それは、世界がまだ彼女に優しかった頃



 彼女は流れるように長く真っすぐな黒髪に、深い深い蒼の瞳と、透き通るような白い肌をもつ、とても美しい少女でした。
 家はけして裕福ではなかったけれど、父がいて、母がいて、年の離れた小さな弟がいて、学校へ行けば友人もいて、孤独を感じたことなど一度としてありませんでした。彼女は世界に愛され、そして、いつだって、きっと、幸せでした。幸せの意味を、知らないほどに。

 12歳を数える年、彼女は、国の王様のはからいでお家よりずっと離れた、普通の子が通うよりもずっと良い学校に通わせてもらえることになりました(彼女はとても頭がよく、いつもまちの学校で1番の成績だったのです)。
 父も、母も、小さな弟も、それを誇りに思いました。たくさんの友人たちも、それを祝福しました。
 でも、彼女には、不満なことばかり。――良い学校へ行ったからと行って、それがなんだというのだろう。身分に支配されたこの国では、どんなにがんばったとしても正当に評価してくれなんかしないわ。

 それでも、学校へ行く日はやってきました。王様の子ども通う、由緒正しい学校ですから、平民の彼女が生まれ育った我が家から通うことは許されません。数年の間、家族と離れて、学校の寮でたった一人、暮らしていかなければならないのです。みんな泣いて見送ってくれたけれど、彼女だけは泣きませんでした。本当は不安で不安で、仕方なかったのにね。



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