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テーマ:ランチはカレー



その1.イツキとヒビキ(全三作)



 通用口のドアを開けた瞬間から漂う、スパイシーなカレーの香り。

「今日のキッチンカーはカレーだ!」

 ヒビキは声を弾ませながら外に飛び出した。

 後から続いたイツキが背を伸ばし、視線の先にあるのぼりに目を留める。ポケモンリーグの通用口を出て、関係者通路と駐車場の間にあるちょっとした広場に「カレーライス」と書かれた黄色いのぼりがはためき、隣にはブルーのキッチンカーが停まっていた。最近、この場所にはリーグ関係者向けのキッチンカーが日替わりでやってくる。このカレー屋はガラル地方のカレーライスを販売しており、特に評判が高い。

「大当たり」

 ヒビキはじわれを命中させた時のような笑顔を見せ、イツキは思わず口元を緩ませた。

 今日の手合わせではその技を外したことが影響して自分に負けたので、余計に嬉しいのかもしれない。技を外して負けた代わりにバトル以外で運の良いことが起これば揺り戻しが来たような気がするのだろう。

「お昼はカレーに決まりですよね!」

 ヒビキが満面の笑みで振り向いた。

 元々、手合わせした後に二人で昼食をとるために外に出てきたのでちょうどいい。イツキは迷わず頷いた。

「そうだね。テイクアウトしてそこのテーブルで食べようか」

 広場にはいくつかのカフェテーブルが置かれており、そこでスタッフがのんびりカレーを口にしている。何人かがイツキに気付いてこちらに会釈した。そちらに気を取られている間にヒビキはキッチンカーに駆け寄って、店主に挨拶していた。

「イツキさんの味付けは?」

 ヒビキがメニューを示しながらイツキに尋ねる。

 ベースのカレーに味付けを伝え、好みでトッピングを追加するスタイルだ。

「ボクは辛口にしようかな。ヒビキは甘口だろ?」

「辛いのとか渋いのは苦手なんで……トッピングはどうしようかなー」

 今日のトッピングはあらびきヴルスト、ハンバーグ、モーモーチーズにフライ盛り合わせ、ゆでタマゴ。どれも魅力的で、そして加算額もなかなかのボリュームである。ベースのカレーの金額とトッピング表を忙しく比べるヒビキを見て、イツキがさらりと告げた。

「好きなの頼みなよ。何なら全部乗せで」

 ヒビキがぎょっとしながらも、わずかに期待を込めた眼差しをこちらに向けた。

「食事代を払うのが先輩だからね」

 余裕たっぷり答える姿が、ヒビキには後光が差して見える。

「神! イツキさん神ー!」

 そして、全部乗せ! と景気よく注文した。ヒビキのカレー皿にこぼれ落ちそうなトッピングの山が盛られ、店主が腕を震わせながら彼に手渡す。

「すごい! 夢みたいだ!」

 宝船を前にしたようにヒビキが声を弾ませた。食事を奢ってこういう反応をされるのは悪くない。

「席とっといてよ」

 イツキはすました顔で、しかし機嫌よくヒビキを席へ促した。その間に自分の注文を済ませ、まとめて会計しようと店主に向き直るが――

「先輩の鑑ですね」

 事情を理解しているような店主の笑顔。イツキは苦笑した。

「まあ、他の人と食事すると払ってもらってばかりだったから……」

 他の四天王やチャンピオンと食事をすると、自分が年下ということもあり財布を開く機会を滅多にもらえない。最後に奢った記憶も曖昧なくらいだ。イツキは受け取ったカレーを持ってヒビキが確保したテーブルへ向かうが、背中に当たる店主の温かな視線がむず痒い。居心地の悪さを覚えて、イツキはヒビキに提案した。

「やっぱり中の食堂で食べない?」

「えーっ、こんなに天気がいいのに……」

 先輩だから有無を言わせない。文句を垂れるヒビキをよそに、彼はカレーを持って建物の中へ戻っていく。








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