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お礼文は現在1ページです。過去の文のリメイクであり、ホクロの位置などは完全に非公式です。









「ん。ロイド、お前口元に何か付いてるぞ」

賑やかな食堂内でゼロスにそう指摘され、肉を刺したフォークを口に運んでいたロイドは、そこでその手を止めてしまった。

「ん?ここか?」

とりあえずは肉を食べてフォークを口から抜き、唇を赤いグローブに包まれた指で撫でる。しかしその指先には特におかしな感触は無く、ロイドは首を傾げると再びゼロスの瞳を見つめ返した。

「いや、その唇の下」
「ひた?」
「おう。そこになんかちっこいのが付いてんぞ」
「んー?」

その二人のやり取りを同じテーブルに着いて何気なく見つめていたクラトスが、ようやく何かに気が付いたように瞬きを落とした。
三人の座席は、まずゼロスの前にロイド。そしてそのロイドの右隣にクラトスだ。すぐ隣からクラトスが左手を伸ばすと、彼の息子は咀嚼しながら不思議そうに父親へと振り向いた。

「これか?ゼロス」
「あ、それそれ」
「ん?やっぱり何か付いてるのか?」

クラトスの指先がロイドの下唇の斜め右下を指差した。そこには親しい間柄でもよく見なければ解らないような何かが確かにあって、ゼロスは「よく解ったな、天使さま」と片手で頬杖をつきながらコーヒーの入ったカップを口元へと運んだ。

「…ゼロス。これはこの子のホクロだ」
「ホクロ?」
「ああ」

予想しなかった応えに、ゼロスは思わず唇へ触れかけたカップを離した。
そして僅かに丸く開かれた海色の猫目が、もう一度じっくりとロイドの顔を見つめる。見られる側のロイドはきょとんと瞬いてから、「あー…」とようやく理解したような顔をしていた。

「そう言えば昔、ジーニアスにも言われたなぁ。もう何年も前の事だから忘れてたよ」
「ふーん。口元にホクロがあるやつって食いしん坊って聞いた事あるけど、マジっぽいな」
「知るかっつーの。どっちにしろ俺、成長期なんだからどれだけ食べてたって別にいいだろ」

そう言ってロイドは再び皿の上の肉をフォークに刺すと、それをひょいと口へと運んだ。美味そうに頬張る姿を、隣からクラトスはどこか微笑ましそうな顔をして見つめていた。
だが、ふいに顔を前へ戻す。そうすれば今度はクラトスとゼロスの視線がぶつかりあった。ゼロスがじっとクラトスを見つめていたのだ。

「どうかしたのか?」

小首を傾げてそう問えば、ゼロスは質問には答えずにカップを手にしたまま、ずいと顔をクラトスへ近づける。
少し驚きつつ特に何もせずクラトスが瞬くと、ゼロスはテーブルの上に腕を乗せ、更に顔を近づけた。さすがにクラトスは困ったように眉尻を下げてしまう。

「ん~?」
「な、何だ…」
「天使様は無いのね、ホクロ」
「……私か?」

やや身構えていたらしく、両手を行儀良く膝の上に置いていたクラトスが鳶色の瞳を瞬かせる。
そして少し考えた後、クラトスはおもむろに右手のグローブを自ら脱ぎ始めた。何をするのだろうとゼロスが黙ったまま見つめていると、クラトスがそっと白い腕の内側を見せてくれた。


「ここに小さいが一つある」
「あっ!ほんとだ。ちっせー」
「おまえには無いのか?」
「俺さまは右手の中指と薬指の間と、鎖骨のところにちっこいのがあるぜー。セクシーだろ?」
「そうなのか」

自分の鎖骨を自慢げに指差すゼロスと、素直にその小さな点を観察しているクラトスを横目に、ロイドは大の男二人がこう言った話題で盛り上がるのか、と一人冷静にスープを喉に通しながら考えていた。
大体ホクロなど珍しくもなんともないと思うのに。そう思いながらもクラトスの耳の下にある小さなホクロの事をふと思い出し、そんな自分に対する皮肉で一瞬無表情になった。

「でもさー。ホクロって自分じゃ解んねぇところにもあったりもするよなー」

そう言ってようやくゼロスが自分の椅子に座りなおした。クラトスはいそいそとグローブを腕に通しながら「そうだな」と相槌を打っている。

「俺さま、甘~い夜にハニーに言われて背中にあるホクロに気付いたんだよなぁ。でひゃひゃひゃひゃ!」
「………ハ、…ハニー…?」
「あん?……あ、いやいやロイドくんのことじゃねぇから!」
「俺じゃないって!」

クラトスが恐る恐る隣へ振り向いたと同時に、ロイドとゼロスからぴったりと息の合った言葉が飛んだ。
ほっとしたようにクラトスがやっと胸を押さえて安堵の息を零したのを見て、ゼロスはからかう相手をロイドへと変えた。

「天使様にはそういうのとか無いのかねー。ロイドくんは知ってるんだろ?」
「…さぁな」
「あー!その反応は知ってるんだな、お前!まぁまぁちゃっかりしちゃってー! ロイドくんってば……天使様の………え、えろ…い…ホクロ…」
「自分からからかってきておいて、なんで後半声が小さくなってるんだよ!」

エロ神子のくせに、とロイドらしくない言葉を付け足されたが、ゼロスはわざとらしく綺麗に手のひらを合わせた両手の指先で口元を隠したまま、ちらりとクラトスへ視線をやった。
クラトスは再びロイドへ視線をやり、少年にこっそりと助けを求める。冷静な人間がロイド以外に居なくなってしまっていた。
ゼロスはそっと目を閉じ、眉尻を下げて何故か謝ってくる。

「………ごめん。俺さま、クラトスに対してはなんでか分かんねーけど純情なのよ…。なんかえろいこと言っちゃいけない気がすんの…」
「意味わかんねー…」

ちらりとゼロスがクラトスを見、その視線から逃れるためにクラトスがロイドの横顔を見つめる。そしてゼロスも困ってロイドへ視線を移した。
空になった食器類を集めながら、ロイドは黙ってテーブルの上を片付け始める。収集がつかなくなったからと言って自分に助けを求めてくるなと、微妙すぎる空気に包まれたその場も無理矢理整理させるように。









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