夢の中で水が出てきて、あらもしや、と思ったら夜中に目が覚めた。
「うー……」
 そのもしやだった。寝る前に暑いからって水をがぶ飲みしたのがいけなかったのか、猛烈な尿意。
 あーもーめんどくさいわね。めんどくさいけど、生理現象には敵わない。
 ぐしぐし目を擦りながら起き上がろうとして――
「ちゅ」
 最近ご無沙汰どころか抱きしめてさえ貰っていなかった所為だとしか思えない。
 気がついたら幸せそうな寝顔にキスしてしまっていた。
 ……なに、やってるのかしら。
「むなしい……」
 けれど唇同士が触れ合った瞬間はちょっと幸せだった。
 トイレまで歩くためのエネルギー補給だと思いましょう。そうしましょう。
 鼻をつまんだら息苦しさで唇が開くんじゃないかしら。そうすれば――とかなんとか考えながら、今度こそよいしょいーと起き上がろうとして、
「え?」
 腕が伸びてきたかと思ったら突然ぎゅううっと抱きしめられた。
 吃驚する間にも引き寄せられて、すっぽり腕の中に収められてしまう。
「キョン……?」
 急にどうしたのかしら。寝ぼけてる? 抱き枕と間違われ――いや、待つのよあたし。
 これは……そう、白雪姫効果! 
 キスで目が覚めたキョンは思わずあたしを抱きしめたくなった。抱きしめるいこーるそういうことをしたいのである。
 ついにご無沙汰におさらばするときが来たんだわ! けれど、
「キョン……ごめんね、ちょっとだけ待ってね。トイ……じゃなくて、ねね寝汗かいっちゃってるからシャワーも浴びてくるわね!」
 廻された腕に手を重ねながら、小躍りする心を必死に落ち着ける。
 危ない危ない。トイレだなんて言ったらムード壊すところだったわ。
 はふん、と息をついて……がおかしいことに気がついた。キョンの腕がびくともしない。
 寝汗なんて気にしないからさっさとしたい、ってことなのかしら。嬉しいけど困る。非常に困る。おしっこしたい。そろそろ限界。
「もう、キョンったら。良い子だからちょっとだけ待っててね?」
 後ろ手で良い子に挨拶をして、――やっぱりおかしい。全然良い子じゃない。ふにゃっとしてた。
 ……ええ。さっきからやけに呼吸が規則正しいし、一言も喋らないし、もしかしたら、って思ってたわよ。
 思ってたけどね、でも、でもね、
「ぐぅ、すぅー」
「寝ぼけてるだけだけかぁいっ!」
 それって虚しすぎるというかおしっこ行かせてぇぇぇ!
 本当にやばいの。もうダメなのと、じたばた暴れてみるけどキョンの腕はやっぱりびくともしない。
「漏れちゃう漏れちゃう! キョンのバカアホ間抜けふにゃちん! 離してぇぇ!」
 ヤバイ不味いヤバイ不味い! 感じる。もうすぐ五センチくらい手前まで来てるのを感じる。
 トイレに行く時間を考慮しても臨界点まで後僅か。
「本当にだめぇ! いやっ、行かせてぇ!」
 この歳でお漏らしとか恥ずかしいにもほどがある。
 しかもこの状況でしちゃったら証拠隠滅のしようもない。というかキョンにもひっかけてしまう。
 ……想像してみよう。朝起きたらあたしにおしっこひっかけられてたキョンは、
『お前、この歳で寝小便とか……しかも俺にまでかかってるし、……はぁ、情けない情けない情けない』
 そう言って白い目をして、うんざりして肩を竦めるんだ。
「うわぁぁん!」
 いや! そんなのいやあぁぁ! 愛想つかされる厭きられる軽蔑されるぅ!
 泣きながら腕を叩く。抓る。引っかく。でも動かない。
「い、いやぁ……」
 脳裏に走馬灯が駆け巡った。高校生のあの頃。大学のあの頃。新婚生活。楽しかった日々。
 そんな輝かしい思い出をばったばったとなぎ倒して、尿意という名前の悪魔が……うわぁ、あぁ、あぁぁ……も、もう一センチ手前まで――
 
 腕がふわっと緩んで、
「はははっ、ごめんなハルヒ。目覚めてたけどさ、なんかお前が可愛くてちょっと意地悪しちまった」
 耳元で可笑しそうな声が聞こえたのと、
「え、ふぇ、あ、いや、ちょっとあんた、あ、だめ、あ、あぁぁっ!?」
 アッー!?
 と何かが決壊するタイミングはほぼ同時だった。

「うふ、ふふ、ふふふ……」
 ――実は俺、スカトロ萌えなんだ――そんな声が聞こえたような聞こえなかったような、どうでもいい気がした。

 涼宮ハルヒの尿意 〜GOOD END〜




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