『はたけさんちの九喇嘛くん』
ナルトがヒナタと結婚をしてからというもの、二人の時間を優先してやろうと九喇嘛はなるべくナルトに話しかけたり、存在を思い出させるようなことはしないようにと気を利かせていた。
なんせ俺の方がナルトより遥かに長生きしてるわけだしな。
小僧がやっと念願の家族をもったのだし、年頃の男なのだからというのもある。
しかし暇である。
任務に出ているときはナルトと一緒に戦っているため高揚感があるが、ナルトの私生活では深入りしすぎるわけにはいかない。
「暇だ…」
退屈を覚えること自体、長年、歴代の封印の器となる人間の中に押し込まれていた九喇嘛としては大きな変化と自由なのだが。
時代が変わりつつあるとはいえ、九尾の妖狐としての自分が人と交わり争うことのない日々は不思議なものである。
木の葉の里は先の戦争で復興途中であるが、徐々に活気が戻りつつあるのか今年は戦争後、初めてとなる祭りが開催されている。
里に降りて木の葉の夏祭りとやらを見てみたい。別に食べ物に興味があるわけでも、ナルトのやつがヒナタ相手にでれでれとした顔で過ごしてるのか興味があるわけでもない。けれども。
どんなものか見に行ってやれ。
九尾の狐はそのチャクラを変質させ形を変えると、自身の巨大な体を小さな狐へと変化させた。怪しまれないように尻尾はひとつだけに変えて。
よし、これでばれねぇだろう。
ナルトに見つかれば煩いから、こっそりと。
山の頂から麓に降りていき賑やかな音と声が響く場所へ降りて行ったのだけれども。
「なーんでバレるんだ!」
「そりゃあ、お前…ナルトとの付き合いが古いからお前のチャクラをよく知ってるし?一応俺、火影だからねえ」
「つーか、なんでお前こそ変化してるんだ」
首根っこを掴まれ、ぶすっとした表情で大人しくぶら下がりながら九喇嘛は十代後半の青年姿に変化した、はたけカカシを恨めしげに見上げる。
カカシは浴衣姿に下駄を履き、髪色を変えて口布を下ろした姿をしているではないか。おまけにもう片方の手にはイカ焼きを持っている。まったく忍びというものは簡単に変化をして仕事から逃げやがって。
「六代目が祭りなんか来るなよ」
「あのなぁ、それはこっちの台詞なんですけど。上手く押し込んでるのは流石だけどね、知ってるチャクラを感じると思って来てみたら…。ナルトが結婚して寂しいのはわかるけどさ」
「あほか!寂しいとかあるわけないだろ!離せ」
図星を突かれたのか突然じたばたと暴れる九喇嘛にカカシは溜め息を零し、はいはいと返事をしながら人混みから外れて裏道に入ろうとする。
ああ、つまらない。
ナルトの奴が任務に出て、思う存分暴れられればこんな事などせず惰眠を貪っていたのに。あんにゃろう。女の尻に敷かれやがって。
帰る、もう俺の寝床に帰って不貞寝してやる。そう思っていた九喇嘛だったが、ふわりと身体が浮いたかと思うと誰かの腕に抱かれるではないか。
「もう、猫の子みたいにそんな持ち方したら、九喇嘛が辛いでしょう」
自分を抱き締める腕の主を見上げれば、そこには鼻に目立つ傷を残す黒髪の少年がいる。頭の高い位置で髪をひとつに括り、まだ声変わりのしていない少年特有の高い声を放つその人物は。
「イルカ」
「九喇嘛も来てたんだね。お祭り、興味あったんだ」
「べ、別に俺様はそんなの…」
「ナルトが構ってくれなくて寂しいんだってさ」
「おい!」
「そうかあ。俺も子離れしなきゃって思うんだけど、いつまでも小さい子みたいに思っちゃって。だからよくわかるよ、九喇嘛の気持ち」
頭や背中、顎の下を撫でるイルカの指先が心地良くて思わず喉が鳴りそうなのを、九喇嘛は九尾の狐としてのプライドでぐっと堪える。
「…な、なんでお前ら、そんな格好してるんだよ」
「子ども時代のやり直し、かな」
「ふーん」
「いい加減イルカの腕から降りてくれない?俺たちデート中なんですけど」
「カカシさんってば」
「火影がねぇ、デートねぇ…」
「だから、もう」
だからなんだ?
カカシと九喇嘛が揃ってイルカの顔を見つめれば。
「デートだなんて、……恥ずかしいです」
顔を真っ赤にさせてイルカが呟いた。
やっぱり木の葉の里は平和だ。
けれども、こんな平和な世界を誰もが望んでいたんだろう。
するりとイルカの腕から抜け出すと、九喇嘛はカカシが持っていたイカ焼きを奪い取ると山の頂上へと戻っていった。
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