そんなことは教えてあげない(光謙)









(謙也さんのお誕生日が平日だった場合)




「謙也くん、お誕生日おめでと!」

 部活に行こうと誘いに来るとそんな声が教室の中から聞こえてきて思わずドアを開ける手を止めてしまった。
一度タイミングを逃してしまうと、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
空気を読まずに入っていきたいとも思うが、この後の会話も少しだけ気になる。

 モテるとは違う意味で謙也は人気だ。
話しかけやすいし、優しいし、ちょっとだけ面白い。そしてこの時期。
もう少しで卒業してしまうという焦りから何かを持ってきて謙也と話をしようとする女の子が増える。

「おおきに!」

 バレンタインなどとは違い、お返しなどの気配りが必要ないプレゼントは断る理由がなく謙也は笑顔で差し出された物を受け取る。
他愛もない会話。
このままクラスに入って行っても平気なはずなのに、足が動かない。




(平気や。謙也さんは、俺の方向いてくれる)



 怖がる事なんて…





「財前?何しとんねん」
「………白石、部長」
「謙也迎えに来たんとちゃうん?」
「…今、入るとこっすわ」
「なんや。謙也がモテモテなんが嫌で入られへんのかと思ったわ」
「…………別に、そんなんちゃいますわ」

 なら、早ぅ入れや。
という視線に背中を向けて財前は普通を装ってドアを開けた。
そんなに大きな音も立たずに中では謙也が数人の女の子に囲まれてる姿が見えた。
想像通りではあったが若干周りにる人数が多い。

 だが後ろには白石が試すような視線を向けて立っている。
振り返る事も逃げる事も許されずに、財前はポケットに手を入れたままずんずんと教室の奥まで進んでいく。

「謙也さん!」
「あ、財前」

 それでも全く気が付かない謙也にイラッとして財前は声を荒げた。
だが謙也は財前の変化にも気が付かずサラッと返事をしてもらったものを鞄へと入れ始めた。

「迎えに来てくれたん?」
「謙也さんおらんとダブルスの練習出来へんし」
「おーきになぁ!っちゅーわけで、また明日な!コレ、おーきに!」

 鞄を揺らして中の物をアピールすると女の子達は小さく笑った。
可愛いと思う。本当にうれしそうに、笑う事が出来て。
財前は一応先輩でもある女の子達にぺこりと頭を下げて謙也よりも前を歩く。

 白石がこちらを見ていたけれど、もう、視線なんて合わせたくなかった。

「………」
「年に一度やけど、誕生日っちゅーんもええな!」
「………」
「…財前?」

 スタスタを一人前を歩く後輩に話しかけても何の返事も聞こえない。
初めはただ聞こえないだけかと思ったが、それから何を聞いても財前はうんともすんとも言わない。

 そこで謙也は財前の機嫌が悪くなっている事に気がついた。
だが原因が自分にあるのか他にあるのかが分からず深く追求する事ができない。
自分であれば火に油を注ぐような状態になりかねず、誕生日に喧嘩をしたくない謙也は部室につくまでぎゅっと鞄を抱きながら耐えた。

「……ざ、ざいぜん?」

 ようやく部室に入って、おずおずと声をかけた。
目の前にいた財前がくるりと謙也の方を向いたが、その表情は謙也が思った以上に普通で少し安心してしまう。

 しかし相変わらず財前は何も発しようとはしない。
何を言われるのかと心臓が変に騒ぐ。ざわざわと不安でいっぱいになってきゅっと苦しく締め付ける。

「ぷ」
「う?」
「ははッ…謙也さん、ほんま…はッ」
「え?ちょ、財前?」

 柄にもなく笑いだした財前に謙也は混乱する。
滅多に笑わない財前が声を出すのをためらいながら笑っているなんて、携帯で写真を撮った方がいいのか真意を聞くべきなのか、わたわたとしていたら謙也よりも先に財前が携帯を取り出した。

「動かんといて下さい」
「は?え?」

 ぱしゃりと撮られたのは至ってふつうの写真。
普通の写真のはずなのに…財前はまたその写真を見て笑う。

「ちょなんやねん!」

 理由もなく笑われる事に我慢が出来ず、謙也は財前から携帯を取り上げて写っているものをじっと見つめる。
普通に鞄を持っている自分。
いつもと変ったところなんてなく、面白いところなんて一つも、ない。


 ひとつ…も…?



「はー…気が付きました?」
「え、ちょ…財前!」
「俺に怒るんはちょぉ違うんとちゃいます?」
「違くないやろ!やって、コレ…わぁあああ!」

 崩れ落ちた謙也に、財前はぽんぽんと肩を叩く。
ご愁傷様、と小さく耳元で囁いて財前はそっと謙也の足に手を置いた。

「…あの子ら、気がついとったと思うか?」
「当たり前ですわ。一人、見とったし」
「え、ソコを?」
「そ。ココ、を」

 財前は手を滑らせて、いつからか分からないが開きっぱなしだった謙也の社会の窓に手を当てる。
ジッパーが下がり切っているがシャツのおかげで下着はなんとか見える事はなかった。
だが気がついていた子がいるのならばきっと今教室ではその話題で盛り上がっているだろう。



忍足謙也のズボンのチャックが全開だったと。
 


「恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしい!っちゅーか、気が付いたんなら何で言うてくれへんの!」
「そんなおもろい事、言うわけないやろ」

 違う。

「うわぁああ!酷い後輩やぁああああ!」




 違う。




「ねぇ、謙也さん」
「あ?なんや」
「ちょっとだけ、お仕置き」
「は!?」

 開いたチャックの中に手を入れて、財前はそっと謙也のモノを撫で上げた。
ビクリと謙也が揺れる。
何も意識をしていないのに財前の手がゆっくりと絡まってくるだけで熱を持ち始める。
触れられているだけなのに、もっと先を望むようになってしまう身体は財前に躾けられた証。

 もっと。部活前だけれど、もっとちゃんとした刺激が欲しくて財前の手を掴もうとしたらそっと手を離された。

「なん…でぇ…?」
「言うたやろ?お仕置きですわ」
「俺…なんもしとらん…のに」
「…部活中。ずっと俺の手の感触忘れんとって」
「ッ…」
「そしたら、ご褒美にええことしたりますわ」
「………あ、ほ!」

 ちゅっと投げキスをして財前は自分の着替えへと取り掛かる。
少し期待をした謙也だが相手には今続きをする気がない事を悟って渋々立ち上がる。

「……あ、謙也さん」
「なんや」
「お誕生日おめでとうございます」
「ッ」
「ほな、先行きますわ」

 どれだけの早業で着替えたのか、財前はさっさと謙也を置いて外へと出てしまう。
少しだけ残る謙也の感触を確かめるように手を握って。
謙也の表情なんて後で好きなだけ堪能すればいい。

「ほんま、小さな男やなぁ、俺」

 お仕置きがしたかったわけでない。
ずっと、ずっと自分の事を想っていない謙也に少しだけ分からせてやりたかった。
自分は授業中でさえも、ずっと謙也の事を考えているというのに謙也はきっと一緒にいる時だけなのだ。

 クラスが一緒な女子や白石よりも自分の事を考えて欲しかった。
それにあそこで謙也のチャックが開いているのを言っても良かった。
でもそうしてしまうと照れて慌てる可愛い謙也を他の奴らにも見せる事になってしまう。

 あの場にも白石もいた。
自分だけが知っていればいい謙也を他には絶対に見せたくない。


「俺、どんだけ謙也さんが好きやねん」


 そこまで考えて自分の乙女思考に引いてしまう。


「財前!ちょぉ、待ちぃ!」


 着替え終わった謙也が財前を追う。
二人での楽しい時間がまたここから始まろうとしていた。








fin






友人に「あれやろ、謙也君モテモテなんにチャック開いてたするんやろ」みたいな事を言われて萌えたので書いてみました!!
言葉うる覚えでサーセン!!!!



純愛欲



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