お題>三年前のハルヒに禁則事項できる
「はぁ」
まさか校庭に机を並べる奇行の手伝いも俺がしていたとはな。その机の一つに腰かけ、すっかりくたびれた腰を叩く。明日は筋肉痛だぞこりゃ。
相変わらず俺に指示飛ばすだけで終始むすっとした顔で仁王立ちしていた中学ハルヒに不満の視線をぶつけると、
「なによ」
「……可愛げがねえなと思ってな」
俺の言葉どおりの顔で睨み返された。
主観時間で今俺が接しているハルヒは大分丸くなったんだな、あれでも。
中学ハルヒは「悪かったわね」と全く悪びれた様子もなく吐き捨てると、俺の隣の机に腰掛けて足をぶらぶらやりだす。
こんなに近づいたら顔覚えられやしねえかと危惧したが、様子を窺っても視線がこちらに向いていなかった。ま、もし覚えられたとしてもどこかに持ってるらしい常識で三年後には忘れてるだろう。
今にも降ってきそうな満天の星空を見上げ、中学ハルヒは硬い声で、
「異世界人には会った?」
「いんや、会ってねえな」
「そう。つまんないわね。……何か面白いことないの?」
ふむ。前回の七夕からこっち、不思議イベントというか不思議おつかいは何度か有るには有ったが、
「……禁則事項だ」
「はぁ? なにそれ」
「当然だが俺の本名はジョン・スミスじゃない。それと同じで言えないんだよ。だから禁則事項」
「ふーん。そういう決まりなんだ」
それはそれでちょっと面白いわね、と中学ハルヒは頬を引きつらせた。いや笑ったのか。写メでもとって後々見返して爆笑してやれば良かったなと思いつつ腕時計に目をやる。
そろそろ朝比奈さんとの約束の時間だった。俺は「そろそろ帰るわ」と言って立ち上がり、
「世界を大いに盛り上げるジョン・スミスをくれぐれもよろしくな」
「わーってるわよ」
三年後よりも大分ちっこいこいつの肩が何故か寂しそうに震えている錯覚を覚えて、
「遺憾だが、お前とはまた会うことになってるんだな、これが。それまでに可愛げの意味を調べとけよ」
その肩をぽんと軽く叩き「大きなお世話よ!」と言葉とは裏腹に今度は本当に笑った未来の団長を目にしっかりと焼き付けた。
「じゃあな」
「うん。またね、ジョン」
今度会う時は俺はジョンじゃなくてキョンだけどな。しかし――お前マジで意味調べてなかっただろ、という不満は誰にぶつけたらいいのかね。やれやれ。
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