■拍手お礼@思いを込めて20題■ |
ふらりとお題サイトさまへ足を運んだらとても素敵なお題を見つけてしまったので、拍手お礼として作ってみることにしました。勝手気ままに遊んだ個人企画なので、雰囲気だけ楽しみ頂ければと思います。
(出来上がり次第増えていく予定です。現在2種のみ→TOG+空の軌跡) |
思いを込めて、
『07:隠します!見られたら困る物!(TOG/アスシェリ)』 |
子供の頃は何にでも溜めたがるものだ。例えば今となっては何の価値もない物、期限付きの物、どうして宝にしたのかすら思い出せない物。その時その時は煌めく思い出の形として大切にしてあったが、数年経てば真新しい記憶のものか、もしくは印象の強い記憶のものしか思い出せない。でも、『思い出の品』なんていうものはきっとそうなのだろう。ようは『思い出すきっかけ』のためにとっておくのだ。後生大事に。それが、時に未来の自分を窮地に突き落とすことになることも知らずに。
「しかし…我ながらこんなに物を溜め込んでたなんてな…」
今日は堪っていた仕事がようやく一段落ついたので、ずっと放っておいた部屋の片付け(物の整理)をしていた。家を不在にしてから母親がそれとなく整理はしていたみたいだが、やはり勝手に捨てることは出来なかったのだろう。綺麗に片付けられてはいたものの、私物の数が減っていることは無かったようである。
そんな、眼前に並んでいる様々なものを見つめていると、コンコンとノックが聞こえた。
「はい」
「アスベル? お茶を入れて来たんだけど、今入っても良いかしら?」
「シェリアか、構わないよ」
ありがとう、と言ってドアノブを回す音が聞こえ、静かに幼馴染みの少女が入って来た。片手には香り立つ小さめのティーポットとカップ、それからクッキーが載せられた小さなトレーを持って。そうしてベッド脇のサイドテーブルに置くと、ベッドの上に並んでる様々な小物や雑貨に目をやった。
「これ…全部アスベルの物なの?」
「はは、凄いよな。自分でもこんなに溜め込んでるなんて思わなかった」
「アスベルの場合、どこかに行っては『記念だー!』なんて言って、必ず一つは持って帰ったものね」
「今となってはどこでも自由に行けるから、『記念』の価値もなさそうだけどな」
「…そんなことないんじゃない?」
「え?」
シェリアはティーポットからカップへと紅茶を注ぐ。ほのかに甘酸っぱい香りが漂うそれは、この領特産のリンゴを使用したアップルティーだ。少し軽くなったティーポットをトレーに置き、代わりにカップをソーサーに乗せてアスベルへと手渡す。
「もし仮に、同じ場所で同じ物が手に入ったのだとしても、昔と今じゃ何もかもが違うのだから、昔と同じ気持ちになるなんてことはあると思えないわ。だとすれば、きっと全く同じ物なんて何もないのよ。昔に得た物は昔の、今に得た物は今の価値があるんだわ。…私は、そう思うけれど」
「シェリア…」
「思い出って、そういう物じゃない? アスベル」
ああ、思い出とはそういうものだ。ちゃんと分かっているのに。まるで昔食べたことのあるものの味を、今食べ直して『こんなに美味しかったのか』と再確認するような、そんな既視感にも似た感覚。忘れてなんていないのに。心の奥底にいつの間にか埋まってた煌めくものを、掘り起こして掴んだような感覚。
そんなことを思いながら、アスベルは付け合わせのクッキーをつまみ、受け取ったカップの紅茶を一口飲んでテーブルに静かに置いた。
「…ああ、きっとそうなんだろうな」
「ふふ」
にこりと笑むシェリアに、アスベルも相槌を打つかのように笑う。
「でもそう思ったら、尚のことこの宝の山は捨てられないんじゃない?」
「うーん…。輝石の欠片みたいな利用価値があるものはそのまま使ってもらって、俺が残したいのだけは倉庫に入れることにするかな…──っ!」
ふと再度ベッドに目をやった時、チカリと光る『あるもの』が目に入る。それは伝説の聖剣:エクスカリバーを模したレプリカキーホルダーで、刀身のところがガラスのような透明な素材で出来ており、傍目にも美しい品だった。また、鎖のところには銀のプレートが繋がっており、そのプレート部分にはなにやらメッセージが刻まれている。これも、今となっては普通に買える王都来訪記念の定番土産なのだが、これはまずい。非常にまずい。決して知られるわけにはいかない。
「ん? どうかしたのアスベル?」
「あ、いや…」
「あれ? そこにあるのって…」
なんとか彼女の視線を向かせずに『それ』をポケットへ隠したかったが、運悪く見つかってしまった。真っすぐ『それ』へ手を伸ばしかけたシェリアよりも早く、そのキーホルダーを掴んで急いでポケットへ仕舞う。それはさながら彼に与えられし称号:瞬光剣士のような動きだった。
「え? ちょ、ちょっとアスベル、何で隠しちゃうのよ!」
「あ、いや、これは…」
「別に見せてくれても良いじゃない、っ!」
上着のポケットに手を伸ばそうとするシェリアの腕をかいくぐり、アスベルはこの窮地を打開する方法を必死に考える。
「…あ、ああ、そうだ! シェリア、今日の晩ご飯はカレーが良いな!」
「話逸らさないっ! それにカレーは一昨日食べたでしょ!」
たまたま部屋の近くを通っていたソフィが、隣を歩いていたヒューバートへと訊ねる。
「ねえヒューバート、アスベルがシェリアに見せないものってなんだろうね?」
「──ああ、多分兄さんがシェリアから誕生日に貰った剣のキーホルダーでしょう」
「すごーい。どうしてわかるの?」
ヒューバートは少し下がったメガネの鼻当ての部分をクイと直して口を開いた。
「兄さんが初めてシェリアから貰った誕生日プレゼントですし、本人も結構気に入ってたみたいでしたから」
* * * * *
アスシェリが始めて知り合った後始めての、シェリアからの誕生日プレゼント。イメージは8歳前後。
アスベルは思い入れの強いものは絶対捨てなさそう、という私の勝手な妄想です^^ |
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