「なのは」

本局の廊下。視線の先。見慣れた亜麻色の髪。
思わず心がはねて、上ずりそうになる声を抑えて呼びかければ。

「フェイトちゃん。」

笑顔で振り向いてくれる君。
振り返る拍子にサイドに束ねた髪がさらりと揺れる。
そんな些細なことにもときめいて。
君の一挙一動すべてが私のこころを惑わす。

「お疲れ様。教導終わったの?」

「うん。今回はちょっと人数が多かったから大変だったなあ。フェイトちゃんは?」

「私は報告書届けたら今日は上がりかな。」

かわいらしい笑顔。
なのははいつだってその顔を崩すことはない。
そんな彼女が大好きで、そんな顔をいつまでも見ていたくて。
そしてそんな彼女の笑顔を独占したいと感じてしまう私。

今日は仕事が早めに終わったから。
もしなのはが時間があったら一緒にご飯とか食べたいな。
そう思って声をかけようとしたとき・・・。

「おっ、高町!いたいた。今日の教導隊の集まりお前も来るだろう?」

なのはと同じ教導隊の制服を着た人がなのはに声をかけてきた。
誘おうかと思って開きかけた口はその言葉を聞いて力なく閉じる。

「あっ!忘れてました。」

「おいおい。みんな楽しみにしてたんだから。これないなんてないよな。」

「あはは、大丈夫ですよ。忘れてただけですから。」

「そうか。じゃあ、そろそろ行かないか。」

そう言葉をかける教導隊のひと。
私は自分の居場所を見失ってしまったようなこの場にいるのがひどく居心地が悪いような気になる。

「あっ、はい。すぐ追いつきますから先に行っててください。」

そういってその教導隊の人から私に向き直るなのは。
その人はたちさるでもなく、一歩引いてこちらを見ている。

「それじゃ、またね。」

そういって立ち去りかけるなのは。
残念な気持ちを抱えつつも私はこれ以上どうしようもできない。

「あっ、なのは・・・。」

思わず声をかけて。
不思議そうに振り返る君。前髪についたごみを目ざとく見つける。

「ごみ・・・。」

そうつぶやいて手を伸ばす私。
ごみなんて本当についていたのか。ただ、彼女に触れたいと思う私が勝手に見せた幻なのか。
手を伸ばす私におとなしくその場で制止する君。

このまま手を君の首にかけて引き寄せてキスをできたらなんて考えてるなんて君は思いもしないのだろうな。

軽く前髪に触れた手をひっこめればありがとうって微笑んでくれる君。
その笑顔に胸がつぶされそうにいたむ。
ばいばいって言って別れて背中を見送る。

今日の集まりになのはに気のある人は何人いるんだろうなんて考えて。
そんなこと考えても仕方ないのに。

教導隊のその人がなのはの隣を歩く。
ちょっとでも近づけば手でも触れてしまいそうなそんな位置。

君は鈍感で。
君は誰にでも優しくて。

不安で不安でどうしようもない。
あんな風に前髪に触れるのも。
手が触れるくらいにそばを歩くのも。

私だけならいいのに。



―君は誰にでもスキだらけ。



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