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慎重に人払いをしてから、篠原は言葉を選びつつ切り出した。

「まず考えられるのは、彼がサイボーグだと言う可能性だね。それだと彼の運動能力の高さも、視聴覚範囲の広さも頷ける」

「視聴覚範囲?」

「そう。久美子ちゃんは気になったこと、ないかい?彼は遠赤外線から真空紫外光まで見ることが出来るし、数mHzから数百kHzまでの音を聞くことが出来るようだ」

そう言えば久美子にも思い当たることがあった。先日、慎とふたりで爆破事件に巻き込まれたとき、粉塵と煙のせいで視界がほぼゼロだったのにもかかわらず、慎は的確に方向を見定めることが出来たし、久美子の携行センサーでは拾いきれなかった低周波の発生源を知っていた。

「それに、彼は久美子ちゃんと互角に戦えるって言うじゃないか」

「互角にって言っても、たかが高校の実習ですよ?使ってる機体だって旧式の奴で、危なくないように機能制限付きですし」

「それでも久美子ちゃんと張り合える人間なんて、俺は京さんくらいしか心当たり、ないよ?」

「もう、先生ったら人を化け物みたいに・・・」

「ふふ・・・褒めてるんだよ」

にっこり笑う篠原に、久美子はつんと口を尖らせた。

「サイボーグなら筋力強化の他に、反射速度も上げられるからね。あの強さも説明できる」

「でも、もしサイボーグなんだとしたら、随分と豪勢に改造したもんですよねぇ」

「そう。サイボーグ手術を受ける人間の大半は手足が利かなくなったり視聴覚が衰えたりした人々だ。もちろん、趣味で肉体強化をしたがる人間はいるけど」

「それにはリスクも金もかかる、ってことですね」

「そうなんだ」

そこで篠原は一度言葉を切って、しばらくの間、壁際に置いてある花瓶を意味もなく眺めていた。瑞々しい百合は久美子が好んで篠原の部屋へ届けさせているもので、これだけはと高価な本物を取り寄せさせている。

「次に考えられるのは、彼がアンドロイドだと言う可能性だ」

「先生・・・」

久美子は息を呑んだ。人型アンドロイドは、ここ内惑星連合では禁忌中の禁忌だ。その事情がどうあれ、当局に見つかれば該当筐体は即破壊、所持はおろか情報隠匿することすら第一級犯罪として厳罰に処される。

久美子は慎が家に来た日のことを思い出していた。

「ネックレス?」

「そうなんです。あいつ、一番始めにうちに来たとき、銀のネックレスしてたんですよ。SHINって刻印があって、てっきり名前なんだと思ってたんですけど」

「識別番号だったかもしれない」

「ええ」

「それを外して、久美子ちゃんを見て、それから話はじめたんだったね」

「ええ、それまでぼんやりしていたのが、急にしゃきっとしやがって」

「仕組みはよく分からないけど、ネックレスを外すことが何かのスイッチになっていたのかもしれないね。彼が久美子ちゃんにくっ付いて離れないのは、ネックレスを外した人間だと言うことと無関係じゃないのかもしれないよ」

「そ、くっ付いてるとか、そんなことありませんてば!」

何とも思っていないのなら受け流せるだろうにと、むきになって否定する久美子が可愛くて、篠原は微笑んだ。

「とにかく」

篠原は顔を引き締めると声をひそめた。

「外出中、彼と一番多くの時間を過ごしているのは久美子ちゃんだ。なにがあるかわからない。充分に注意してくれよ」

「ええ、大丈夫です。あたしも黒田一家の人間ですから」

「ふふ、流石だね」




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