◆寝坊・アスカガ◆


「おい、カガリ。いい加減起きろ、間に合わなくなるぞ」
「うー………」

しゃ、と何かが滑る音と共に部屋が明るくなる。
眩しさに眉を顰めたカガリはそのまま布団の中に潜ろうとした。
しかしそれを許さないアスランの手が、べりっと布団を引っぺがしてくる。

「何するんだー」
「お前こそ何してるんだ。時計を見ろ時計を」
「時計ー…?」
「本気で時間がない。会議に遅刻するぞ」
「…会議……」

のろのろと時計に目をやったカガリは、しばらくぼーっとしたままで。
徐々に意識がはっきりしてきたのだろう、目が見開かれていく。

「寝坊じゃないか!!」

がばっと起き上がって叫ぶ彼女に、アスランは溜息ひとつ。

「…だから言ってるだろう。さっさと支度しろ」
「ああもう何でもっと早く起こしてくれないんだよ!」
「ずっと起こしてたさ。もうかれこれ三十分は」
「もっと本気で…ああもうそんなこと言ってる場合じゃない」

ベッドを飛び出したカガリはその場で寝間着をぽいぽいと脱ぐ。
自分を男と認識していないんじゃないだろうか、とアスランは複雑である。
堂々と肌をさらしながらカガリは用意されたものを着替えていく。
筋トレが趣味という彼女の背中は、本日も健康的な美しさを見せていた。

「化粧…はしてる時間ないな、よし!」
「よし、じゃない。うっすらとでいいからするように言われてるだろう」
「面倒くさい、息苦しい」
「あのな…」
「さ、食事だ食事」
「待て。寝癖を直せ」
「そんなんしてたら間に合わないだろ!」

どたばたと寝室を出ていくカガリ。
自分が国家元首であるという自覚があるのだろうか、と頭痛がしてきた。

テーブルには食事が用意されており、それを豪快にかきこんでいく姿は男である。
先に食事を終えていたアスランは座っているカガリの後ろから髪を整えた。
特に文句を言うこともなく彼女が受け入れているのは、割と恒例のことだから。
自然体なのはカガリの良さだが、最低限の身なりはうんぬん言いたくなる。

「ごちそーさま!」
「…まあ、これなら問題ないか」
「ありがとな。んじゃ出発するか」
「はぁ…」

いつになったらひとりで起きて用意できるようになるんだ、と愚痴を漏らす。
するとカガリはあっさり「ずっと無理じゃないか」と言ってのけた。

「……おい」
「アスランがこうやって世話焼いてくれるからさ、つい甘えちゃうんだよ」
「は」
「だから、きっと直らない。…ずっと一緒にいてくれるだろ?」

自信に満ちた笑顔で言い切られ、アスランは言葉に詰まる。
してやったり、といった表情の彼女はそのまま玄関を出て車に乗り込んでいった。
慌ててその後を追いながら、色々と言いたいことを堪える。

とりあえず。

男前すぎるだろ、とは言ってやりたかったが。



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