大きな手
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――大きな手・・・だと思った
書類を三番隊に届けた帰り、ばったりと出くわした恋次に午後のお茶に誘われたルキアは甘味屋で
卓を挟んで二人向い合って座っていた。
例によって恋次は鯛焼きをルキアは白玉クリームあんみつを注文した穏やかな午後。
頼んだ甘味が届くまでのちょっとした合間――
お茶を飲んだ恋次がほっとしたように気を緩めて卓に置いたその無造作な手から目が離せなくなった。
なんて大きな手なんだろう・・・と
いつも見ていたハズなのに改めて気付いてしまった。
体格同様に大きいのはもちろん知っていた。
だが、こんなにまで大きかっただろうか?!
こんなにも力強かっただろうか?!
隣に並んだ甘味屋の湯呑が自分が持つものとは同じものとは思えないほど小さく見えた。
やや赤味の強いよく焼けた肌は副隊長になった今も屋外で長い時間鍛錬している事がわかる
荒々しい言葉遣いや態度に不似合いな綺麗な長い指
刀を握るため指を支える手の甲を走る真っ直ぐで太い筋
人差し指の付け根に覗く「たこ」の厚ささえ
その大きな手が持つ力の強さを表しているようで羨ましくも悔しい
そして柄にもなく美しい手だと思った。
己と比較して悔しいと思うこと自体が間違っている事は分かっている
元より性別が違い体格も違うのだ
ましてや扱う斬魄刀の能力系統も違うのだから
分かっていてもそんな感情を抱いてしまうのは自分の負けん気の所為だ
じっと手を見ていたルキアに気づいて、「なんだ?」とばかりに見返す恋次に苛りとした気持ちが湧いて
思わず手を伸ばして恋次の手の甲を抓ってやった
「う゛ぉっ! いきなり何しやがる?!」
「いや、なんとなくだ・・・気にするな。」
とりあえず訳を言うのも悔しくてしれっと返して冷ややかな視線で見上げる
「ってか、なんとなくも気にするなっつーのもそのままなのもわかんねぇっ、バカルキア!」
唐突に手の甲に乗せられたふわりとした柔肌
一見痛そうな見た目だが実際はくすぐったい感触に驚いて変な声が出た
薄く皮膚を抓んだだけのルキアの指先なんて簡単に振り払える
いやちょっと力を入れて拳を握りさえすれば簡単に外せるだろう
だが、恋次は自分の手を一瞥して眉間のシワを深くしただけで胡散臭げにルキアの瞳を見返した
たまにあるこんな意味不明なルキアの唐突な行動に戸惑う
なんとかその行動の真意を読み取ろうとするだけ自分はルキアに甘いと思う
他のヤツなら速攻怒鳴るか、問答無用で殴り倒している
恋次から怪訝な表情から目線を外して手を見れば、重なった手の大きさはまるで子供と大人のよう
自分の子供じみた行いと相まって余計に自分の弱さと幼さを思い知らされた気がして悔しさが増した
理不尽な行動に対して怒るでも怒鳴るでもなく睨むだけの恋次を
すんなりこの悪戯から開放するのも悔しくてにやりと笑って見せれば、
恋次が眉間のシワを苦々しげに深くした後
表情を一転楽しそうににやりと破顔させて恋次の手を抓むルキアの手の甲を
反対の手で同じように薄皮を抓んだ
すると一瞬驚いた表情を浮かべたルキアも即座に反対の手でその手を抓んで
ふふんと鼻で笑って見せた
「お待たせいたし・・・・す、すみませんっ!!」
突然響いた明るい声が慌て戸惑うのに現実に戻される――
甘味屋の狭い卓上で手を伸ばして互いの手を取り合って笑顔で見つめ合う男女の死神
実際は手の甲を抓み合って憎々しげな笑顔で睨み牽制しあっているのだが――
矢絣を着た甘味屋の娘は真っ赤な顔でたい焼きと白玉クリームあんみつの乗った盆を卓に置くと
慌てて走り去ってしまった・・・・。
どう言い繕ってもその姿はたわけ同志だ!!
どんなにか滑稽に見えている事だろう!!
二人は互いに「お前がっ 詰まんねぇ事 すっから・・・」「だいたい貴様がっ・・」とぼそぼそと
小声言い争いながら甘味を忙しなく食べて店を出た。
「恋次の所為で二度とこの店に来れなくなったではないか!?」
「ってめ、人の所為にしてんじゃねぇよ!
お前が急にあんな訳分かんねぇ事すっからだろうがっ!!」
逃げるように慌てて店を出て人の少ない通りにまで行くと即座に言い合いを始める二人
口先と尖らせて恋次を見上げるルキアの頬が赤いのは沈みかけている陽の所為ばかりではないだろう・・
気付いてしまった恋次もまた顔が熱くなる感覚に戸惑う
今さらなんだっつーんだっ!!
睨むように見上げる大きな瞳から熱を持つ顔を見られないために
その小さな頭に大きな手を降らせて髪をかき回してやった
はい、無自覚バカップルでしたww
傍迷惑ですよねーwww
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
あとがき
Aug.12.2013
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