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※clap sss 08の続きです。














それは偶然の再会だった。


最初に気づいたのは快斗の方で、気づいた瞬間手を振っていた。そう
してから、手を振るほどの仲でもなかったことを思い出したのだが、
これも何かの縁だろう。
快斗に気づいた彼は、席を探してきょろきょろするのを止め、少し驚
いたように目を丸くしながら快斗に近寄ってきた。

快斗は手で向かいの席を示した。

「久しぶりだな、霧島」
「黒羽。日本に帰ってきてたんだな」

霧島が向かいに座り、やってきたウェイターにカフェラテを注文する。

彼はスーツを着ているも、学生の時とほとんど変わらなかった。見た
目も、雰囲気も。

「三ヶ月前から日本に拠点を移したんだ」
「工藤も一緒?」
「当然」

笑みを深めた快斗に、霧島は苦笑した。

「マジック修業はうまくいったみたいだな。名声はこっちにも届いて
たぜ」
「まあね。霧島は? 今何やってんの?」

格好を見るに、サラリーマンか。

すると、彼はウィンドウの外を指差した。

「そこの出版社に勤めてる。今日は作家さんに会ってきたからスーツ
来てるだけ」
「え、そこって大学館? 俺今からそこの雑誌のインタビュー受ける
んだけど」
「そうなのか」

それじゃあ仕事の邪魔しちゃ悪いと霧島は腰を上げようとしたが、相
手が来るまでまだ時間はたっぷりあるからと引き止めた。

「それにしても、よく俺のこと覚えてたな」

運ばれてきたカフェラテを啜りながら霧島が意外そうに言うのに、快
斗は曖昧に笑った。
話したのは一度きりで、学内の有名人であった快斗はともかく、霧島
は印象に残りやすい男でもない。

だが、快斗は彼を忘れるわけがなかった。ずっと見つめ続けた新一の
友人で、何度そのポジションを羨んだことか。
今は一方的に、大きな恩を感じているのだけれど。

「霧島のことは、よく知ってたんだ」
「え?」
「新一の友達だったから」

霧島は納得したように頷いた。

「やっぱりお前らって、何かあったんだな」
「まあね」

あの時は否定の言葉しか言えなかったが、今ならこんなに素直に言え
る。

「いやー、あの後大騒ぎでさ。講堂前で告白すると成功するっていう
ジンクスまでできたんだ。まだ語り継がれてるんじゃないかな」
「ハハ……」
「夏休み明け最初の学内新聞の一面に、お前らの告白シーンの写真が
載ったんだけど、知ってたか?」
「いや、知らなかった」

懐かしい。
当時は色々なことがいっぱいいっぱいで、ついあんな目立つところで
プロポーズしてしまった。思い返すと、新一には少し悪いことをして
しまったとも思うが、それも含めていい思い出だ。

「それで、結婚はしたのか?」
「帰国する前に、向こうで式を挙げたんだ」

霧島は微笑を浮かべて「おめでとう」と言った。大げさに表情が動か
ないのが彼らしくて好ましく感じる。

「工藤は相変わらず探偵やってんだろ?」
「ああ。危ないことにならないか冷や冷やさせられっぱなし。ま、そ
ういう大胆なとこにも惚れたんだけどね」
「惚気かよ」

霧島が苦笑する。

……ずっと、もし機会があったら聞こうと思っていたことがあった。
快斗はテーブルの下で手をぎゅっと握り、意を決して口を開いた。

「あのさ」
「ん?」

霧島がカフェラテのマグを置く。この緊張がどうか伝わりませんよう
に、と快斗はあくまで軽い調子で尋ねた。

「あの時……どこまで気づいてたんだ?」

霧島はきょとんとした。
意味がわからないならいい、と快斗は言おうとしたが、再び口を開く
前に彼はああ、と思い至ったように頷いた。

「いや、どこまでっつーか……」

視線を下げて、左右に揺らす。

「何か工藤って黒羽のこと意識してんのかなって思うことはあったし、
そんであの日話してみたら黒羽も工藤のこと気にしてるっぽいし、何
かあるのかよお前ら、とは思ったけど。まさか恋愛感情だったとは思
わなかったな」

霧島は思い出すように眉間に小皺を寄せ、前髪をくしゃりと掴んだ。

「あー、ホント上手く言えねぇんだけど……違和感、かもな」
「違和感?」
「何に対する違和感かは俺もよくわかんないわ。でも、お前らの関係
については何も知らなかったけど、遠目に二人が手を取り合ってると
こ目撃した時、やっとしっくりきたっつーか。妙に納得したっつーか」

霧島自身、その感覚を明確には理解していないようで、彼は首を傾げ
ながら唸る。

だが、その答えで快斗には十分だった。

「そっか……ありがとな」
「ん? おー」



その後、霧島はそろそろ社に戻らなくてはならないと、腰を上げた。

「あ、そうだ」

荷物を持った霧島の前で、快斗はパチン、と指を鳴らした。

「?」

ちょんちょん、と自分のジャケットの胸ポケットをつつく。
つられるように自分の胸ポケットへと手をやった霧島は、指先に触れ
た覚えのない存在に驚いて見下ろした。

白い封筒。中には二枚のチケット。

「え、これ……!」
「暇だったら来てよ。そこそこの席だから」
「いや、でも、黒羽のショーってプレミアなんじゃ……」

常に落ち着き払っていた霧島が初めて慌てるのを見て、内心脂下がる。

「ほんのお礼だからさ。な?」

彼は尚も何か言おうとして口を開きかけたが、結果が先に見えたのか、
諦めたように口を閉じた。

「……お前らって揃いも揃って、気障だよな」
「どーも」
「ありがとな。絶対行く」

それじゃあ、と手を上げて去っていく。

あの時、偶然第二食堂で彼の斜向かいに座って言葉を交わさなければ、
ニューヨークでの新一との甘い生活は実現しなかったかもしれない。

彼は、あれが一体何の礼なのかわかっていないに違いないけれど、そ
れで構わないと思いながら、快斗は彼の後ろ姿を見送るのだった。
















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