お題>ハルヒがカラスにカチューシャ盗まれる
「アホー、アホー」
「きーっ! ばかーっ! 覚えてなさいよねーっ!」
カチューシャを奪い取られてなみだ目なあたしを嘲笑うかのように、カラスは雄雄しく翼を羽ばたかせ空に消えていった。
ふぁっきゅーと中指をたてて黒いあんちくしょうが見えなくなるまで睨みつけ、……あたしははふんと息をついた。
朝からついてないったらありゃしないわまったくもう。追いかけていって巣に強襲をかけたいところだけど、皆勤をふいにするのは勿体無いし……。
「しゃーがないわね……」
再びはふんと息をついて、あたしは予備のカチューシャを取り出してずびびと装着した。
何で予備を常備してるんだとか突っ込まれても困るから口閉じてなさい。いいわね。
で。自分でも分かるくらいの不機嫌顔なあたしの頭には赤いカチューシャ。
何時ものやつとは色が違うだけなんだけどどうもしっくりこない。
自慢じゃないけど深い黒髪だから明るい色じゃないと映えないのよねー、ま今日だけの辛抱だけど。
あ……でもあいつが赤の方が好みだったら……などとごにょごにょ考えながら、教室に入る。
「おっはよー」
「おう。また朝から妙な顔して……ん? ……お前、ハルヒだよな?」
「はぁ? あたし以外の誰に見えるってのよ」
「いや……うん……確かにハルヒだな。けど、なんつうか、こう……ハルヒはハルヒでもぱちもんみたいな雰囲気が」
ロシアのお菓子の袋みたいなとか意味わかんないことを言うキョン。
カラスといい朝から失礼なやつね。どこからどう見てもあたしはあたしでしょうが。昨日今日で突然うさんくさくなるはずが……って、
「もしかして、これのせい?」
閃いたあたしはカチューシャをとっぱらってキョンに見せ付けた。
キョンは「ああ!」と大げさに納得した顔で手のひらをぽんとうつ。ベタね。
「そう、それだ。何か何時もと違うと思ったんだよ。おい、黄色のやつはどうしたんだ」
「どうしたもこーしたもさ、ちょっと聞きなさいよ」
席につきながらあたしは今朝のカラスとのファイナルバトルの様子を語りだした。
「間抜けなやつだな」「朝から災難なこった」なんて屈託なく馬鹿話に笑うキョンを見てるといらいらも薄まってくる。
くるけれど……くるけれど……。
黄色のカチューシャであたしをあたしと認識されてるってどういうこと?
ねぇこれ怒るんじゃなくて泣くところじゃない? ねぇねぇ?
「アホー、アホー、アホー」
そのにっくき鳴き声につられて窓の外を見る。
カラスフライフリー。校庭の空を旋回するカラスのくちばしには黄色いカチューシャが咥えられていた。
猟銃よ! だ、誰か猟銃もってきて!
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