気分転換
「ふう」
いつもよりも更に短く髪を切った黒崎は、その一房を摘んで一息ついた。
仕事はほぼ片付いた。あとはさっさとこの髪の色を元に戻し、ドロンすればいい。
それにしても、今回は本当に難しい仕事だった。一度顔を合わせた相手に近づくために、どこまで自分をかえなければならなかったか。
結局、髪をさらに短く切り、あまつさえ色を染めて近づいたのだ。
鏡を見れば、どうも違和感ばかりが付き纏って、黒崎は思わず苦笑した。
ふと、ぽんと肩を叩く手に気がついて、誰かと警戒しながら振り返る。
「やあ、お久しぶりです」
和やかな営業スマイルを浮かべた男の顔をまじまじと見て、黒崎は大きくため息をついた。
「……どうも」
「何だ、変な反応をしやがって。――それにしても見違えたな、黒崎」
あっさり自分の正体を見破った男――白石は、ぽりぽりと頬の辺りを掻きながら言った。
「何であんたはおれだって判るのかなー」
「そんなに不思議か?」
「不思議だよ」
二人ベッドの上に身体を投げ出して、小さく苦笑を重ねる。
黒崎は白石に連れられるまま、彼が長期で宿泊しているホテルに入った。ドロンを決め込むなら、本来すぐにいつものアパートに引っ込んだ方がいいのだが、一旦こちらで休憩して何事もないように出て行っても問題はないと思ったのだ。
ちなみに、いつ悟られなくてもいいようにと、行きがけに見つけたストリートファッションの店で服と帽子を新しく買い求めたのは言うまでもない。
ともかく、会ってやることの最終目的といえば一つしかないので、先にその最終目標とやらを果たしてからいたりするのだが。
「お前は綺麗な頭の形してるし……それから、目だな」
「目?」
「ああ。俺からしたら羨ましいくらい、いい目をしてる。他人を惹きつける目――っていうのかな。そんなの」
「ふーん」
白石の答えに、黒崎はぞんざいに相槌を打つ。今まで自分の印象をそこまで考えたことも無かったし、それに印象付けるような特徴があるのは詐欺師にとって致命的な欠点だと思っていたのだ。
白石はぽんぽんと黒崎の頭を撫でながら言葉を続ける。
「まあ、あくまでも俺が見たら、の話だ。お前は一般的に普通の顔してるから、そんなに気にするな」
「するっつの」
むう、とむくれてみるが、それが存外に子供っぽい仕草であると気が付いて。すぐに枕に顔を押しつけた。
「ふむ、俺もいい加減染めてみるかな」
撫で付けているはずの前髪を摘んで、白石がぽそりという。
その姿をぼんやりと眺めながら、ちょこんと首を傾げてみせた。
「白髪染め?」
「いうな。俺は言うほど白髪生えてない」
「あ、そう」
「そうだなー。どっちかといえば、オシャレ染め?」
「……あんたがオシャレ染め、ってキャラかよ」
他愛のない会話を楽しみながら、くつくつと笑った。
「でも、帰ったらすぐに戻すよ。髪」
「ん、戻すのか?折角今時の若者風のスタイルなのに」
「おれ、頭染めるの苦手」
「……天然の茶髪とかだったらよかったのにな」
「勘弁してよ。印象つけないように黒いままにしてるのに」
白石の言葉に顔を歪めると、咄嗟にあのムカツク警部補の顔が思い浮かんだ。
そういえばあれほど見事な茶色い頭はないと思う。生粋の日本人であるのに何故か金髪だったりする隣人の女子大生も然りだが。
ふと、しげしげと眺めていた白石の髪に、一本だけ見つけたもの。
それは。
「あ、白髪発見」
「あ?!」
がばっと起き上がる白石に構わず、黒崎は肩を掴んでそれを引き抜きに掛かる。
「あ、やめろ。頼む。白髪増えるから」
「んじゃもうちょっと増やしてみる方向で。いかがですかお客さん」
「やめろって、若白髪は金が貯まるっていうだろ」
「あんた若いって年じゃないじゃん。大丈夫大丈夫」
「ぎーやー!」
ぎゃあぎゃあとベッドの上ではしゃぎながら、たまにはこんな髪も悪くないな、と黒崎は小さく苦笑した。
ヤンサン本誌ネタ。
多分白石さんはどんなに奇抜な頭になってても一発で黒崎と見抜くに違いない。
という妄想から生まれた話でございました。
ほら、女装しても一発で見破るほどだから。
(クラクションマジック参照)
愛しちゃってるんですよ、白石さんは。多分。
#多分て
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