いつの間にか降り出していた雪が、未だ残ったままの薄汚れた雪に降り積もっていく。 石造りの城内の空気は冷え渡り、体の芯から熱を奪っていく。 指先も既にほとんど感覚がないが、そんなことは言ってられない。 手にした書類をめくり、動きにくい口でそこに書かれている報告を告げる。 何しろ、前を行く人の歩みは早い。 寒さを嘆いている暇など微塵もない。 相槌一つ返ってこないのが少し不安ではあるが、報告を止めるわけにもいかない。 「ですから前回の被害を鑑みまして明日は…!?」 手にした書類に視線を落としたまま足早に歩いていたが、突然目の前に出来た壁に慌てて足を止めた。 勿論、回廊のど真ん中に壁があるはずもない。 前を歩く人が、何の前触れもなく足を止めたのだ。 前を向いていなかったために危うくその背に突っ込みかけ、何とか堪える。 「どうかなさいましたか?な、何か不備でも…」 それとも気に触ることがあったのかと。 恐る恐る問いかけてみるも、返事はない。 ただその顔は、曇りかけた窓ガラスの方へと向けられている。 何かをじっと眺めるその横顔に首を捻り、それに倣うように窓の方へと目を向ける。 雪に覆われた白い景色。 その色のない中、一際鮮やかな赤が捜すまでもなく目に飛び込んできた。 「あれは…」 この城に、あれほど鮮やかな赤を持つ男は一人しかいない。 当然その赤は、己の部下であるその男。 「あいつは一体何を…あっ!」 ふらふらと歩く男を眺めていると、そこに色のないもう一人の部下が歩いてきた。 赤の男もそれに気付いたらしい。 何やらしゃがみこんだ赤は、雪を拾い上げるとそれを丸く固め…銀の男に投げつけた。 「あの馬鹿…!」 勿論それは銀に当たることなく払い落とされたが、何やら頭が痛くなってきた。 思わず悪態をついたが、隣から聞こえてきたのは低く笑う声。 驚いて主君を見るも、既にその人は再び前を向いて歩き始めていて。 不思議そうに目を瞬かせながら、ソロンは慌ててその後を追いかけた。 | |
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