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【遙か3 望×景×望】



『 何度でも、選ぶ 』




例えば、

彼がいなくて困るのは私。


彼がいなくて

泣きじゃくるのも私。


彼がいないと生きていけないのは、

私の方。


だから…これは私の我が儘なんです。


ごめんなさい。


ごめんなさい。




それでも、これだけは

絶対に譲れません。








宵闇の静かな陣中に、パンッと重い音が響く。

目の前の彼が平手打ちされた頬へと手をやりながら、

目を丸くして私を見つめていた。



「…っ、望美ちゃん!!?」


「…なんで…っ!!」


叫びながら、震える手の平で

彼の陣羽織の胸元を乱暴に掴む。



「な、何…!?ど、どうしたの!?望美ちゃ…ちょっと落ち着いて!ね?」

「なんであんなことしたんですか!?どうしてあんな無茶をしたんですかッ!?」


「…っ、い、いや、あはは‥な、何のことかな?さっきのは別に無茶なんかじゃ…」

「嘘…っ!!!」


「………っ…」



大きく動揺に揺れる瞳が。

逸らされる視線が…

嘘をついているのだと語っている。



そう、彼は嘘をついた。



だって私にはわかるもの。

あれは「わざと」なんだって。




「…誰の命令なんですか?それとも、自分で判断したんですか?」


「だ、だから何の……」


「とぼけないで下さいよ。あんな戦況の中、
 一騎だけで前線へ出るなんて危険過ぎます。
 増援が少しでも遅れていたらどうなっていたか…」


「ご、ごめんね…オレ、
 ちょっと最近、ぼーっとしてる事とか多くてさ‥」


「…それも、嘘ですよね。
 だって、本当の景時さんは有能な源氏の軍奉行ですから。
 そんな人が…いくらぼーっとしてたからとはいえ、
 あんなにわかりきった戦況の中でどうして、
 私にも判断出来る程、簡単な間違いを起こせたんですか?」


「……それは…」


揺れる彼の瞳を至近距離から覗き込む。



捉えたそれはやはり戦場で見るには

あまりに弱々しく、儚い色を宿していて。


予想から確信へと変わったその事実に、

思わず胸元を握る拳へぎゅっと強く力を込めた。




「…景時さん、一人だけであそこへ残って…死ぬつもりでしたね?」


「……っ」




ああ…もう何度目だろうか、彼にこんな言葉を投げかけるのは。


自らの命を、まるでどうでもいいとでも言うかのように軽く扱う彼を

こうして引っ張って、問い詰めて、

ある時は引きずり倒してきた。





「みんなを庇って、英雄顔して、それで満足して勝手に死ぬつもりですか?」


「…ごめん…でもオレ‥」





「……もう、いいです。」


「え…?」


困惑に揺れる彼の瞳がぶつかって、私は、ため息混じりに瞳を伏せる。




そう…だってこれは私の我が儘だから。



胸元を掴んでいた拳を緩めて離し、

もう一度、彼の瞳を真正面から捉えると

浮かんできた言葉はただ一つだけ。




「私は、諦めませんよ。」



「……っ…」




「こうやって…何度でも、景時さんのことを引き戻しますからね。
 ひっぱたいて、胸倉掴んで、引きずってでも…
 …貴方には生きていてもらいます。」



「…望美ちゃん……」



だって、彼がいないと

私は生きてはいけないもの。



「景時さん、諦めるのは得意だって言ってましたよね?
 だったらもう、諦めて下さい。」



私は、貴方のことを

どうしても諦めきれないから。



「私の為に、死ぬことを諦めて下さい。」



「………は…はは…」



力無く笑い、その場にゆるゆると座り込む彼の

赤くなっている片頬を労るようにそっと優しく撫で摩り、

その広い背中へと腕をまわす。



「…ごめんなさい…景時さん。」


「…痛かったよ‥望美ちゃん。」



「ごめんなさい……」




我が儘を言って…本当にごめんなさい。





「でもね…有り難う、望美ちゃん。」


「はい…」




「オレ…もうちょっと、頑張ってみようかな…」


「はい…っ」



「ずっと、そばにいてくれる…?
 オレ、君の為になら生きていられるかもしれないから…」


「…頼まれたって、離してあげません。」



「はは…っ、熱烈だね〜‥望美ちゃん。」

「私は景時さんのことが、大好きですからね。」


「……っ」



この温もりを、手放さない為になら

私はどんなことだって出来るから。






お互いに、触れ合った身体が小刻みに

揺れているのを感じながら、強く相手のそれを抱き留める。


遠くで聞こえる、戦勝のざわめき。



冷えた夜風にのって、ふわりと甘い梅花の香が鼻を掠め、

見上げた先の視界には、ぼんやりと霞む

星々や月の光だけがただ、静かに映りこんでいた…


   
                       -了-

   お題配布元:「恋したくなるお題」様
   http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/



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