
「………テメェ、いい加減にしねェと泣かすぞ……」
「その格好ですごまれても、怖くもなんともないぜよ」

しれっと言い返され、頭に血が上った高杉は転がっていた一升瓶を持った。
飲み干してやる。このまま、意識を飛ばしてしまった方がましだ。

「おおー、男らしい」
銀時のからかう声と、勝ち誇ったような陸奥の笑い声と、遠くから聞こえる万斉の悲鳴のようなものを混ぜた喧騒の中、高杉はようやく意識を飛ばすことができた。







後日談

「もう拙者は鬼兵隊を辞めさせてもらう!」
「万斉ィィ!アンタ、何言ってるっスかァァ!?」
「晋助が拙者を身代わりにしてくれたおかげで、拙者は坂本のバカにあやうく犯されるとこでござった!!」
「なんだ、未遂ならいいじゃねーか。そもそもの原因はテメェだろう」
「そういう問題じゃないでござる!本当に危なかった!ってゆうか、その前にも酷い目にあったし!」
「……話がよく読めないんスけど、万斉が犠牲にならなきゃ、晋助様が危なかったっスか?」
「そうだ。俺の尻の危機だった。黙って身代わりになるのがいい仲間ってもんだろう?……だが、また子。もしテメェだったら、奴に触れられる前に頭を打ち抜け。押さえ込まれたら敵わねェ」
「自分だって敵わなかったくせに、えらく優しいでござるな!拙者にも優しくしてよ!」
「晋助様がご無事ならそれでよしっス!万斉の尻の一つや二つ、減るもんじゃないし!」
「だよなァ」
「絶対辞めてやるでござる!!」


(高杉いじめ。こんなに晋助様が叫んでいるのを始めて書きました。なお、坂本は本当に分かっていませんでしたが、わざわざ坂本を呼んだのは銀時&桂です。こっちには悪意ありあり)

 




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