〜切ない涙 after〜


「ちょっ、ちょっと、何するの?!」
「何って、撮り直すんだ」
「はぁ、どうしてよ」
 すぐに離れようとした私の腕を掴んで、彼はまるで子供のように膨れっ面して、私を引っ張る。
「笑顔が足りんっ」
 はあぁ?
「写真に笑顔はつきものだろう! そんな仏頂面で撮ったのは、写真とはいえんっ」
 真顔で言う彼。
 誰の所為で、こんな顔になると思っているのよ!
 間近であなたの横に立つのが辛いんだから……。

 おそらくこれが、最初で最後の彼との記念撮影。

 複雑な気持ちが強すぎて、うまく表情なんて作れるはずがない。
 私の苦悩とは裏腹に、彼は離れた部下達へと叫ぶ。
「よし、もう一回だ。お前ら、もう一度頼むっ。……ほら、早くしろよ。次は全員で撮るんだから」
「じゃ、じゃあ、皆で一緒に撮れば良いじゃない」
「それじゃあ意味なくなるだろ。二人で撮らなきゃ、二人っきりの記念写真なんてできないだろ?」
「……………………」
 頬に熱が灯る。
 おそらく彼は、何の意味もなく言ったのだろう。幼なじみと撮りたいだけなのだと。
 だから期待しても無駄だ。無駄だとわかっているのに、鼓動が期待を胸に強く打ち付けている。
 この音を知られたくなくて、微妙にさっきより離れた位置につく。
「棟梁~、そろそろいいですか~~?」
「おう、いいぞ。ほらもっとこっち来い」
「あ、えっ」
 彼の腕が私の肩にきた。
 彼の吐息が私の頬にかかる。
 小麦色の彼の顔がとても近くで私に囁く。
「ほら、笑う!」
 無理よ……。誰かさんの所為で体全体が動かないんだから。
 誰かさんの所為で、胸が苦しいんだから……。
「なんだ? 緊張してんのか? それじゃ、目を閉じろ」
 反論する前に、彼は私の目を覆う。
 太陽の温もりのような手は草原の匂いを運んでくる。
「大きく深呼吸して、ゆっく~~~り吐く。…………どうだ?」
 神々しいくらいの笑顔を見せる彼。
 意地を張っている私が馬鹿みたいに思えてくる。
 その表情を見た彼は、満足そうにして、また私を引っ張った。
 絶対、追いかけるから……。待っていてね。 


「はい、チーズ!」
 パシャッ


  ↓
  ↓
  ↓






感想などあればどうぞ(拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。