拍手ありがとうございます。
感想をもらえると更新速度が早くなるとかならないとか。
連載2話のちょっと前にあたる番外編です。どうして主人公に編曲の話が来たのかという裏話。
三人称で書くのが苦手なのがよくわかる感じになっています…。








そのころの彼女たち
――Love Live!合唱部μ's編





音ノ木坂学院の屋上にて、三人の少女たちが一台のノートパソコンを中心にして集まっている。
小さなスピーカーから流れるのは彼女たち、μ'sにとって記念すべき初めての曲。
一様に顔には笑みを浮かべ、今後の活動への期待に胸を膨らませた。
μ'sのリーダーである穂乃果はその場に立ち上がり、他の二人を見た。


「せっかくだし、歌ってみようよ!」


穂乃果の言葉に、メンバーの一人であることりは笑みを深めて同意を示す。


「そうだね。やってみよっかあ」


ことりはデスクトップ上のカーソルを再生ボタンまで動かす。
いつでも歌い出せるように穂乃果は背筋を伸ばし、呼吸を整えた。
事のなり行きに、もう一人のメンバー海未は慌てて尋ねた。


「え……ほ、本当に歌うんですか?」


二人は言葉ではなくやる気に満ちた笑顔で応える。
それを見た海未は自分の味方がいないことを悟った。
ついには渋々といった様子でその場に立ち上がるのだった。
ことりは二人の準備が良いことを確認すると、再生ボタンをクリックした。
そして立ち上がった二人に倣い、その場に立ち上がった。
曲の始まりを告げるピアノのメロディが流れ、三人は大きく息を吸った。



『I say...』



海未の書いた歌詞に、真姫の作った曲。
CDに入っていた曲の出来は素晴らしかった。
しかし、曲の出来とは対照的に歌い終わった彼女たちの表情は冴えないものだった。

三人はお互いの顔を見合わせ、皆の気持ちが同じであることを察した。

音が外れていたわけではない。
リズムがずれていたわけでもない。
それぞれの歌声も特別酷いものではない。

音が揃い、リズムが合い、歌声がそれなりに綺麗に重なっていたからこそ感じることなのかもしれない。


「なんていうか……」

「これって……」

ぽつり、と穂乃果が口を開いた。
それにことりが続くと、共通していた気持ちを海未が吐露した。


「合唱……でしたね……」


ピアノの伴奏の中、同じパートを声を揃えて歌う。
彼女たちはまるで合唱コンクールの参加者のようだった。
想像していたものとは異なる出来に、その場には微妙な空気が流れていた。
穂乃果は一人、頭を抱えて地面に膝をついた。


「うわあああ!なんでだろう!どうしよう!」

「うーん……。パート分けした方がいいのかも?」

「え、ソプラノとアルト?」

「ますます合唱じゃないですか!」


二人の的はずれな意見に海未は声を荒らげる。
思いがけないところでの躓きに、少女たちは予定しているファーストライブへの不安を禁じ得ない。
確かめるようにして再び歌ってみたところ、やはり合唱のような出来であった。





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歴代の音楽家の肖像画に見守られるようにして、音楽室には二人の少女がいる。
一人はμ'sのリーダー穂乃果。もう一人はμ'sの曲を作った、一年生の西木野真姫だ。
穂乃果の話を聞いていた真姫は「知らないわよ」と言って、脚を組み直して穂乃果から目をそらした。
真姫はピアノに手を触れ、自分の世界へと戻ろうとした。
しかし「ええー!」という声をあげ、穂乃果が泣きついて来たことで、それは不可能となった。


「西木野さんがせっかく作ってくれたのに、これじゃあ私たち合唱部だよー!」


真姫の頭には三人が並んで合唱する姿が浮かび、その想像を振り払うかのように咳払いをした。
うっかり合唱部になりかけた原因にμ'sのメンバーたちは気づかなかったようだが、真姫には心当たりがたった。
まず第一に、彼女たちは同じパートを全員で一斉に歌ったこと。言わばユニゾン。斉唱。
歌うパートを決めずに終始同じメロディを歌っていたため、それが一層合唱感を引き立てていたのだ。
そしてもう一つの原因は、真姫が作った曲がピアノ弾き語りであるということ。
一般的なポップスとは異なり、ピアノの音だけなので合唱のような雰囲気になったのだ。
真姫は「私が作ったわけじゃないけど……」と前置きをしてから、自身の考えを告げた。


「他の楽器の音を足したらいいんじゃない?ピアノだけだから合唱ぽくなるのよ」

「な、なるほど!西木野さんは――」

「……できないわよ」


真姫の視線は自然と鍵盤の上へと向いていた。ピアノには自信があるが、他の楽器は経験がなかった。
それを恥じているわけではない。だが、ほんの少しだけ後悔があった。
μ'sのことを考え、後悔の念を抱いていることから、真姫が彼女たちにすっかり肩入れしていることがわかる。
本人はその事実に気づいていない。しかし相対している穂乃果は真姫の気持ちに少なからず気づいていた。
だからなのだろうか。穂乃果はとても明るい、そして優しい笑顔を浮かべた。


「うん、わかった!みんなでなんとかしてみる。西木野さん、ありがとね!」


そう言うが早いか、穂乃果は立ち上がって真姫に手を振って、音楽室から出て行った。
滞在時間はほんの数分。嵐のようだとはこういうことを指すのかと、真姫はこっそりため息をついた。


「他の楽器、やっておけばよかったかな……」

あの人みたいに。と心の中でぽつりと呟く。
いろんな楽器を手にして、楽しそうに歌う憧れの人の姿を思い浮かべて、真姫はそっと鍵盤に触れた。






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「……やってくれる人、いるかも」


最近の日課である体力作りを終え、ことりはある人物のことを考えていた。
友人たちには秘密にはじめたアルバイト。それを通して知り合った人。
初めて出会ってから既に一年近くが過ぎ、話をするようになってからも結構経った。
彼女を友人と呼んでいいのか、ことりにはわからなかったが、そう呼べれば良いと常々思っていた。


「え!だれだれ?二年生?」


おあずけを食らっていたペットのように、すぐさま食いついたのは穂乃果だった。
ことりと海未にはぶんぶんと振られた大きなしっぽが見えたような気がした。
はたして楽器をやっていたような子はいただろうか、と穂乃果は音ノ木坂の二年生の友人たちのこと思った。


「あ、ううん。他校の人なんだけど……バンドをやっているみたいなの」


バンドをやっている他校の友人。ことりから出たとは思えない言葉に他の二人は顔を見合わせた。
どちらかというと性格は大人しい方で、小さな頃からの友人であることりにそんな友人がいたのかと。
驚いた気持ちをそのままに、海未は意外そうな顔をした。


「ことりにそんなお友達がいたんですね」

「友達……だといいんだけどね」


知りませんでした、と言う海未に穂乃果はうんうんと同意を示した。
ことりは苦笑いを浮かべる。自分たちの関係が友人というものに当てはまるのか疑問だった。
彼女の名前と、バンドをやっているということは知っているが、連絡先すら知らない。
当然お店以外では会ったこともない。どんなバンドをやっているのかも、ことりの知ることではない。
ことりの少しだけ陰りのある表情に穂乃果は首をかしげた。


「その人、どんな人なの?」

「えーと……よく食べる人、かなあ」

「「よく食べる人……」」


海未と穂乃果は同時に横綱のような人物像を思い浮かべた。
ますます予想外な友達だと海未は思った。そしてことりの、愛おしげな表情に再び驚くこととなった。


「それでちょっとクールな感じで、かっこよくって。あ、でも可愛くって、おもしろい人なんだけど優しくて……」


その人のことを考えて表情を緩めることりは、二人にはとても幸せそうに見えた。
次々に出てくる言葉はどれもその人を賞賛するようなものだった。
ことりの友人を表す言葉の数は、この世にはこれほどまでに褒め言葉が存在するのかと関心するほどだ。
一呼吸置いたことりに、海未はにっこりと微笑んだ。


「なんだかことり、その人に恋しているみたいですね」

「ふぇっ!う、海未ちゃんっ!?」


海未の言葉に、ことりはわかりやすいくらいに真っ赤になった。
そして茹でタコのようになった頬を隠す術もなく、あわあわと両手を振って否定の言葉を並べる。


「ち、ちがうよっ!女の人だしっ!ただかっこいいなあって思うだけでっ」

「うふふー。今度その人紹介してね!たのしみだなーことりちゃんの好きな人!」

「だ、だから違うんだってばー!」


穂乃果はいたずらっぽく笑って、ことりをからかった。
彼女たちの初めての曲の話をしていたはずが、すっかり目的が変わってしまっていた。

この後、偶然会ったことりの友人である三浦 愁を前にして穂乃果と海未は「なるほど」と納得することとなるのだった。













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