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(現在DQ4のssが三種ランダムで出ます)







* それは聞けない命令 *


高熱が続いて、これで何日目だろう。
アリーナは、宿屋のベッドに力なく横たわるお供の神官を見下ろした。
ブライが手を尽くし、やっと病を治す手立てを見つけたものの、肝心の薬はこの町にはないという。
ないなら、取りに行くまでだ。今すぐ。
もう少し情報を集めてくると言い置いて出て行ったブライは、まだ戻らない。
装備を整え、荷物を確認した。一人でだって行ってやる。待ってて、クリフト。
と、その時、うっすらとクリフトのまぶたが開いた。
「姫さま・・・?」
ぼんやりとした視線が、アリーナを見上げる。
「起きたの?まだ寝てなくちゃダメよ。
 私はちょっとだけ、出かけてくるわ。すぐ戻るからここでおとなしく待っていてね」
そう、すぐよ。あなたを治す薬を手に入れて、必ず戻る。
クリフトの病気は私がなんとかしてみせる。だから。
「いいわね」
できるだけ、いつも通りにと念じながら笑いかける。ところが。

「待って、ください」
驚いてクリフトを見返した。
高熱に浮かされ焦点が合っていなかったはずの目は、じっと旅装のアリーナを見上げていた。
「ブライ様は、ご一緒では、ないのですね。」
ゆっくりとかすれた声で言葉をつむぐ彼の視線の先には、いつもブライが背負っている薬草袋。
今はアリーナの肩先で揺れている。慌てて隠しても遅い。
こんなときでも衰えないクリフトの観察力が、今ばかりはうらめしい。
病に倒れた神官は痛むはずの身体をゆっくり起こし、アリーナの表情を覗き込んだ。
「お一人で、どちらへ?」

答えられない。きっと彼は止めるだろう。
自分のために危ないことをするなだのなんだの言って。
……そんなことを言っている場合ではないのに。
高い熱が何日も続くことがどれだけ危険な事態なのか、医者ではないアリーナにでも分かる。
早く、早くパデキアの根を手に入れてクリフトの病気を治さなくてはいけないのに。
「急ぎの用事よ」
それだけ言って、目をそらす。これ以上クリフトの視線に捕まったら、何もかも見抜かれそうで。
「だから、ブライが戻るのを待っていられないの。」

「いけません」
制止の言葉と共に、熱い手がアリーナの腕を掴む。
反射的に振り返れば、強い視線に意識を絡め取られる。動けない。
「何か、危ないことをなさろうと、していませんか、姫さま」
図星だ。
でも、行かなくてはならないのだ。どうしても。しかも、今すぐ。
「手を、離して。クリフト」
真剣な声で訴える。
振りほどこうと思えばたやすい。男女の差はあれど、体術においてはアリーナが上。
しかも何よりクリフトは、病に侵されている身だ。
それでも、力ずくでもぎ放すことはできなかった。理由は、分からないけれど。
「行かなくちゃいけないの、お願い」

一瞬、クリフトは苦しそうな表情を浮かべ。そして。
「できません」
ぱしん、と撥ね付けるような声音の返答にアリーナは耳を疑った。
普段は仕える姫君のわがままを、お説教を垂れつつも最後には苦笑して受け入れる彼だ。
「せめて、ブライ様が戻られるまで、お待ちください。
 その装備では、街の外まで行かれるのでしょう?お一人では、危険です」
切々と訴えるクリフトは、単純にアリーナの身を案じているのだろう。
だからこその行動。台詞。
分かっているけれど、聞きなれない拒絶の言葉が、ことのほか痛い。

なんで止めるの。どうしてよりによって今、クリフトが止めるのよ。
どうしていつもみたいに「仕方ない方ですね」って笑ってくれないの。
早く、早く行かないとあなたが……!

焦燥が苛立ちへと変わり、八つ当たりにまで突っ走るのを止められない。
「だって……だって!クリフトの熱を下げるにはパデキアの根っこが要るんだもの!
 ブライが戻るのを悠長に待っていたら、その間にまた熱が上がっちゃうかもしれないでしょう!」

癇癪を起こしたように思わず叫ぶ。
口からこぼれた”理由”を聞いた瞬間クリフトの顔色が変わったのには気が付いた、でも。
止められない。止まらない……否、止めない。息をいっぱいに吸い込んで言い放つ。
「いいから離して!これは、命令よ!」

叩きつけた、身分や立場を振りかざすセリフ。
いつものアリーナが何より嫌うもの。
それでも……それでも。今はもっと大切なことがある。
唇をかみ締めて見据えるアリーナの腕を、けれど神官は離さなかった。

「聞けません」

あなたが危険な目に遭うくらいなら、熱など下がらなくてかまわない。
私のために、あなたの身が危うくなるなどあってはいけない。
だから、その命令は聞けません。

熱でふらつく身体に必死に力を込めて、静かにきっぱりと言い切った。
その言葉には一片の嘘偽りもなく。まして、冗談でも脅しでもなんでもなく。
それが分かるからこそ、アリーナは泣きたくなった。

「……行かないでください。お願いです、アリーナ、さま」

そこで、そんな必死な声で、名前を呼ぶのはずるいでしょう。
いつもは姫さま、アリーナ姫としか呼ばないのに。
主の命に逆らって、いつもは呼ばない名を呼んで、クリフトはやっぱり熱でおかしくなっている。

こんなところで、こんな形で、あなたを失うわけにはいかないの。
あなたは私が助けてみせる。何があっても絶対に。
だから、そのお願いは聞けないわ。

ついと目を伏せてクリフトの視線から逃れ、ごめんと心でつぶやいて。
掴まれたままの腕をぐいと引き寄せれば、高熱に浮かされた身体は簡単にぐらりとかしぐ。
無防備にさらされた首筋に、すとんと手刀を振り下ろした。
青い瞳がその強い光を失い、まぶたがぱたりと落ちる。
くったりともたれかかってきた身体は予想以上に熱をはらんで重い。
苦労してベッドに横たわらせて布団を直した。
このまま二度と目を開けなかったら、だなんて。
縁起でもないことを考えかけ、慌てて思考の外へと蹴り飛ばす。
そんなことにはさせない。絶対にさせない。
考えるより先に行動するのがサントハイムのアリーナ姫よ。
いつだって、それで結果を出してきた。そうでしょう?

力なく横たわる若き神官に、心の中で問いかけて。
ええそうですね、まったく姫さまは……と、いつもの返答が無いことにまた泣きたくなった。
取り戻してみせる、必ず。
そして元気になったなら、一発殴り飛ばしてやるんだから。
私の「命令」を蹴ったのよ、それくらいいいでしょう?
一人きりで勝手に出かけたことへのお説教は、その後でゆっくり聞いてあげるから。
ねえクリフト。

早く、早く元気になってよ。

そうしておてんば姫は宿を飛び出し、パデキアを求めて単身ソレッタへ向かう。
口やかましくて優しくて、そのくせとびきり強情な、大切な神官を助けるために。


お題はこちらからお借りしました→リライト様 (「忠犬5題」より)







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