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ヘルマ→ゲルトです。





初恋未満



「浮き足だつと言う言葉を、実態として見るとは思わなかったなあ」
「どういう意味ですか!」
 揶揄するようなニュアンスで言われて、ヘルマは反射的に食ってかかった。確かに、今は空中で、訓練の真っ最中。宙に浮いている事には違いはないが、先輩ウィッチの言う意味は決してそうではないことは、そんな洒落では無いのだと、結果心あたりのある事を自分で証明してしまい、ヘルマはちいさく歯噛みした。
「心ここにあらず、というふうに見えたけど?」
「そ、そんなこと、ありません!」
「そうかなあ」
 言って尚も面白げにヘルマの方を見やるので、ヘルマはぷい、と顔をそむけた。
「そう拗ねるな。じゃあ、私が魔法の呪文でも唱えてあげるからさ」
「魔法の、呪文?」
「そろそろ、大尉が着くころだ。格好悪い訓練風景なんて、見せられないんじゃないのか?」
「そ、そのとおりであります」
 むしろそれは、魔法の呪文どころか、呪いなんじゃないのか…!? 
「じゃあ張り切って、もうひとっ飛びだ」
「…はい!」
 心なし緊張が指先まで走る。魔道エンジンにひときわ力をこめて、ヘルマはジェットストライカーに力一杯加速を加えた。視界の端に遠く、黒いキューベルワーゲンが見える。
 気をとられてはだめだ、ヘルマ。
 そう言い聞かせて、ヘルマはひたすらに、青空に航跡を描くことに集中した。


 ストライカーを脱いで、シャワーを浴び、そそくさと身支度をして、司令室の方へ向かうと、廊下に無造作に置かれているカウチの背もたれに、短い金髪にのせられていることに気づきヘルマは眉をしかめた。
 金髪の心あたりには、瞬きよりも速く行きあたった、こんなところでだらしなく寝そべるような人間はこんなところには本来いない。
「ハルトマン中尉!」
「…んー…あと40分」
「何があと40分ですか…ここをどこだと思っているんですか!まったく、カールスラントの誇るエースたる 貴官がそれでは示しがつきません。カールスラント軍人たるもの」
「廊下でお昼寝しちゃいけないなんてきまりないもん」
「だからといって、どこでも昼寝をしていいわけではありません」
「じゃあなんでこんなところにカウチ置いてあるの」
「少なくとも、貴官の昼寝の為ではありません!屁理屈はよしてください」
「もう…そんな声でさわいだらじゃまになっちゃうんじゃないの」
 言われて、はっと口をつぐむ。そう、ここは、司令室の前。いくら目の前の先輩がだらしなく寝転がっていても、こんな大声でがなりたてていい場所ではない。
「…こほん。失礼しました。とにかく私は、数多あるカールスラント軍人の鑑であるべく貴官が、こうしてだらしなくしているのは不適切ではないと…聞いてください!」
 ハルトマンはまたもとのようにカウチの肘掛を頭にし、両足の間に手をはさんで目をつぶってしまった。
「小言の押し売りはトゥルーデのだけでまにあってますのでいりませんー」
 トゥルーデ。ハルトマンの口からバルクホルンの愛称が出て、ヘルマはまた、眉をしかめてしまう。
 この人は、当然のようにバルクホルンに日々カールスラント軍人のあるべき姿について説かれながら、それを聞き流しているっていうのか…。
「そのうち、見捨てられたってしりませんからね」
 ツンとした口調で言うと、ハルトマンは片目だけ薄くあけて、ヘルマをちらと一瞥して、また目をつぶってしまう。
 その態度が暗に「なにゆってるの?」といっているようで、ヘルマの頭にカッと血がのぼる。
「とにかく、起きてください。少なくともここは公共の場です!」
 と、ガチャ、と扉が開く音がしてその方に目をやると、バルクホルンがあきれた顔をして立っていた。
 頭に上った血が、顔に一気におりてきて、カッと熱くなる。
「何をやっているんだ、お前たち。中まで声が聞こえていたぞ」
「も、申し訳ありません!」
 慌てて敬礼とともに詫びると、バルクホルンは逆に申し訳なさそうな顔をして、
「ヘルマ・レンナント曹長、すまなかったな。こいつのだらしのなさはいくら言っても一向になおらなくて、だな。ところで、先ほど貴官のジェットストライカーでの戦果、聞かせてもらったよ」
これからも、貴官の活躍に期待している、そう付け加えられて、ヘルマの胸にじんわりと温かいものがあふれる。
「は!ありがたくあります!」
 それは至極簡単な言葉であったけれども、誰からの賛辞よりも嬉しい、憧れの人からの、評価。
 社交辞令や美辞麗句なんて言葉を用いない、まさに質実剛健カールスラント軍人の鑑のようなその人だからこそ、そんな言葉ですらヘルマの胸を温かくするには十分だった。
 それにしても、どうしてハルトマンのだらしなさをバルクホルンが詫びるのか、それが胸の奥に食べかすみたいにひっかかった。

 バルクホルンはほんの少しだけ優しく微笑むと、そんなやりとりの傍らでまだカウチと一体化しているハルトマンの方を向き、
「おいハルトマン、いい加減に起きろ。今日は休日じゃないんだぞ」
と、頭をこづいた。
「うー」
 ハルトマンは駄々っ子のような甘えた声を出し、目をこすりながら、それでも今度は素直に体を起こした。ヘルマが言っても、起きようとはしなかったくせに。
「ちゃんと目を覚ませ。居眠り運転をされては困るんだ」
「居眠りでもトゥルーデの運転よりはましだもん」
「いくら私の運転がまずいといっても、寝ているお前よりはマシだ」
「トゥルーデの運転なんて、ガクンガクンしてて乗れたもんじゃないよー」
「おまえなあ…」
 そこでバルクホルンは、コホンと咳払いをした。
 後輩であるところのヘルマに、少なくともエースと言われている人間がこんなたわけたやり取りをみせるわけにはいかないとでも思ったのか、照れくさそうに眉毛を下げる。
 はにかんだような表情は、これまで見た毅然としたバルクホルン大尉のそれとは違って、まるでふつうの少女のそれのようで、ヘルマは少し戸惑う。上官に対してそれは、非礼にあたるのかも知れないが…かわいらしい、表情だった。なんだかまた胸の奥に気持ちの悪いもやもやが生まれてくる。

「では、基地の皆にもよろしく伝えてくれ」
「は…はい!」
 バルクホルンは、ハルトマンをせきたてて立たせると、じゃあ、と言って廊下を歩きだす。
 ヘルマはきりっと、指の先まで力をこめて、精一杯きれいな敬礼をした。

「ああ、それと」
ふと、足をとめてバルクホルンは、言い忘れたかのように、
「来る時に見えた訓練中の軌道だが、正確だが若干力が入りすぎているように見えた。飛行に気をとられず、効率のいい魔力の配分を心がけるといい」
と、付け加えた。
 ちゃんと、見てもらえていた事にまた胸がわっと熱くなる。
「ありがとうございます!」
 耳が勝手に拾ってしまった、「ひゅーう、トゥルーデかっこいいー」「うるさい!茶化すな!」というやりとりは、聞かなかったことにした。






Fin.






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