【トイレ】
とある教室移動の途中、私は無性に用を足したくなってしまった。 『じゃあトイレに行けば良いじゃないか』と思うかもしれない。 しかし生憎、私が今居るのは2階の渡り廊下。 最初にも言ったが、移動教室の帰り途中なのだ。 2階と言ったら、上級生の教室がズラリと並ぶ階であり、暗黙の了解でその階のトイレは上級生専用になる訳で…。 実際問題、上級生の階のトイレに私みたいな後輩が入るなんて、とても勇気が必要とされる。 『じゃあ遠回りしてでも他のトイレに行けば良いじゃないか』…だって? そんな甘い事は言ってられない。 私の膀胱は、もうとっくに破裂寸前なのだ。 私は隣を歩いているクラスメイト、件友達である平沢憂に、『トイレへ行く』と一言伝えここから一番近いトイレに向かって早足で駆け出す。 心優しい憂は『一緒に付いて行こうか?』と言ってくれたが、ここは丁重にお断りをした。 私のせいで次の授業に遅れたら悪いし、上級生の階のトイレだからって何も怯える事はないのだ。 トイレぐらいひとりでいけるもん! …とまぁ前置きもこれぐらいにして、現在、私はトイレの入り口に立っている。 ドアのガラス越しに中を伺うと、特に人影は居ないみたいだ。 しかし油断は禁物。 私はトイレのドアを開け、そ~っと頭を隙間から差し入れて全体を見渡す。 ドアを開けた瞬間、トイレ独特の臭いがむあっと鼻の中に入ってきた。 こればっかりはいくら嗅いでも慣れる気がしない。 いや、慣れてしまってもそれはそれで何だか嫌だが。 とりあえず運が良いことに、トイレには誰も入っていないようだ。 入るなら今がチャンス、好機、うーんと…と、とりあえず入れって事ですっ! 私は前屈みになりながらもトイレの個室へと早足で駆け込んだ。 ☆ シャアアァァ... 「…ふぅ~」 膀胱の近くまで溜まっていた廃棄液が、高々と虹を描くように便器の中へと噴出される。 なんとか『お漏らしあずにゃん』と言う汚名からは免れたようだ。 しかしいつまでも余韻に浸っている訳にはいかない。 こんな物騒な所から一刻も早く出なければ。 私は便器の水を流し、個室の鍵を開けて出ようとした…が、その時。 ガタッと誰かがトイレに入ってくるような物音がした。 私は状況反射で開けた鍵を閉め直し、個室の中でじっと息を潜める。 するとパタパタと足音がこちらに近付いて来て、私の入ってる隣の個室に誰かが入ったみたいだった。 今こっそり出れば気付かれないでここから脱出出来るかもしれないが、トイレに入ってきた足音は1人の物ではなかったのだ。 もしかしたら他の誰かが外で待っている可能性がある。 私は出ようか出まいか思索する。 「早くしろ~。次の授業始まっちゃうだろ~」 すると少し遠くの方から、誰かを呼ぶ様な声がした。 やっぱり私の推測通り、もう1人は外で待っていたようだ。 (…って今の声はもしかして…律先輩?) そのすごく聞き覚えのある声に、私は拍子抜けてしまう。 (外で待っているのが律先輩だとしたら、隣に入ってるのって…) 「待ってよぉ~後もう少しなんだよ~」 またすごく聞き覚えのある、ほんわかぽわぽわな甘い声が隣の個室から聞こえた。 間違いない。 私の隣に入ってるのは唯先輩だ。 これが知らない人だったら少し身構えてしまうが、軽音部の先輩達だったら話は別。 私は個室から出ようと悠々と閉まっている鍵に手を掛けようとした。その時― キーンコーンカーン... 次の授業が始まる予鈴が鳴ってしまった。 あまりのタイミングの良さに、私の手はピタッと静止してしまう。 「あ、予鈴だ。先教室戻ってるからなー」 「え!?そんなぁ~」 「バタンッ」とトイレのドアが閉まる音がした。 律先輩は、本当に唯先輩の事を置いて出て行ってしまったみたいだ。 私と先輩だけになったトイレは静寂に包まれる。 誰かが手を洗った時に捻り足りなかったのか、「ポタ..ポタ..」と蛇口から水が垂れている音だけが聞こえてくる。 (今そっと出れば気付かれないでここから出れるかもしれないけど…) なんたって…隣に入っているのは、他ならぬ唯先輩。 この際だから吐露するが、実は私、中野梓は唯先輩の事を密かに想っている。 頭を撫でてくれる優しい手とか、抱きしめてくれる暖かい身体だとか、『唯先輩の好きな所を言え』と言われたら私はいくらでも挙げられるだろう。 そんな想い人が私の隣でトイレを…しかも私がここに居る事は気付かれていない…。 (ごくり…) 私は静かに唾を飲み込み、そっと隣に面する壁に耳を当てる。 すると僅かだが、『チョロロロ』と言う水音が聞こえてきた。 (いま唯先輩はう○こ座りになって…はぁ…はぁ…) 私は壁に一生懸命耳を押し付け、水音を聞きながら頭の中で唯先輩がおしっこをしている姿を想像をする。 勘違いしないでほしいが、私は断じて変態などではない。 こんなことするのも考えたいのも、唯先輩ただ一人だけだ。 恋は時に人を狂わせるのである。 ふと下を見ると、僅かだが隙間を見つけた。 屈んで覗けば隣の個室の様子が伺えるくらいの…。 (ここから覗けば唯先輩の………ハッ!?駄目梓!そんな事までしてしまったら正真正銘の変態だよ!) 脳内ピンクになっていた私は正気に戻り、頭をフルフルと振り邪な考えを外へと吹き飛ばす。 「ふぅ~…あっ、紙がない!」 唯先輩の声に頭を振り続けていた私はハッとする。 どうやら先輩の入った個室はトイレットペーパーの紙が切れていたみたいだ。 「どうしよぉ~拭けないよぅ…」 困ったような先輩の呟きが聞こえる。 (唯先輩が困っている!…ここからトイレットペーパーを投げ入れてあげようかな…いや、でもそんな事したらバレてしまうかも…) どう助けてあげようかうんうんと悩んでいたら、私はふと、ある事に気が付いた。 (…ん?待てよ…?紙が無いと言う事は拭けない訳で…。と言う事は…今先輩のアソコは……) 私は頭の中でテラテラとおしっこで濡れた先輩のアソコを想像をする。 ※ 『紙がないなら仕方ありませんね。私が舐めとってあげましょう』 『やぁっ!あずにゃ…そんなとこペロペロしちゃ汚いよぅ…』 『唯先輩に汚いとこなんてないですっ!ペロペロペロペロ!』 『ふあぁ~あずにゃ~ん』 ※ 「ふふふ…ふぇへへへへ」 もわもわと私の脳内に唯先輩との甘い妄想劇が繰り広げられる。 もう一度言っとくが、私は断じて変態などではない。 増してはアブノーマルな性癖も無い。 そういう事を考えちゃうお年頃なのだ。 「ふっ…ふっ…」 鼻息が荒くなってきているのが自分でも感じる。 ツーンと鼻の奥が急激に熱くなったと思って手で触ってみると、私の鼻からは鼻血がたらーっと垂れてきてしまっていた。 私の頭は唯先輩の事でいっぱいになってしまってもうパンク状態だ。 (が、我慢できない……覗こう。梓は悪い子です……いや、私は猫、猫なんだ。猫だったらこんな隙間から隣の個室ぐらい見ちゃっても仕方ないよね?不可抗力のはずだよね?) 私は頭の中で理屈の通らない自己解釈をし終えると、その場にしゃがみ込んで僅かな隙間からそぉ~っと隣の個室の中を覗き込む。 しかしそこには誰も居なく、ただの空っぽのトイレだった。 「……あれっ?」 私は思わず声を出してしまう。 するといきなり私の入っている個室のドアを誰かにコンコンとノックされた。 「あーずにゃん♪」 いきなりの事態に私の身体はビクゥッと縮こまる。 それは紛れもなく唯先輩の声だった。 「あずにゃんがずっと居たのはわかってるんだよー?ここ開けて?」 (な、なんで…!?) 先輩の衝撃的な発言に私の頭はパニック状態に陥る。 ここまで来たらもう逃げられないと感じ、私はトイレの鍵を開けた。 鍵を開けた瞬間、唯先輩は強引に中に入ると、再び個室の鍵を閉めた。 「こんな所で鼻血なんか垂らして、“何”してたのかな?」 ニッコリと微笑みながら私の顔を見つめる唯先輩。 いつもなら心トキメク可愛い笑顔のはずなのに、この状況ではとても恐ろしく感じてしまう。 「ぁ、あ…ぅ…」 私は足をガクガクと震わせながら、声にならない声を口から漏らす。 「私のおしっこしてるとこ想像して、興奮しちゃったの?」 そんな私を煽るように、先輩は刺々しい言葉を私の心臓へと突き付ける。 「うぅ…ひ、ひどいです…私が居るの知ってて、嘘付くなんて…」 私の心は先輩のナイフで刻まれてズタボロだ。 思わず涙が出そうになるのをグッと堪える。 「ん?嘘じゃないよ?紙がなかったのは」 先輩は顔をシレっとさせそう言うと、スカートを一気に捲り上げた。 「え!?何して…!?」 衝撃的な光景に私は言葉を詰まらせる。 先輩はパンツを穿いていなかったのだ。 「ほら、ここ舐めて綺麗にして?…私のおしっこしてるとこ覗こうとした罰だよ…」 先輩は後ろ手に持っていたパンツを私の頭に被せると、腰を突き出し私に見えるようにアソコを指で開いた。 そんな誘惑的な先輩に、私の身体は再び興奮し始める。 「はぁ…はぁ…唯…先輩…」 私はトイレの床の汚さも気にせずに、先輩の前に跪くのだった。 fin♪ |
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