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久々に会う友人がやるように、家へ招いた三成と家康は自分のアルバムを見ることになった。見たいと言ったのは三成で、そんなベタなことを三成もしたがるのだと変なところに家康は感心を覚えた。
写真の数はさほど多い方ではないと思うが、なかなか三成が1冊めを置かないのはページを繰る手がゆっくりだからだ。まだ家康が幼稚園に通っているあたりを1枚1枚目に含むように眺めている。その様子に、随分熱心だなあと、手持ち無沙汰にまだ整理されていない写真の入った箱の中を眺めていたのをやめ三成の手元を覗き込んだ。そこには七五三の記念写真とおぼしき何枚かが並んでいた。
思わず声をこぼして笑ってしまったのに、三成の静かな横顔がなんだとすっと視線を滑らせるだけで尋ねてくる。
「いやこのときのワシ、足袋を履くのを何故だかすごく嫌がったらしくてなあ。ほら、これ履いてないだろ」
指差す写真にはきちんと着物と袴を身に着けた自分が写っているが、よく見れば足元だけまるで間違い探しのように素足だ。
「それでこっちが、この後なんとか説得されて撮ったやつ」
何がそんなに嫌だったんだろうなあと、今では笑い話でしかないそれを今はいない祖父と手をつないで不満気な顔で写るその写真に思い出して目を細める。ふと、三成を見れば自分のがそっくり映ったような顔をしていた。懐かしいものを見るやさしい眼差しだ。
首をかしげながらも、家康は変に声もかけることもできなくてそろそろ母が用意してくれているだろう茶と菓子を取りにそっと立ち上がった。
盆を片手に部屋へ戻ってくると、なぜか三成がこちらへ背を向けるように身体の向きを変えていて、その、三成らしくないほんの少し丸められた姿勢にも違和感を感じ、後ろでに引き戸を閉めながら声をかけた。
「三成?」
どうした、とやさしく尋ねたのに、三成がゆるく横に首を振るだけで応える。そうして隠すように手が動いてそれが目元をこすったようにしか家康には見えず、突然のことに目を瞬いた家康は茶をこぼさないように気を使いながらけれどすばやく盆を机に置いて、振り向こうとしない三成の斜め後ろに様子を窺いながらそっと腰を下ろした。
三成は、まださっきの七五三のページを開いていた。祖父と自分ばかりが写る懐かしい写真。そうえいば初めて三成が自分の家に来たときも似たような写真を見せたことがあったのを家康は思い出した。お前もこんなふうになる、と祖父を見て笑って、さっきと同じような顔を三成はしていたのではなかったか。
ああ、と掠れた声をなんとか我慢して飲み込み、家康は自分の気の回らなさを後悔して目を伏せる。前世を知っているからといってすべてを知ったように気になるのは傲慢だ。こんなに分かりやすくて目に見えることを、自分たちはまだ知らない。それは長い長い道のりそのままだ。
「……三成、こっち向いてくれないか」
言って、少しの沈黙を守る。何も応えない三成の背中をどういう顔で見れば良いのか分からなくなって、あぐらをかいた足を器用に引きずってのそのそと前へ進み、細身のその背中へ額を押し付けた。空を食んだ唇を引き結んで目を伏せる。
なんて、愛おしくて切ないのだろう。一緒に年を取ろうというたった一言を願って言えなくて、家康はその儚さをはじめて知った。



2014.8.9...戦国BASARA 家康×三成 『三成、こっち向いて』



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