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感謝をこめて…
★ 3/10 ★
Good Luck!
最近トラップはがんばっている。らしい。
「わたしには、そーは思えないけどねぇ……」
「あ!? あんだと、リタ。おめぇ客にむかって、なんだ、その態度は!」
だんっ! とビールジョッキをテーブルにたたきつけ、トラップがわめく。
お客さん、静かにしてくださーい。
お昼時の猪鹿亭は、倒れたくなるほどに忙しい。
だから混雑のピークを越えた今ごろ…昼過ぎは、わたしたち店のものにとっちゃあホッとする時間。
なんだけど。
そんな時に、最近毎日こいつがやってくる。
はぁあぁぁー……。
「だいたいなぁ、あいつは鈍すぎんだよ! 鈍感すぎ!」
最近トラップは、彼女…パステルを振り向かせようと、かなり積極的にがんばっている。らしい。
少なくとも自分ではがんばっているつもりらしい。
だけどパステルには、まぁーったく、通じないらしい。
そうでしょうねぇ。
「しょーがないじゃない、だってパステルだもんっ」
トラップもトラップだし。
「んなこた、わかってんだよ! おれはおめぇよりも付き合い長えんだからな、あいつと」
「わかってんなら、それでいいじゃないの」
「でもそれじゃ嫌っつーか、困るっつーか悔しいんだよ!! ちきしょー!!」
……はぁー………。
この間、わたしは決してボーッとトラップの愚痴を聞いているわけじゃない。
テーブル片付けたり、料理運んだりさ。
それなりには忙しいんだってーのに。
営業妨害よねー、これ。
ビール一杯で長時間ねばってくれちゃうしさ。
あ、お客さんだ。
「おい、聞いてんのか!? リタ!」
………うーん。
ま、いっか。
せっかくだから聞かせてもらっちゃお。
「リタ!?」
「はいはい、聞いてる、聞いてる。で、なぁに? パステルのことで頭がいっぱいのトラップ君?」
「う、うるせえっ!」
ふっふっふ。かわいい奴め。
「ねえ、いつもいってるけどさ…。そんなに今のままが嫌なら、告白しちゃえばいいじゃない?」
「ふっ。わかってねぇーなぁ、リタちゃん」
ちっちっちっ、と指をふるトラップ。
「わかってない? なにをよ?」
「今のままで告白したところで、あいつがOKしてくれると思うか?」
「してくれないと思う」
「おれもそう思う」
ズッパリと正直に答えたら、彼はサッパリとした表情でうなずいた。
けど、みるみるその表情が曇りだし…テーブルに突っ伏しておいおいと泣きだす。
……あー。よしよし。
「だっ、だからよぉ…おりゃ、少しでも、少しでもあいつの心を動かそうと思ってよぉ…!」
泣き上戸だっけ、この人。
「なのに、あのヤロー! おれの思いに気づきもしやがらねえ!」
「だから告白しちゃえってば」
「だぁーら、ムリだっつってんだろ!」
「そっか。じゃあもう諦めたら?」
「そうか、諦め…………って、冗談じゃねえー!!!」
狼の遠吠えのごとく、天に向かってトラップが吠える。
その声が流れ、やがて消えるまで、なぜか店内の誰も動くことができなかった。
そして沈黙がおりる。
トラップはまたうつむいてしまった。…また泣くのかな?
と思ったけど。
しばらくして顔を上げたとき、彼はニンマリと不敵な笑みを浮かべていた。
「今さら諦められっかよ」
わたしに向けて左の拳を突き出し、中指だけをピッとまっすぐに立て。
「見てやがれ。…ぜってーパステルをオトしてやるからな! 覚悟しろよ!!」
さっきまで泣いてたくせに。
いたずらっ子のような、勝ち気な笑顔。
……ったく。
こーゆーセリフいうときだけは威勢がいいのよね、こいつは。
わたしは、ため息をついてみせる。
「あ、あんだよ、文句あんのか!?」
「文句はあるわよ、いろいろ」
「ぐっ…」
そりゃそーよ。いーっつも口ばっかで。
そのくせパステルの前だと、ご自慢の舌を上手くコントロールすることもできないんだから。
いらんことばっかりいっちゃって。
そんな奴に、あのパステルがオトせるかってーの。
「そういうセリフはね、やっぱり本人の目の前でいわなきゃ意味ないわよ」
「…いえるかよ」
「だいじょぶ、今いえたから」
「……………」
「……………」
「………は?」
今度はこっちがニンマリ笑ってやる番。
上目づかいの視線を、トラップから店の入口へとうつす。
そこには、さっき入ってきたお客さん。真っ赤な顔でボー然と立ちつくしていた。
彼女を見てガク然とするトラップ。
「パ、パ、パステ………ル」
はい、ご明答。
ふっふっふ。トラップの思いとやらを聞かせてもらっちゃったのは、わたしだけじゃなかったのでしたー!
むしろパステルに聞かせるために、わたしも付き合った感じ。
「なんてことしやがんだ、てめー!!!」
我にかえったトラップが、猛然とわたしに迫る。
あーうるさい。
「お客さん、騒ぐと他のお客さんの迷惑なんで、出ていっていただけますか?」
「はああ!?」
「出・て・けっていったの。あ、そっちのお客さんも、注文しないなら出てってくださーい」
「え……?」
とつぜん自分に声をかけられ、うろたえるパステル。
「じゃ、二人いっしょに外へどーぞー」
トラップの背中をぐいと出入口のほうへ押しやる。
彼は、彼らしくもなく、動揺するだけで。
「て、て、てめーはおれに何させよーってんだ!」
「べつに何も? 何しようとあんたの好きにすれば?」
ごまかそうと逃げようと、はっきり伝えようと。
「でもね」
背中を押す手に、ちがう力をこめて、いう。
「ここがほんとの『がんばりどころ』よ? トラップ」
――並んで猪鹿亭をあとにする二つの背中は、そりゃ〜もう気まずそうだった。
トラップなんかいつもより小さく見えちゃって。
でも…がんばんなさいよ、トラップ。
そして、もう明日からはここに来ないでちょうだいよ、邪魔だから。
…なんてのは半分冗談だけど。
さてさて、結果がどうなったかは。
「いらっしゃーい! あら、ルーミィとシロちゃん。みんなは?」
「すぐ来ぅお!」
「わんデシ!」
今夜の猪鹿亭にて。
お楽しみにっ。
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某Sさんがスケッチブックに描いてくださった格好良いトラップの絵をもとに書いたもの。
――格好良いトラップどこいったー……………!!! えーん!!
その代わりリタさんがズバズバ格好良くなってくれました☆男前ですね。
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