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お礼のミニ小説です - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 壊さないと先に進めない。 わかってる。わかってるけど、でも、怖い。 CRASH 「私と上田さんの関係って、不思議ですね」 唐突に、奈緒子は言った。けれど視線は自分の指先、小器用に何かを作っているらしい。 「何だ、突然」 「思っただけですよ、深い意味はありません」 その口調が妙に意味深で、それを、なんでもないと淡々と言う奈緒子が解せぬとでも言うように、上田は不機嫌そうに眉を潜めた。 「…俺とYOUの、関係か」 「いいですよ、別に無理に考えなくても」 「そういう訳にもいかないだろ、聞きたいから言ったんだろう?」 自分の鼻先を、親指と人差し指でつまむようにさすりながら、上田はぼんやりと天井を見つめる。 「言われてみると、確かに不思議だよなぁ…」 「マジシャンと物理学者。接点なんてどこにもないのに、こうして同じ場所にいて言葉を交わしてるってのが一番不思議ですよね」 「そうだな…って、今の言葉には僅かにトゲがあったぞ、何か不満なのか?」 「そんな事、一言も言ってません」 幼稚じみた遣り取りの後、不意に奈緒子が上田の方に視線を向けた。 「な、なんだよ…」 「あー…いえ、別に何も」 何かを言おうと口を開いたものの、言葉が続かずにそのまま視線を自分の指先へと戻してしまう。なぜだか、少し戸惑いがちに。 「なんだよ、言えよ」 「なんでもないですよ、言ったじゃないですか」 「言ってないだろ。言い含みやがって、気になるじゃねーか」 「うるさいなぁ、気が散るじゃないか…黙れバーカバーカ」 「なっ…なんだお前、じゃない、YOU…」 業を煮やしたのか、上田はそっぽを向く奈緒子の肩を掴んで無理やり自分の方に顔を向けさせる事にした。 「うにゃっ?!」 ザラザラ…と、奈緒子の手から何かが落ちて散らばった。 「あー…あーぁ、上田さんが邪魔するから…」 零れ落ちたのは小さな、ビーズの粒。 「お、おぉ?何だコレ、何やってたんだ?」 「ビーズですよ、ビーズアクセサリー。ネックレスとか作ってたんです、上手に出来れば結構いいお金になるんです」 「人と話してる時に内職なんてすんなよ」 「しょうがないじゃないですか、懐が寂しいんですから」 正論に、うっと言葉詰まる上田。奈緒子はというと、面倒くさそうに手を伸ばして、散らばった色とりどりのビーズを拾い集めだしていた。 「す、すまん」 「謝るなら手伝ってくださいよ」 「あ、ああ」 奈緒子の言葉に従って、上田も屈んで粒を拾い始めた。小さなビーズ、キラキラの。 「なあ、YOU」 「何ですか」 拾いながら、上田は口を開き続ける。 「さっきの…件だが」 「何ですか?」 「もしかして、今のこの関係に不満でも抱いてるのか?」 マジシャンと物理学者。教授と助手。俺とYOU。 「別に、そういう訳じゃないですけど」 マジシャンと物理学者。事件に巻き込む人と巻き込まれる人。私とあなた。 「ただ…」 拾う手を一度休ませるように止めて、奈緒子は続ける。 「接点もなくて会話もかみ合わないのに、一緒にいるのって不思議だなぁって思っただけです」 ただ本当は、それ以上を心のどこかで望んでいながらも先に勧めない自分に戸惑っているだけ。 「ふぅ…ん、そうか」 奈緒子の差し出したケースに、拾い集めたビーズを入れる。 「なんだかんだで結構ずっとこの関係ですしね、いい加減慣れてきましたけど」 「そうか、まぁ俺は別に、今以上になってもいいんだけどな」 ザラザラとビーズの音のかき消されるほど微かな声で、そっと呟く上田の声が奈緒子の耳に聞えた。 知ってる、私と同じように思ってる事。でもお互いに、先に進んでしまったら、もう元には戻れなくなるとわかっているから。 だから結局、何も出来ないで今のまま。 壊さないと、先に進めない。 わかってる。 わかってるから、そんな事… TRICK ウエヤマ CRASH |
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