◆寝坊・シンルナ◆


「シン、シーンー!」

意識を揺り起こす声に唸る。
ゆっさゆっさと実際に身体を揺らされ、シンは不機嫌になりながら目を開けた。
すると飛び込んでくるのは赤。それがザフトレッドの制服だと気づくのに時間がかかる。
まだかすむ視界に目をこらすと、こちらを見下ろしているのは。

「………ルナ?」
「ルナ?じゃないわよ。いつまで寝てる気?もうとっくに交代の時間なんだけど」
「え…………」

うまく頭が動かないまま、時計に目を向ける。
表示された時間は自分が働き出しているはずの時間をゆうに過ぎていて。
一気に目の覚めたシンはそのまま時計をがっと握った。

「な!?」
「いつまで経ってもこないから何かと思えば、まさかの爆睡ねぇ」
「うっ、わ、悪い」

夜の警備は交代で担当しているわけだが、まさか寝こけるとは。
仮眠用のベッドから起き上がり、椅子にかけたままの上着を手にとった。
ルナマリアは前の時間の担当のひとり。
いつまで経っても来ない自分の代わりに延長して警備をしていたのだろう。

「ホントごめん。今度埋め合わせする」
「じゃあ次のデート楽しみにしてる。何奢ってもらおっかなー」
「…あんま高いものは勘弁してくれよ」
「高給取りが何言ってんのよ。あ、私の買い物に付き合ってくれるのでもいいよ」
「…荷物持ちか」
「ふっふっふ、寝坊したシンが悪い」

それはその通りなわけで、襟をきちっと締めてシンは諦めの溜息ひとつ。
じゃあ行ってくる、と部屋を出ようとすると腕を引かれた。
どうしたのかと振り返ろうとすると頬に唇を感じて。

「いってらっしゃい。それと、おやすみー」
「………ん、おやすみ」

わずかに火照る頬には気づかない振りで頷いて、仮眠室を出る。
夜中のいまは廊下は静かで、どこかひんやりと冷えて感じる。

だから熱くなった身体を冷ますにはちょうどいい、と自分に言い聞かせて。

遅れを取り戻すために駈け出した。



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