【 幽玄郷綺譚小話 ~ カッパの鼻唄 】 


 龍守の館の湯殿で、あったかも知れない出来事――。


 湯船で追いかけっこをして疲れた友樹は一息つくと湯船の縁に腰かけ――、一方カッパはまだ遊び足りなかった様子だったが、頭に両手を回しながら背中を下にしてまたぷかぷか浮いていた。そして――いきなり歌いだした。
「ボクら~まもーるっ 世界のまんなかで~♪ 今日も【蝕】がどこかで おき~て 桜乱舞♪」 
(あれ? この歌、どっかできいたことある?)
 初めて聞く歌だったが、何となく聴いたことがある旋律だった。
「と~きを廻せ 早く育つといい~♪ 悟浄おじさんのお土産 すくすく大きく育てよ~♪」
 カッパはかまわず、歌い続けている。しかし、それを聴いている友樹は、その歌を知っている気がするのにそれがすぐに出てこないので内心もどかしく思っていた。
「キュウリ食べたい キュウリ食べたい 夏のお供だよ♪ 加賀太胡瓜の 果肉は美味いよ」
 歌がようやくさびの部分に入り、その曲が何なのかやっと思い出せた友樹は声を上げた。
「あ~っ!」
「ん?」
 歌を邪魔されてしまったカッパは、何が起こったんだろうと言わんばかりに友樹を見た。
「聞いたことあると思ったら『マクロス』だ!」
「まくろす?」
 思わずオウム返ししたカッパに向かって友樹は大きくうなずいた。
「父さんが見てたロボットアニメのオープニングだ」
「ろぼっとあにめのおーぷにんぐ?」 
 カッパには意味不明の単語だったらしく、首を傾げている。
 友樹は、ロボットアニメのことを自分でわかる範囲で軽く説明し、オープニングのことも話した。
 そのアニメは深夜に放送していた番組だったが、ロボットアニメが好きな父親はそれをリアルタイムでは見られないので、録画したのを休日に見ているところに邪魔をして、たまに一緒に見せてもらっていた。
 母親はあまりいい顔をしなかったが、父親がたまに鼻歌で唄っているので何となくメロディを覚えてしまっていたのだ。
「へぇ~そうなんだ。アニメって色々あるんだね」
 友樹はうんとうなずきながら、疑問をぶつける。
「何で、カッパくんはその歌知ってるの?」
「たま~に神樹に登ると歌が聞こえたり何か見えたりして面白かったんだけど……」
「え? 見えたり聞こえたりとかするの?」
「うん。見るものは選べないけどね」


 カッパの『うりのうた』と、幽玄郷の神樹の不思議な話――。


 
カッパがメロンをむしゃむしゃしている図





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