血と見せかけたただの絵の具・前 (FI)



雑誌の取材で俺だけひとり取り残されて、AM0:00 やっと俺、帰宅。

恋人の恵介くんは俺を置いてさっさと帰りやがったっす。薄情な。

でも部屋に灯が付いてるし何より、鍵が開いていたから靴を隠そうと恵介くんがウチの中に居るに決まってんでしょーが。

靴を隠す意味がわからない。意味わからないけど可愛い。


「ただいま… …うわ」

「おがえり〜」

どうしたの、ねえ、なにしたの、その、ゾンビみたいな。真っ赤なの。

手どころか、顔にまで赤い液体が。恐ろしい恵介くんがお出迎えしてくれた。

「びっくりした?びっくりした!?」

血と見せかけた絵の具かなんか?どっから持ち出したんだ…

「うん…うん、部屋とか汚してないよね?」

「もう血の海!」

「ねぇ〜やめてよ、俺なんか恵介くんに悪いことした?」

「ううん?気分気分。」

どんな気分だ。一体どんなことしてその気分になったんだ。説明してくれ。

とりあえず。

「ふ、風呂入ろう?」

「ヤラシーことしようったってそうはいかねえよ!」

「早くその赤いのを落とさないと追い出す」

「…はーい…」

うん、素直だ。いい子だ。


「あー、よし。きれいんなったよ!ふみや!寝よう!」

「寝るんすか」

「俺は眠いのを我慢してふみやを待っていた」

「ああはいはい、絵の具で遊んでね。」

「おやすみ〜」

「…」

寝かすかっ!






朝目覚めると、隣に彼の姿はない。

帰ったかな?こんな朝早く?まあありえないこともない。

喉が渇いた。ダイニングへの通り道、リビングを目の前に足は止まってしまった。


「けい…すけ、くん…?」

フローリングの冷たい床に、彼が横たわっている。

何でそんなとこで寝てんの?夢遊病なんて持病あった?

それより、また絵の具で遊んだの?昨日と同じ場所、真っ赤だよ?

俺は最悪の事態を考えたくなくとも考えてしまい、眉をしかめる。

そうでないことを願って、彼の身体に触れた。

恵介くんは冷たく、生気が感じられなかった。

嘘でしょ?俺を驚かしたいんでしょ?昨日みたく、笑ってよ…

「けい…恵介くん!恵介くん!!?」

名前を呼んでも揺さ振っても返事が返ってくる筈がない。

ただただ俺は、目の前の現実を受け止めたくないだけなんだ。

だって、ありえないじゃないか。右手に’赤’のついたナイフを握り締めて、冷たくなっている恋人なんて。

信じられるわけがない。

信じられる、わけが…

俺の涙が、恵介くんに落ちる。

乾ききってない’赤’が滲む。






massage?

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