+崇拝の対象+





「あら、カーレル。」

背後から声を掛けられる。
振り向くと、そこには白衣を纏った長髪の女性の姿があった。

「やあ、アトワイトか。」

その両手を塞ぐのは巨大なダンボールが三箱。
プラス、腕と箱の間に挟まれた幾枚かの紙の束。

「これはまた重そうだね。手伝おうか?」
「ありがとう。そうね、じゃあこれを持って貰えるかしら。」

私に渡されたのはダンボールではなく紙束だった。

「それ、落ちそうで怖かったのよ。」
「これだけでいいのかい?」
「ええ、いいわ。」

アトワイトはダンボールを抱えたまま笑う。
全く逞しい事だ。

「あと、医務室まで先導して扉を開けて貰えると助かるけれど。」
「勿論だよ。」

箱で通路を塞ぎそうになっているアトワイトの先へと進み出て、扉を開けていく。
医務室の扉を開けて紙束を彼女のデスクに置くと、私はダンボールを下ろすのを手伝おうと彼女の手から一箱奪って部屋の隅へと置いた。

「ありがとうカーレル、助かったわ。」
「いや、気にする事はないさ。」

二つ目の箱を受け取ると、アトワイトがそう言った。
最後の箱を床に下ろす彼女を眺めながら、ふと昔の事を思い出した。

「お礼にお茶でも淹れましょうか。」
「お邪魔してもいいのなら。」
「ええ、勿論。」

アトワイトが笑いながら、紅茶の缶を取りに向かった。
その背中は女性らしさの溢れる華奢なラインだった。

ああ、昔は大きな背中だったのに。

「アールグレイでいいかしら。」

彼女の好きな茶葉。
微笑んで頷く。

ハロルドが放心状態だった際、大人が自らの傍に近づく事を恐れるハロルドの面倒を見てくれたのが、アトワイトだった。
テキパキと世話を焼くその後姿を、とても頼もしく思ったものだ。

「アトワイトの好きなので、構わないよ。」

そう、それ以来、私は彼女に頭が上がらないのだ。



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