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感謝をこめて…
★ 8/10 ★
For Me?
それは、予想だにしなかった言葉。
「ほら…やるよ」
「――え?」
ふたりで美術館に行った。帰りに近くの公園をぶらぶらと歩いていた。そのとき。
彼が言ったのだ。
先ほどの美術館のロゴマークが入った紙袋から、可愛いヌイグルミを取り出して。不機嫌そうに…どこか居心地悪そうに視線をそらして。頬をぽりぽりかいて、その頬っぺたをちょっぴり赤くしちゃったりなんかしながら。
「トラップ…」
彼は、ヌイグルミを差し出した。
似合わなくて、笑えてくる。
「わっ、笑うんじゃねえ!」
「だって…」
「おめぇが物欲しそうな目ぇしてやがったから、しょうがねえから買ってやったんだよ。ほれ、持っとけ!」
「え、あ、うん」
ばっと押し付けられたヌイグルミ。両手ではさむように持ちなおす。
やわらかい。気持ちいい。やさしい。嬉しい――
ふふ。笑えてくる。
「ありがとう、トラップ!」
そう告げると彼は、首をぐっとうつむかせた。
「……どしたの?」
声をかけると肩がピクリと動いた。でもそれだけ。なんなんだろ。
しばらく見守っていると、
「……………だ」
低い、うめくような声が。
「な、な、なに?」
「これで…カンペキだ……」
「は?」
トラップは両手を天へ突きあげ、突然狂ったようにけたたましく笑いだし、わめいた。
「明日のパステルとの美術館デート! このプレゼント攻撃で、ハートはいただきだぁぁ〜!!」
――誰、パステルって。
わたし、エベリンに住む女の子。名前はポリアンナ。
今日は生まれて初めてナンパしてくれた男の人とデートだったんだ。
べつにナンパ男に運命の出会いとかは期待してなかったけど。
でもさ?
自分がデートの予行演習がわりに使われるのは、我慢ならないわけよ。
「――ってわけでね?」
翌日。
絶好のデート日和と言えるかもしれない、いいお天気。
彼は彼女と楽しくやってるんだろうか。
わたしには知ることもできないし、興味もない。
ただ、わたしが知ってるのは……
昨日未明、男が頭を石で殴られてヌイグルミを抱かされて、紙袋をかぶせられた状態で倒れていたということだけ。
その後どうなったかなんて、知らない。
知ったことか。
本命でもない相手に手を出すから、そーなるのよ!
わたしは鼻で息をフンとはいて、もっと男を見る目を養うべく、歩きだした。
あ、でもその前に。汚れた手を、もっかい洗っとこうっと………。
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某Pさんがスケッチブックに描いてくださったトラップの絵をもとに書いたもの。
ト○ロのぬいぐるみを差しだす照れトラップでした。(ジ○リ美術館でオフ会だったもので。)
素直に「パステルに渡す」という話にしなかったのは、トラップへの歪んだ愛ゆえです。
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