◆寝坊・キララク編◆


「えっ…!!」

目が覚めてぼんやりとしていた意識も、時計の針を確認して一気に覚醒する。
がばっと身を起こしたキラは他の時計も確認した。
そしてあの時計が正しいことを悟り、さあっと血の気が引く。

「ラクス、ごめん、寝坊した」
「………ん……キラ?」

おとぎ話のお姫様のようにまどろむラクスを揺り起こす。
長い睫が震え、その下から空色の瞳がそっと覗いた。
けれどまだ夢の中に半分いるような彼女に、キラは慌てながら声をかける。
目覚ましをかけるのを忘れていたらしい。まだ間に合うが、余裕はない。

起きて、ともう一度声をかけるとようやくラクスは上体を持ち上げた。
眠そうに目をこすりながら時計を確認し、目をぱちくり。

「……あらあら」
「急いで支度しないと。ラクスは今日は会談があるんだったよね?」
「はい」
「着替えとか髪のセットとかあるだろうし、食事は僕が作るよ。すごく手抜きで」
「ふふ、お願いいたします」

ばたばたとベッドを抜け出して着替えながら台所へ。
パンをトースターにかけ、バターとジャムを乱暴にテーブルに並べる。
鏡を確認して適当に髪を撫でつけ時計を再び確認。よし、まだなんとか。
ゆっくり食事できないのは落ち着かないが、仕方ない。
身支度を終えて顔を出したラクスと共に手早く食事を済ませる。

「車は僕が出すよ。ラクスの方が集合時間早いよね?」
「ありがとうございます」

牛乳でほぼパンを流し込み、荷物を引っつかんで車庫へ。
玄関まで回ると、戸締りをしたラクスが助手席に乗り込んできた。

「じゃあ行くよ」
「はい。…あ」
「?忘れ物でもした?」
「はい、忘れ物を」

取りに戻る?と言いかけたキラの頬に柔らかな温もりが触れる。
きょとんとアメジストの瞳を瞬くと、ラクスが隣でくすくすと笑みをこぼした。

どんなに慌ただしいときでも、彼女のペースが乱れることはない。

「おはようございます、キラ」

そしてそんな彼女に、いつも心は落ち着きを取り戻す。
必要以上に強く握っていたハンドルから少し力を抜いて。
キラもラクスの頬に口づけひとつ。

「おはよう、ラクス。今日も一日、頑張ろうね」
「はい」





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