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おだじまわんとくすりうりにゃん版お題「こ」です↓







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握り締めた退魔の剣がりんと鳴る。

知る人は皆、先においていってしまう。

かちかちと音がした。

音がする限り物の怪を斬らねばならぬ。

人が在る限り物の怪は消えてなくならぬ。







目が覚めた瞬間夢は霧散した。

もはやどんな夢を見たかすら覚えておらず、

しかし背筋にぞわぞわとしたものが走り指先が冷たくなるような切なさに、

猫は思わず後も見ずに駆け出した。

朝はまだ早い。

やっと白む空、鳴き始めた烏。

世界に、だれも、いない。

積んであるブロックを頼りに塀を越え、生垣の下を潜り抜け。

「小田島様」

いつものように自分の気配を感じ取って、のそのそと姿を現す黒犬に走り寄る。

「小田島様」

甘えるように擦りつくと、これまたいつものように一歩引こうとした小田島が動きを止めた。

戸惑ったような躊躇いに、あぁ、ばれている、と思うが、止められない。

今はとにかくこの温かい生き物に、縋りついていたかった。

「薬売り?」

小さな声が頭上から落ちる。

答えずに、鼻先を胸元に寄せた。ほんの僅かな間をおいて、湿った鼻先が降りてくる。

なだめるように背を擦られ、もう一度名を呼ばれる。

答えを要求する呼び方ではなく、自分を落ち着かせようとするためのそれ。

「しばらく、こうしていて・・・構いませんか」

「ああ」

静かな声と、変わらず擦られる背中。

人であったなら抱きしめられているのだろうか。

この温かい体に包まれることができるなら、人であればよかったと思う。



あぁ、でも、ひとであったなら、このひとといっしょにはいられない。







目が覚めた瞬間夢は霧散した。

もはやどんな夢を見たかすら覚えておらず、

しかし背筋を走る切なさの真ん中に、真冬に指先を暖めるような幸せの残滓を見つけて

薬売りは少しばかり首を傾げてから、小さく笑った。

悪い夢では、無かったのだろうから。


















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