in wonder EX after after after!!! ~なのはと遊びに行ってみた~ ヴィヴィオが冬期休暇に入ったということもあり、俺たち三人はとある温泉街へ旅行にきていた。 「……えと、エスティマくん。いきなりタイトルに偽りアリだと思うんだけど。 それにアフターつければ許されるってもんじゃないし……やけくそ気味にエクスクラメーションマーク付けられても困るっていうか」 「何がだ?」 「いやほら、上の方にタイトル……」 「上?」 なのはに云われて上を見上げても、俺の視界にはたった今出てきたばかりの駅が見えるばかりだった。 はて、タイトルタイトル……何かあるかな。 「悪い、なのは。どれのこと云ってるのか分からないや。 指差してくれるか?」 「もう良いよ……」 何がご不満なのか、なのははがっくりと肩を落として溜息を吐いた。 その際、彼女の吐息が盛大に白く染まる。当たり前と云えば当たり前だろう。気温は零度を下回っているのだし。 その証拠に、というわけではないのだけれど、 「ぱ、パパ……寒い……」 ガチガチと歯の根を打ち鳴らしながら、俺の脚に掴まってきた。 思わず苦笑。コートの前を開けてヴィヴィオを抱き上げると、そのまま中へ。 「あったかいー」 「それは良かった――って、ヴィヴィオ、首筋掴むのは止めなさい! つめ、冷たっ!」 「あはは……」 そんなことを駅前でしていたら迷惑になるので隅っこの方へ。 ようやくヴィヴィオが暖まってきたのか、俺が冷たさに慣れたのか。ようやく動けるようになると、ヴィヴィオを下ろして俺たちは移動を開始した。 ヴィヴィオは買ってもらったばかりのトレッキングシューズでざくざくと雪を踏んでいる。 まるでスキップするかのように地面を踏む姿は微笑ましい。もっとも、彼女が手に握っているウサギのぬいぐるみは恨みがましい視線でこちらを見ているけれど。 「うわぁ、寒いのに元気だ……子供は強いなぁ」 そう云って苦笑しながら、なのはは自分の身体を抱き締めた。 コートそのものは冬物だけれど、その下に着ている服は厚いとは云えない。 厚着すると着太りするから、まぁ分からないわけじゃないけど……。 「ま、大人になったらはしゃぎ回って体温上げるとかできないからね。 我慢して見栄を張ろう」 「そうだね……って、なんだかエスティマくんは平気っぽいんだけど」 「俺はバリアジャケットだし、これ」 「そっか……って、管理外世界で魔法使っちゃ駄目なんだよ!?」 「そうだね」 「そうだね、じゃなくて――」 「ママ、パパ、早く行こうよー!」 これからガミガミと説教が始まりそうな勢いだったものの、ヴィヴィオに急かされたからか、なのはは口を閉じる。 閉じながらも、納得できないといった風に鼻を鳴らした。 「ねー、パパ。なんだか煙が出てるの」 「温泉饅頭だね」 「まんじゅー?」 イントネーションが微妙に違う云い方をしつつ首を傾げるヴィヴィオに苦笑。 ぐしぐしと頭を撫でてやってから、おもむろにヴィヴィオを肩車してやった。 「ほら、ヴィヴィオ。煙が出てるお店、たくさんあるだろ?」 「うん。火事なの?」 「火事じゃないよ」 素朴な疑問に、ついつい笑みを零してしまう。 説明するより現物を見せた方が良いだろうと、早速俺は歩き出した。 融雪でシャーベット状になった雪に足を取られないように注意しながら歩いて、店先で三つ購入。 ヴィヴィオに一つ渡して、もう一つをなのはに。 残る一つは俺用だけれど、 「……美味しい」 ……お姫様がもっと欲しがるだろうから、取っておこう。 頭の上でもくもくと温泉饅頭を平らげるヴィヴィオ。しかし、彼女はすぐにソワソワと身体を揺する。 案の定だ、と苦笑して、俺は自分の分である温泉饅頭を献上した。 「どうぞ」 「わ、ありがとうパパ!」 「エスティマくん、甘いんだから……」 甘い云々を云ったらお前だって大概だろうに。 そんなことを思いながら、親子三人で駅から出て、大通りを歩く。 旅館はこっちだったよな、とぶらぶら歩いていると、ふとある物が目に付いた。 「パパ、あれもおまんじゅー?」 「違う違う。あれは足湯だよ」 「あしゆー?」 少し道から外れることになるものの、大通りに沿う形で一つの足湯があった。 やや大きめの公園にあるような、屋根付きのベンチを想像して欲しい。 その下にお湯が張られていて、湧き出た湯気はここまで届くほどだ。 寄りたい、とは思うものの―― 『悪い、なのは。先に旅館に行こうか』 『そうだね。ちょっと残念だけど』 どうやらなのはと考えは同じだったようだ。 俺となのはは休憩がてらここで雑談、とできるわけだが、お子様ヴィヴィオは見知らぬ街に来てじっとしていることはできないだろう。 できたとしても、多分退屈。 ぶーたれてしまえば面倒なのは分かっているのだから、残念と思いつつもスルーするしかない。 頭の上であれはー? これはー? とあちこちを指差すヴィヴィオ。 人を指差しちゃいけませんとは教えたものの、こういうのは別に悪くない。 道を歩きながら軒先で売られているこんにゃくやら何やらを買い食いしたりして、ぶらぶらと予約したホテルに向かう。 選んだところは温泉街とかは関係なしに立派な所だ。 折角温泉街にきたんだから、と年季の入った場所を選ぶのもアリだったけれど、大人の好みに子供を付き合わすのも酷だ。 どこでも楽しめてしまえるのが子供の強さだろうけれど、出来ることなら、自分から楽しみを見付けずに幸せでいて欲しい。 ……なんてことを、いっぱしの父親のつもりで考えたり。 チェックインを済ませると、宅配便で送りつけた荷物を受け取って、指定された部屋へ行くために――なんて思っていると、ヴィヴィオがゲームコーナーの方へとふらふら歩いて行ってしまった。 ああもう、と思わず苦笑い。ミッドチルダ語ではなく日本語で表記されているゲームが多いからか、管理世界にもあるようなUFOキャッチャーへとヴィヴィオは張り付いた。 「ママ、これこれ!」 「こらヴィヴィオ、まずお部屋に行かないと。 ゲームは、また後でね?」 「……はーい」 なのはに諭され、渋々とヴィヴィオは筐体から離れた。 早くゲームがしたいと云わんばかりにうずうずしているヴィヴィオ、それに呆れるなのはと一緒に俺たちはエレベーターに乗った。 そのまま四階まで上がって降りると、目的の部屋まで歩いてゆく。 部屋の扉を開けると、まず真っ先にヴィヴィオが中に飛び込んだ。 わー! と感嘆した声が聞こえるものの、その後を追っかけられるほど無邪気にはなれない。 苦笑しつつ部屋の電気を点けて、ふむふむと頷く。 ダブルベッドが二つ。成人二人に幼児一人だったから、どうしようと少し悩んでこの部屋を取った。 俺かなのは、どちらかと一緒にヴィヴィオは寝ることになるだろう。 「ねぇママ、パパ、ここのお風呂大きいんだよね!?」 「うん、大きいよ。もう入る?」 「入りたい!」 と、既に入浴体勢に入っているようだった。 風呂時にはやや早いが、それだけに空いてもいるだろう。 それに、少し長めに入れば夕食時になる。 風呂に行こうか、と話が決まると、俺たちはそれぞれ男湯と女湯で別れることに。 パパは一緒に入らないの? という素朴な疑問に苦笑しつつ、俺は男湯へと。 一人寂しく風呂に入ったところを描写しても面白みがあるとは思えないので割愛。 風呂上がりに自動販売機で買った牛乳をちょびちょび飲んでいると、浴衣姿になったヴィヴィオとなのはが出てくる。 ふと見上げたなのはは、一言で云えば色っぽかった。 上気した肌に濡れた髪。ミッドチルダでは見ることのできない浴衣姿。裾から覗く生足。しっとりと柔らかで張りがありそうな肌は、なんとも手を伸ばしたくなる。 「……エスティマくん、視線がやらしいよ」 「だって、お前がやらしいんだもの」 「なっ――!?」 風呂で暖まったものとは違う、おそらくは羞恥で顔を真っ赤にするなのは。 そうして固まってしまった母親を無視して、ヴィヴィオは満面の笑みで俺が手に持つジュースに視線を向けてくる。 「パパー、ヴィヴィオも何か飲みたいよぅ」 「その歳で若干媚びた声でお願いするとか、やるねヴィヴィオ。 何が良い?」 「パチパチしたのが良いの」 「炭酸ね」 コーラを選べば、ゴトリと商品が転がり出てくる。 それを手にしたヴィヴィオは、ご機嫌な調子で缶のプルタブを開けると、口を付け始める。 満足そうに一口目を飲んだヴィヴィオを目にしつつ、 『なのは、ヴィヴィオは絶対飲み残すと思うけど』 『うん、私がもらう――ってそれよりね、エスティマくん! ヴィヴィオの前でそういうこと云うのは禁止って決めたでしょ!?』 『そういうのってどういうのだよ』 『えっと、その……や、やらしいとか』 『ヴィヴィオは意味を理解できないだろ』 『理解できなくても子供は新しく覚えた言葉を使ったりするでしょ!?』 『はいはい、気を付けますよ』 『もう、絶対に気を付けるつもりがないでしょ! あのね、エスティマくん――』 『管理外世界じゃ魔法使うの禁止だったんじゃないのか?』 『それは……念話はセーフ!』 『どういうことだよ……』 「……ごめんなさい、飲めないの」 なのはと念話を交わしていると、そう云って、案の定ヴィヴィオは申し訳なさそうにコーラの缶を差し出してきた。 まったくもう、となのはは云いながら、ヴィヴィオから受け取った缶に口を付ける。 やはり風呂上がりで喉が渇いていたのだろう。炭酸飲料だというのに、ゴクゴクと勢いよく飲み干してしまう。 嚥下するため蠕動する喉の動きがちょっとエロい、なんて思っていると、なのはは満足げに息を吐いた。 湯冷ましの意味も兼ねて、ヴィヴィオお待ちかねのゲームセンターへ。 なのはは部屋に洗濯物を置きに帰った。とは云っても、夕食に行かないとだからすぐに戻ってくるが。 ヴィヴィオは早速さっきのUFOキャッチャーに張り付くと、ずっと右手で握り締めていたウサギのぬいぐるみを持ち上げる。 「ウサギさん、どのお友達が良い?」 『どれでも構いません』 「ワンちゃんとかどう?」 『犬ですか。それで良いでしょう』 「うん!」 Seven Starsの声に頷きながら、ヴィヴィオはおそるおそるボタンを押してクレーンを操作する。 Seven Starsは念話でヴィヴィオに語りかけているため、端から見れば人形と一緒にクレーンゲームに夢中となっている少女といったところか。 もう少し歳が上ならやや危ない光景だろうが、今なら別に問題もない。 ――っと。 ふと、ヴィヴィオが心細そうにこちらを見たことに気付き、俺は歩き出した。 見れば、周りから好奇の視線を向けられている。だから助けを呼ぶように、こっちを見たんだろう。 別に何があったわけでもない。ただ外国人の子供が楽しそうにUFOキャッチャーで遊んでいたから、ついつい見てしまったといった辺りだろう。 とは云っても、そこに俺が加わったって逆効果にしかならないだろうが。 近寄って、ヴィヴィオの頭をぐしぐし撫でると一緒になってクレーンゲームをやり始める。 そうして1000円ほど浪費し始めた頃になってようやくなのはが合流し、俺たちは夕食へと出掛けた。 夕食とは云っても、温泉街らしい和風料理のフルコース……ってわけじゃない。 宿泊先にホテルを選んだこともあり、今日はバイキング。浴衣姿でバイキングってのも変な話だが、それも日本らしいと思えばアリか。 大食堂――というか、宴会場か。結婚式などのイベントがあったら貸し出されそうな広い会場に入ると、既に夕食は始まっていた。 時間は九十分とのことだが、一時間もあれば満腹にはなるだろう。 で、早速お姫様は、 「ママ、ケーキ! ケーキ!」 「うん、分かってるよヴィヴィオ。けど、ご飯食べてからじゃなきゃ駄目」 「えぇー……ヴィヴィオ、ちゃんとご飯も食べるから先にケーキ……」 「駄目。先にご飯」 「パパー!」 「先にご飯を食べなきゃ駄目」 「ウサギさんッ!」 『ご飯を食べなさい』 「……そんな」 ガックリと膝を着くヴィヴィオ。知らない内に芸達者になったようだ。 動こうとしないヴィヴィオを抱き上げて、なのはと一緒に指定されたテーブルへと歩いてゆく。 その際、周りから向けられる好奇の視線を肌で感じた。 それもそうか。俺とヴィヴィオは外人さん。なのははなのはで日本人だが、まぁ美人と云っても良いし。 色々な意味で人目を惹いてしまうのだから、仕方がない。 「ねぇねぇウサギさん、どうして皆は私たちのこと見ているの?」 『珍しいからですよ』 「そうなの?」 『ええ』 ヴィヴィオには自分たちが珍しいという自覚がないのだろう。 それもそのはず。ミッドチルダは多種多様な人種が入り交じって、その癖、人種にまつわるいざこざが皆無と云った嘘のような世界だ。 世界ではなく次元という、一段階上の視点で世界を見ているせいなのだろうか。そこら辺は分からない。 ともかくヴィヴィオには、外人さん、という固有の概念が分からないのだろう。 『ヴィヴィオのパパとママは、イケメンさんと美人さんですからね』 「おいこら」 「ちょ、Seven Stars……」 わざわざ俺たちにも聞こえるように念話を発したSeven Stars。無論、一般人には聞こえないよう調整してあっただろう。 それを聞いたヴィヴィオは得意げな顔をすると、おいでおいで、となのはを手招き。 なのはは美人さんという言葉に頬を染めながらも、不思議そうにヴィヴィオに近付いた。 「ヴィヴィオ、何?」 「ママ、パパと手を繋ごうよ」 「えっと……うん」 無茶なことを要求してくれる……。 片手でヴィヴィオを抱っこしながら、空いた片手でなのはの手を握り締める。 「ヴィヴィオたち、仲良し家族だもの。 これでもっと羨ましく見えるよね!」 ……こんなことを恥ずかしげもなく云えるのも、子供の特権だろうか。 それとも、女の子だからだろうか。 そんなことを考えながら、俺たちは夕食を開始した。 ホテルの夕食は悪くないと云えるレベルであり、充分に美味しくもあった。 やや値段が張っているのはご愛敬と云ったところか。けれどこの味なら、ロビーにあったレストランも期待できるかもしれない。 ちなみにヴィヴィオはなのはの許しが出るまでご飯を食べた後、ケーキを三切れ口にしてギブアップ。 満足ー、と幸せそうにしていた。 つづく |
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