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感想をもらえると更新速度がちょっと早くなるかも,
申し訳程度にラブライブ連載番外編書いてみたり。







そのころの彼女たち

――Love Live!愛の大きさ編






ゼロ円でスマイルを提供する某ハンバーガーショップにて、私たちは絶賛お食事中である。
音ノ木坂学院生徒会副会長という何やら偉そうな役職名を持つ友人と、珍しく二人きり。
普段ならば共通の友人であるえりちかもいるはずなのだが、生憎今回は不在。
というのも二人で遊ぶ約束をしていたわけではなく、道端でばったり会い、話の流れでこのような現状になっているからだ。
希がひとつのハンバーガーに念を送っている。どうやらスピリチュアル的な何かでカロリーを減らそうとしているらしい。
女子高生には死活問題のカロリーである。無駄な努力をするくらいなら食べなきゃいいのに、というのは禁句だ。
希の頑張りを尻目に、私は三つ目のハンバーガーに手を伸ばしていた。



「相変わらずよう食べるなあ」

「そっかなあ?」



同時に飲み物のようなペースで減っていくフライドポテトを見て、希は呆れを通り越して尊敬の念すら抱いているようだ。
私の中の小さな宇宙はじわじわと広がりつづけ、ハンバーガーの投入でさらに成長を見せた。
宇宙は広がりつづけているという話だが、私の胃も負けてはいない。
俺の胃袋は宇宙だと誰かが言っていたような気もする。
希は念を送り終えたらしいハンバーガーにかぶりついた。はたして意味はあったのだろうか。
私がそんなことを考えているとは露知らず、希はトレイに置かれたハンバーガーの包み紙の数々を見て疑問を口にした。



「愁って、昔からそんなに食べてたん?」

「いや。小さいときは人並みだったよ」

「それがどうしてこうなったんや……」



そもそもその体どうなってるんや、と希は私の顔とハンバーガーを親の敵のように見る。
カロリーオフのおまじない無しで体型を維持していることへの恨み言だ。
それなりに運動していることが体型維持に繋がっているのか、単純にトイレに行く回数が……ゲフンゲフン。乙女(笑)のプライバシーは守られるべきだろう。

今は人並み以上に食べると言っても昔は違った。
これは成長期とは違う、もはや拷問と言ってもいいような日々が関係している。
全く穏やかではない言葉が出たが、それもこれも簡単に言ってしまえば、そう。




「愛ゆえに、かな」




小さなころのエピソードの影には大抵幼なじみの存在がある。
私が大食いタレントもビックリな胃袋へと成長した理由というのも例外ではない。
希が話の続きを促したため、ちょっとした思い出話のはじまりとなった。





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私の胃袋が小宇宙へと変わることになった原因、そのはじまりはえりちかのおばあちゃん手作りのボルシチだった。
当時小学生だった私は、そのとき既に絢瀬家に毎日のように出入りしていた。
おばあちゃんには色々とお世話になったが、夕食を振る舞ってもらったことも多い。
自分の家では決して味わうことのできない異国の料理が私は大好きだった。
ロシアでよく作られるという、赤い色をした具だくさんのスープであるボルシチ。
それはおばあちゃんの料理の中でも特にお気に入りだった。



「あー!もうなにこれ!すっげーうまい!」



うまいうまいと何度も言い、おかわりまでする始末だ。
ちなみにこのときのおかわりは一回だけ。まだ一般的な女子小学生と同程度の腹具合でだった。
このときえりちかの様子に気づいていれば、その後の大食漢への道は閉ざされていたかもしれない。これにはちょっと後悔しないでもない。

おばあちゃんのボルシチの日からしばらく経った。
その日は珍しく、というか初めてえりちかが夕食を作った。
メニューは本人曰く「ごろごろ野菜のボルシチ」
ごろごろ野菜と言えばなんだか聞こえは良いが、要はほとんど切らずに鍋に放り込んだのだ。
なんでも料理は数えるほどしかやったことがなかったらしい。それでいきなりボルシチに挑戦しようとは中々強気だ。

「愁、ボルシチ好きって言ってたから」そういって出された料理に文句なんて言えるわけもなかった。
見た目には不安があったがおばあちゃん監修だったので、そんなに不味いものが出来上がるとは思えなかった。
実際食べてみると、おばあちゃんほどではないが良い出来だった。



「うん、おいしい!」



私の感想にえりちかは満足げに笑った。
そして死刑宣告とも言える言葉を告げたのだった。



「いっぱい作ったから、おかわりしてね!」



それはもう本当にいっぱいだった。
小型犬ならすっぽり隠れてしまう大きさの鍋に赤いスープが溢れんばかり。
恐らく世界中でもわんこそばならぬ、わんこボルシチを経験したのは私くらいのものではなかろうか。
皿が空になるとすぐさま新たなスープが注ぎ足される。
パンもサラダもなしに延々とボルシチのみ。ボルシチオンリー。
えりちかは私が食べ進めている様をにこにこと、それはもう輝かしい笑顔で眺めている。
時々どこが難しかったとか、どこを工夫しただとか、次のための反省点だとかを喋りながら。
食べる手を休めるとえりちかが悲しそうな顔をする。私は休むことなく食べ続けた。

何杯目かも忘れるほどの量を食べ、流石のえりちかも皿に追加することをやめた。
グロッキー状態の私の耳には「明日も作るね!」と言うえりちかの嬉々とした声が聞こえていた。

それから数日間、えりちかによる手料理大会がは開かれた。
中でもつらかったのはロシア風餃子とも称されるペリメニが三日間続いたことだろうか。
初日はイマイチな出来だったため、次の日に改善して出され、三日目には満足のいく出来になったらしい。
少量の料理を出されるならば苦痛ではなかっただろう。しかし何を思ったのかそれらは全て尋常ではない量だった。
純粋な好意からの手料理大会を拒否出来るほど、私は心を鬼には出来なかった。
ついにおばあちゃんからの制止が入ったのか、それとも単純に飽きたのか。
理由は定かではないがこの責め苦は数日のうちで終わり、その後しばらくはロシア料理を見るのさえ嫌になった。

喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。このイベントはその後定期的にやってきた。
幼馴染みは私を関取に仕立て上げようとしているのかもしれない、とさえ思った。
しかしやはり私は甘んじて受け入れてしまう。そして気づけば私は一般的な女子高生のそれとは明らかに異質な胃袋を持つようになっていた。




「全部食べるとさ、えりちか……嬉しそうな顔するんだよね」




ちょっぴり照れたような、それでいてキラキラとした笑顔が浮かんだ。
それを見られると思うとついつい頑張ってしまうのだ。
胃袋成長秘話を聞き終えると、希は感心したようにしてぽつりと呟いた。




「愛やなあ……」




愛の大きさは胃の大きさに直結している。
未だに成長の兆しが見えるそれに、私はそう思わずにはいられないのだった。









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