アマランスを咲かせたら third (溺愛x盲目/ヤンデレ) ※絶対的幸福論に出てきた棗と同一人物ですが、このお話とは全く関係ありません。別物としてお読み頂けると幸いです。 (あ…うそ、まただ…っ) 朝起きると下半身の湿り気に顔を歪ませる。 恐る恐る下着越しに触れてみれば、ぐちゃりと嫌な音がした。 棗さんの家に来てから、数ヶ月経とうとしている中、最近悩みが一つ増えた。 二週間に一度、多い時は一週に一度の頻度で寝ている時に粗相をしてしまう。 この歳になって、おねしょをするなんて思ってもいなかったし、本当に恥ずかしくて、死んでしまいそうだった。 でも、どんなに気を付けても治らない。 一度くらいなら、緊張や環境の変化でそうなることもあるかもしれないけど、この回数は明らかに異常だった。 「楓くん、起きてるかな。開けるよ?」 ノックの音に勢いよく上半身を起こす。 幸いなことに、僕の粗相は少量で布団まで濡らすことはなく、下着の中で収まっている。 なので、気付かれることはないかもしれないが、万が一に備えて起きていた方がいい。 前にショックで布団にうずくまっていたら、心配をした棗さんに病院に行こうと言われてしまったことも、その理由の一つだった。 棗さんが入ってくる気配がして、ベッドが重みで軋む。 思わず緊張で身体が硬くなる。 「おはよう」 「あ、おはようございます…」 きっと自然に出来たであろう挨拶のキスを済ませば、頬に手を当てられる。 不思議に思っていたら、楓くん、と少し心配そうな声音にしまったと思う。 「大丈夫?何だか元気ないみたいだけど」 「え、そんなこと…ちょっと眠いだけですよ」 「…そう?よく眠れなかったのかな、今日はお昼寝した方がいいかも」 何とか誤魔化せたことに安心する。 棗さんは僕の些細な変化でも分かってしまうので、嬉しくもあり、少し煩わしい。 でも、そのおかげで両親から離れることが出来たので、感謝もしている。 僕を起こし、パジャマを脱がす手にハッとして慌てて制した。 毎朝着替えを手伝ってもらっているけれど、今日は断らないといけない。 「あっ、あの!棗さん、自分でやります」 「どうしたの?実は昨日、楓くんに似合いそうな服を買っておいたんだ。でも、少し着方にコツがいるから…」 「頑張ります!」 「…そっか。今日は頑張る日、なんだね。もし、分からなかったら聞いてね?」 服を渡され、ドアが閉まる音を聞いてからようやく息を吐く。 棗さんは僕の意見を大抵聞いてくれるので、今のように僕が引かない時は“頑張る日”としてやらせてもらえる。 それでも心配なのか、様子を窺ってきたりするけれど。 素早くベッドを降りて、下着があるクローゼットを開けた。 もう何度となく使っているのに、開けてから少し悩んでしまう。 棗さんはよくクローゼットの整理をしてくれる。 新しい服を買うと、せっかくだから綺麗にしたいらしい。 でも、僕にとってはいつまでも位置や場所を覚えられないので困ってしまう。 今朝のようなことが起こると尚更。 考えても仕方ないので、昨日まではあった下着の場所を探すと目当ての物を見つけ安心する。 嫌な湿り気を再び意識すると、早く脱ぎたくて仕方ない。 ベッド付近まで戻りティッシュを手探りで取ると、素早く脱いで大まかにそれを取り去る。 あまり時間を掛けてしまうと、棗さんが様子を見に来るので、あとでお風呂に入ろうと新しい下着をポケットにしまう。 ズボンを穿いて、上を着ようとして手が止まる。 触って形を確かめてみるも、どうなっているか分からない。 着方にコツがいると言っていたけれど、何だか布の面積が少ないように感じる。 紐のようなものがあるし、これはどこかに結ぶのか、飾りなのか。 (どうしよう…わかんない) でも、ぐずぐずしていられない。 ただでさえ、下着を探すのに時間を取られているのだから、とりあえず頭を入れて身に付けた。 やはりしっかりは着られず、だいぶ肌が出ている気がするけれど。 「大丈…ああ、おいで、楓くん」 声のする方へ歩いていけば、クスリと笑う声がした。 服一つまともに着られないなんて恥ずかしくて俯けば、頭を撫でられる。 「ごめんね、分かりにくかったでしょう?」 「あの、僕…ごめんなさい」 「どうして謝るの?俺がもっと簡単な服を選んであげれば…」 再びごめんね、と言われて大きく首を振った。 僕の為に選んでくれたなんて、嬉しくない訳がない。 棗さんこそ謝る必要はないと、必死に否定すればまた頭を撫でてくれた。 そして、紐のような部分は首に巻かれて後ろで結ばれる。 少し整えられたものの、やっぱり肩から腕は出たままだった。 「はい、これで大丈夫」 「あ、ありがとうございます…でも、」 「すごく似合ってるよ。 暑くなってきたからね、涼しげな服にしてみたんだ。 青と迷ったんだけど、白で正解だったね」 まるで自分のことみたいに嬉しそう話す棗さんに、それ以上は何も言えず、笑ってみせた。 朝食を済ませていると、お仕事に行く時間になっていたようで慌ててイスを降りた。 食べてていいよ、と言われたけれどこれだけは欠かせない。 「じゃあ、いってきます」 「いってらっしゃい」 ちゅ、と軽い音をさせて頬にキスをすると、反対側にされ抱き締められる。 いつまで経っても挨拶はまだ気恥ずかしさがあるけれど、人の体温を感じられるこの行為は好きだった。 初めてそうされたのは施設の鈴木さんで、された時はよく分からなくて困惑した。 そんな僕を見て、これは大事に思っていたり、好きだと思う人にするんだと聞いてすごく嬉しかったのを覚えている。 鈴木さんにとって、僕はその対象だということだから。 棗さんはもちろん、お母さんやお父さんも抱き締めてくれた時は思わず泣きそうになったくらいだった。 → |
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