触れた指先にうずく熱、の小話。こんなこともあったりして。
シュラお初。すっかりアニメに影響されている。



 ビリーィ、と間延びした癇に障る声で呼びかけられて、雪男は顔をしかめた。
 振り返るつもりなどない。
 だってそもそも、自分はそんな名前ではないからだ。
 歩調を速めてつかつかと踵を鳴らせば、すぐ背後で能天気な笑い声が響いた。
「にゃーんだよ、無視すんな雪男!」
「ぐ・・・っ」
 がっしりと首に腕が回り、局地的に体重をかけられる。男子としては非常に嬉しいはずの感触が腕にあた
るが、不幸なことに慣れきってしまったいまでは恥じらいすら沸いてこない。それより、首と肩にかかった
負荷の方が重大だった。
「重い、どけ」
 自然と、不機嫌に声音が低くなる。
「おんやぁ?」
 やたらと肉感的なくせに幼さを強調する唇が、なぜか愉しげに歪んだ。
 なんだ。
 自分が不機嫌だと嬉しいのか。
「雪男ちゃんたらご機嫌ナナメ?」
「誰かさんのせいでね。離れろ」
「あらら、重症」
 それでも更に体をくっつけてくるシュラに、いい加減怒鳴ってやろうかと思ったとき。
 ずきり、下腹が痛む。
 怪我など外傷の苦痛とは違う、生理的なそれは、堪えるのが難しい。
 思わず眉根を寄せた雪男に、シュラは目を丸くした。
「なんだ、お前どっか悪いのか?」
「放っておいてください」
 苛々と、シュラを振りほどく。
 そのとき腹を庇ってしまったのは、まったくもって不覚としかいいようがない。
 はた、と雪男の様子を見ていたシュラが首を傾げる。
「そういや、確か燐も今日・・・」
 言いさして、シュラは一瞬なんともいえない顔になる。確認するようにこちらを覗きこんでくるから、雪
男は顔を背けて眼鏡を上げるフリで表情を隠した。
「あ、なーる」
 ほど、と呟いたシュラが、ひくりと唇を震わせる。
「・・・なんですか」
 聞かずにおれないのは雪男が青いからか。閉じた箱を開けることもあるまいに。
 シュラは盛大に噴き出した。
「にゃははははははははは!」
「何がおかしいんですか!」
「だ、だって、姉の生理痛がうつるとか、妊婦の旦那じゃあるまいし・・・!」
「やかましい!」
 なんだその例えは。
 一人腹を抱えるシュラを放って、雪男は憤然と歩き出した。
 どういうわけだか知らないが、姉の生理痛は以来雪男にしっかり伝わってくるようになった。おかげで、
毎月毎月、なぜ姉の調子が悪いのかが分かってしまう。
 複雑だ。
 姉の月経周期を把握している現状に、雪男は溜め息をついた。

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