キーボードを打つ音が響く間隔がメトロノーム並のサイクルというのはブラインドタッチが出来ない証拠であり、
 無論、そんな人間はパソコン全般深く言うならインターネットのあれこれにも疎いのものである。
 人が動くにしては些か勢いが良過ぎる空気の振動と気配に、
 そいつが面を上げていつもの様にぶーたれるのを感じ取った俺は、
「インターネットオプション、全般タブ、言語、日本語を削除。後はわかるな?」
「……ふむふむ、むむ! やるじゃないの、キョン」
「どういたまして」
 オセロの盤上から目を離さずに機先を制し、イマイチ活用する場面が間違っている気もするが、
 とにかく団長の朝の挨拶から始まっていた何故かは知らないゴキゲンを損ねるという失態を犯さずに済んだ。
 常識的な人類の範疇でも遅い部類に属する速度で対戦相手の顔を見た俺は、
「どこにも置く場所が無かったら負け、ってのがうちの町会ルールだったんだけどな」
「あいにく僕は町会でオセロをする機会がなかったのですが、ええと、パスはできないのでしょうか」
「どっちにしろ俺の次手で盤面全部黒一色になっちまうけどな」
 ここまで弱いと何か人間として大切な思考器官が欠落しているように思える。
 マジ、大丈夫なのかこいつ。
 数学や物理は得意なんですよ?
 などとオセロに負けた嫌味ともとれる弁解をしながら、古泉はふと一瞬の空白を携えて、
「さきほどはどうして涼宮さんが質問される内容を先んじて知ることが出来たのですか?」
 もしや貴方にもごにょごにょなどと面白くないことを抜かしやがる。
 先んじるもなにも、
「適当にアレがわかんねえんだったらこうすりゃいい、って言ったのがたまたま当たっただけだ」
「……ほう。興味深い話です」
 しきりに感心したように頷く20円ハンサムスマイル。何故かむかつくな。
 と、またもやぶーたれる予感。こんな予感を感じる力なんて要らないから、もう少し計算にでも強くなって欲しいもんである。
「オレンジとグレープフルーツだろ? あとで金払えよ」
 がたがたと席を立ち、一本おごりなさいよという声を意識して無視する。
 部屋を出て自販機へと向かおうとする俺の背中に、生暖かい笑みが注がれた気がする。
 ちくしょう、なんだってんだ。
「……ユアファイルホスト」
 長門のそんな呟きが聞こえたか聞こえないかくらいの間際で、俺は部屋を出た。




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