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【本日の運勢:★★★】



今日のあなたは絶好調!

あなたの魅力に魅せられて、幸運の方から転がり込んできます。

もしかすると嬉しい出会いがあるかもしれません。





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土曜日の昼下がり、特に出かける用事もなく畑中家の二階の自室にこもって

本を読んでいた蔵馬は、カタリという小さな物音に気付いて顔を上げた。

音のした方を振り返ると、案の定見知った黒い人影が窓枠に手をかけている。

家の外から、つまりは屋根の上に立って窓を開け、事もなげに入ってくる人物の名を

蔵馬が呼ぶのと呼ばれたその人が室内に足を降ろすのとはほぼ同時だった。



「飛影」



魔界統一トーナメント終了後すぐに人間界に戻った蔵馬とは異なり

飛影はいまだ魔界に留まり続けている。

百足に残った面々の大半はパトロール隊に組み込まれたと聞いており、

彼もまたその一員として日々、彼曰く「退屈な日課」をこなしているはずだった。

その飛影が珍しく人間界に姿を現したことに、蔵馬が不思議そうに首をかしげた。



「どうかしましたか?」

「いや」

「? 用事があったわけではなく?」

「ああ」



尋ねてみても、返って来る返答もあいまいなもので要領を得ない。

ともあれ何かあるならばそのうち自分から言いだすだろうと、

蔵馬はとりあえず飛影に靴を脱ぐよう促してから、適当な場所に座ってくつろぐようにと勧めた。

ついでに何か飲み物でも持ってこようと勉強机に読みかけの本を置いて、イスから腰を浮かす。



「飛影、何がいいですか? お茶、コーヒー、紅茶、オレンジジュー…」



言い終わらないうちに、顔の上に影がさした。

目を上げると、いつの間に移動したのかすぐ目の前に客人が立っていた。



「飛、」



呼びかけた名前は、突然落とされた唇によって遮られた。

驚き、目を見開く蔵馬の視界いっぱいに精悍な顔が広がる。

あれとあれよと言う間にぎゅっと上から抱きかかえられ、体重をかけられて蔵馬がストンとイスに腰を下ろす。

ただ触れるだけでは飽き足りなくなったらしく、悪戯な舌が唇をこじ開けて口内に侵入してきた。

縦横無尽に這いまわる舌に、条件反射できゅっと目をつむる。

絡ませ合い、強く吸い上げられると背筋にゾクゾクとしたものが走った。

小作りな頭を掻き抱いた飛影の手が優しく頬をなでる。

いつになく甘い口付けは、またたく間に蔵馬を酔わせた。







「…あの、一体どうしたんです?」



長い口付けのあと、ようやく唇だけは解放したものの

いまだ抱き締める腕を離さぬ飛影にやや困惑した声で蔵馬が問うた。

その頬は熱のこもった先ほどの行為の余韻にか

それとも慣れぬシチュエーションへの恥じらいにか、ほんのり朱に染まっている。

黒衣の彼らしからぬ行動に戸惑いは感じるものの、それは決して不快ではなく、むしろ心地良さを感じる。

けれどしばらく待ってみても答えが返ってくることはなく、「仕方ないなぁ」と蔵馬は苦笑した。

何かしら意図はあるのだろうが、素直に口にする人ではないということも

短くはない付き合いの中で良く知っている。

こうなったら好きにさせておこうと力を抜いて己を抱く腕に身を委ねた時、

ふいに、ぶっきらぼうな声が頭の上から降って来た。



「……お前に会いに来た」



予想外の答えに、思わず蔵馬が頭上を振り仰ごうとする。

が、ますます腕に力を込められ、逆にむぎゅと顔を胸に押し付けられてしまった。



「飛え」

「黙れ」



不機嫌そうな声。

抱き締める腕。

馴染みのあるにおい。

いつもより若干高い体温。



「…うん」



蔵馬はつぶやくように言って目を閉じ、たくましい胸に自ら頬をすり寄せた。

こんな時には言葉は要らないと。その想いは、蔵馬も同じだった。

飛影の胸に顔をうずめたまま、ホ、と小さく息をつく。

その顔にはこれ以上ないぐらい幸せで、穏やかな笑みが広がっていた。







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