「まだ、熱は下がらない?」 こくり、とマーキュリーが力なく頷いたのが見えた。 抑えられた照明を反射して滲む汗が、彼女の細い髪の毛が額に張り付けている。 それらをそっと指で掻き分け、そのまま下りていった先の頬を撫でた。 発熱の理由も自身の身体を苛む痛みの訳も、きっと彼女は分かっているのだろう。 それを理解したうえで、仕方ないと受け入れてひたすらに耐えている。 眉間に刻まれる深い皺が語るのは、彼女が戦っている痛みの強さ。 枕もとに座っていることしかできない、今の自分の状況が歯痒かった。 けれど、額を覆う脂汗を拭い、冷えたタオルをその頬や額にあててやること以外にできることなど何もない。 「……情けないわね」 「そんなことないわ」 無理に否定しなくていいわ、と力なく言って、マーキュリーの手が濡れタオルに添えられる。 "メンテナンス"という名の肉体改造が行われるたびに、マーキュリーは痛みにあえいだ。 彼女のオリジナルの部分が拒絶反応を起こすのか、時には高い熱も伴って。 「いつもみたいに、休めばすぐ治るわよ」 気休めにもならないヴィーナスの言葉を、マーキュリーは首肯してくれる。 その様子は、けれど無力感をさらに強めただけだった。 それに歯噛みするヴィーナスをよそに、気づけば規則正しい吐息がそこにあった。 寝てしまったのかとその横顔の輪郭を窺い、ヴィーナスはそっと腰を浮かせる。 かたん、と木製の椅子が軽く音を立て、その音に彼女の瞼が震えたような気がした。 薄い皮膚の向こう側で、ぐるりと回転する眼球。 「帰るわね」 届いているかどうかは分からないが、そう耳元に囁いて、ヴィーナスはそっと彼女の傍を離れる。 くるりと踵を返したヴィーナスを引き留めたのは、マーキュリーの密やかな声だった。 拍手ありがとうございます! |
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