ふんわりとした白い影が目の前を通り過ぎる。
空を見上げると、色のない灰色の空から白い影が無数に舞い降りてきた。
この数日、寒々しくも空は晴れ渡っていたのだが、今日は朝から重い雲が降りてきていた。
やはり降ってきたかと白い息を吐き出す横を、二人の子どもが走り抜けていく。
寒さで赤く染まった頬と、色鮮やかなマフラーが目に焼きつく。
足を止め、何気なく振り返ると、遠ざかっていく子どもの背中。
後ろを走っていた少年が、積もった雪に足をとられたのか、顔面から派手に転んだ。
足元は厚く積もった雪とはいえ、新雪でないそれは決して柔らかくはないはずで。
思わず眉を顰めたところで、転んだ少年ががばっと勢い良く頭を上げた。
先を走っていた年嵩の少年がその隣にしゃがみこむ。
顔を見合わせた二人が一瞬の後、おかしそうに声を上げて笑い出した。
その光景にシードの頬が思わず緩む。


本格的に降り始めそうな雪に備えて、家の前の道を舗装する壮年の男。
玄関に出て、雪の振る暗い空を不安そうに見上げる少女。
幼い子が、祖父と思しき老人の手を引いて滑りやすい道をゆっくりと歩いていく。
冬には毎年、ハイランドのどこででも見られる光景。
何気ない日常の一コマ。
何の変哲もない、その一コマがとてつもなく好きなのだ。
指先は凍りそうなほどに冷たいのに、彼らを見ているだけで何故か体の芯が暖かくなっていくのだ。
そしてその度に、この国が好きなのだと実感する。
彼らのこの日常を守るために、また戦場に立とうと奮い立たされる。
シードには国のことや政治のことは、あまりよく分からない。興味もない。
ただ大好きなこの光景を守りたいという、その気持ち一つしかない


雪は次第に強さを増し、ハイランドという国の上に新たに降り積もっていく。
「明日からの遠征は大変そうだな」
それでも、この光景を守るためだと思えば苦にはならない。
自分が少し頑張るだけで、この光景を守ることが出来るのだ。
雪が本格的に降り積もる前に城に辿りつくべく、シードは帰る足を速くした。



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