思わず窓を開けて空からヤリが降って来てないか確かめた。
憎いくらいの快晴。ヤリなんて降る分けない。
じゃあ夢? 夢じゃない。こんなリアルな夢ある分けない。
じゃあどうして? どうして今日はこんなにも、
「よう、ハルヒ」
「おっはよー、キョン」
「なぁ、お前さ、その頭につけてる黄色いやつ」
「カチューシャのこと?」
「それそれ。……なんつうか、お前によく似合ってるな。か、可愛いと思うぞ」
「……は?」
「よう、ハルヒ」
「んー? 何か用事?」
「さっきの体育のマラソン、お前一位だったな」
「当然の結果よ。どいつもこいつもひょろっちいんだから」
「でもさ、やっぱ凄いな。あ、改めて見直したつうか、よ、よくやったと思うぞ」
「……ひ?」
「珍しいな。今日は弁当なのか」
「そ。もうすぐ家庭科で実技のテストあるでしょ、その予行」
「美味そうだな。一つ貰って良いか?」
「別に良いけど、あんた自分の弁当あるじゃないの」
「良いじゃねえか。どれ……うん、すげえ美味い。こりゃ将来、その、良い嫁さんになるな」
「……ふ?」
「すまん。次の英語あてられる日なんだ。ここ教えてくれ」
「しゃーないわねぇ。良い? これは過去形だから、次のこの単語は……」
「……なるほど。うん、サンキュな」
「良いけどさ、あんたもっとしっかりしなさいよね。来年受験生よ?」
「分かってるよ。……でも大丈夫だって。お、俺には腕の良い家庭教師さんが居るからな。は、ハルヒっていう」
「……へ?」
「今日はみんな部活休むんだってさ」
「あんたと二人きりぃ? なーんかやる気でないわね。今日は解散しよっかしら」
「そう言うなよ。お、俺はお前と二人きりでも全然退屈じゃねえし、俄然やる気が出るっつうか」
「あ、あんたねえ。今日どうしたのよ。何かおかしいわよ」
「なななな何もおかしくねえよ! ほ、ほら一緒にオセロでもやろうぜ? な?」
「……だからってオセロやってもねえ」
「じゃあ何が良いんだ? お前がやりたいことなら何でも付き合うぞ?」
「何でもって言ったわね。良い度胸じゃない。へへぇん、それじゃあんたにあたしとポッキーゲームが出来るかしら?」
「良いぞ。やろう。行くぞ?」
「……ほ? え、あ、う、ちょ、ちょっと待って」
どうして今日はこんなにもキョンがおかしいというか優しいんだろう。
それも変に必死っていうかてんぱってる感じがする。
今も危うく唇同士がごっちゅんこするところだった。
「た、楽しいな。もっかいやるか?」
だなんて笑っているけれど、こんなのやってたらこっちまでどうにかなりそうだわ。
「も、もうやらないわよ! あたしはパソコンするからあんたは適当に本でも読んでなさい!」
再来年くらいの方向を向いて怒鳴り返す。
あぁもう顔が熱い熱い。体も熱い。キョンの顔がまとも見れない。
勝手にずんどこ大暴れしだした心臓を落ち着けるために、パソコンを起動する。
適当にネットサーフィンでもしてれば、そのうちいつもの調子が出てくるわ、多分。さてさて世界の不思議ニュースは、と……
「何のサイト見てるんだ? ……なになに? 宇宙人らしきミイラを発見?」
「……ちょ、ちょおお!」
「お前が好きそうな内容だな。……で、な、何を慌ててんだ?」
「何も糞も、あああんた、いきなり真横に顔出さないでよ!」
何時の間にか後ろにいたキョンがにょこっとあたしの肩越しにモニタを覗き込んでる。
だからまともに見れないって言ってんのに行き成りドアップとご対面だ。
不意打ちに心臓が口から飛び出しそうになるのを我慢して、もう顔が熱いのとかを無視してキョンを睨みつける。
「今日のあんた絶対変! 何か企んでるの? そうなんでしょ!」
「そそそそんなことないぞ? 普通だぞ?」
「そうやってどもるのが変でしょうが! あ、朝から可愛いだのお嫁さんだの……う、裏があるんならはっきり言なさいよね!」
いつもだったら怒鳴りながらネクタイの一つでも引っ張ってやるところだけど、
今は掌が汗だらだらで手が伸びていかない。そもそもキョンに触るっていう気が出てこない。
キョンは視線をふらふら彷徨わせながら、「ちくしょう、こうなったらヤケだ」とか意味わかんないことを呟き、
多分あたしもそれくらい赤いだろうなっていう顔をするとやけに真剣な声で、
「今日は……お前に優しくしたい気分っていうか、そんな感じなんだよ。
ハルヒが喜ぶことしてやりたいんだ、俺は。……わ、分かるだろ? この気持ち」
あぁ、いや、ちょっと待って。ううん。たくさん待って待ってよ待ちなさいよタイムタイムすとっぷ!
な台詞をどしどしぶつけてくる。おかしい。やっぱりおかしい。
こんなのキョンじゃない。こんなのキョンじゃ……ああうぅ、でも、何か真面目だし、もしかしたらって前から思ってたし、
そうなったらそうなったで別にあたしとしてもなんら困ることはなくって、寧ろ歓迎だっていうか、
喜ぶことしてあげたい、っていう言葉どおりにまさしく心臓がサンバのリズムで飲めや歌えやで、何より大事なのは二人きりだってことで、
「う、うん。分かる……そういう気持ち」
「そ、そうか……ありがとうな。じゃ、じゃあもっと一緒に遊ぼう。な?」
「うん……」
自分じゃないみたいな声で小さく俯きながら呟いて、
あたしはインフルエンザにかかったみたいなぼんやりした頭でそのまま暗くなるまで……どうしよう、何をしたか覚えてない。
キョンがやっぱり終始優しくて、帰りは家まで送ってくれたような気がするけど、ちゃんと覚えてない。
あぁぁバカバカバカ! なんって間抜けなのかしら。我ながら情けないったらないわ。
で、でも今日学校に行けば分かることよね、うん。
昨日あんな事があったんだし、これからはもっとキョンと――って、何で、
「お、おはよう? キョン」
「何で疑問系なんだ? 朝から妙な顔してるけど、変なもんでも食ったのか?」
「……はひふへほ?」
「ばい菌マンかよお前は。突っ立ってないで座れよ。HRはじまるぞ」
「あー、うん……」
何で、一昨日までの様子に逆戻りで、念入りにセットした髪も化粧も褒めてくれないわけ? ねぇねぇ?
それどころか気づくそぶりもなしにぷいっと前向いちゃうし。谷口のアホとアホみたいに喋ってるし。
これは……ははぁん。照れ隠しね。そうよ。そうに違いないわ。
――だと思ったんだけど、結局放課後になるまでキョンはキョンのまんまだった。
しかも用事があるとか行って部活休むし。
な、ななな、なんなのよ一体もう! ばか! あほキョン!
「怪我は良くなったか?」
「ええ。おかげ様で。すいません、ご迷惑をおかけしまして。報告を聞くかぎり涼宮さんも昨日は大変安定していらっしゃるようでした」
「たりめえだ。あんなことやってまた閉鎖空間作られたら俺もお前もピエロどころじゃない」
「ははは。……出来れば、これからも昨日のようにして頂ければ僕たちの仕事も大分楽になるんですが?」
「バカ言え。……そもそも、…………俺にはお前だけだよ、いっちゃん」
「…………ありがとう、きょんたん」
二人は大親友アッアアアッアアッー!
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