「うわぁ、アザラシがアザラシの唇に噛みついてる。」

「…もうちょい言い方は無いんか。」
「じゃあ餌を略奪?」


全くもって可愛くない言い回しを真顔でするのは、絶賛デート中の…一応彼女のはずなんじゃが。
何とも生々しい表現に、軽く目眩がする。


「せめて、キスしてるーくらい言えんのかお前さん。」
「うっわさむ!何それさむッ!」


女ってああいうの見たら無条件に喜ぶモンだと思ってた。
だのにコイツは、とりあえず記念だと写メろうとしてるだけで。

ロマンの介在しない空気に、こっそり肩を落とす。

水族館デートなんて言うから、多少は甘い空気になるんじゃないかと浅はかながら期待していた。

…が、まぁ相手が相手だ、と言うことくらい嫌ってほど分かっている。



「…仁王、」
「ん?」


不意に彼女に呼ばれて、姿を探す。

ちゅ、間違いじゃなければそんな音がした。

無意識に唇に指を寄せれば、したり顔の彼女がふっと微笑む。


「アザラシの真似。飽きたから次行こうよ。」
「…あ、ああ。」


呆気に取られている俺の手を、彼女が引いて行く。
順路に沿って進む彼女に迷いはない。
少しだけ早いリズムは、俺の気持ちをずっと落ち着かなくさせた。








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