太宰の体が近い。
手を覆っていた黒が、するりするりと、ゆっくり取り去られる。
布の擦れる感触が心地良い。最初は右手。そして左手。
色気のあるその所作に感心するでもなくただ見つめていたが、
両方を取った後は甘ったるい雰囲気を消し去る勢いで床にぺいっ、と投げ捨てた。
既に手袋には微塵の興味も示していない。人間離れした色気を纏いながらも、
幼さの権化のような行動を取るこのアンバランスさは、もう何度も目にしていた。
「……中也」
名前を呼ばれたと思えば、ぐ、と肩を押され背中からベッドに倒れ込む。
太宰にしては力を込めたのだろうそれも自分にとっては然程強く感じない。
こういう時の太宰の力は殊更弱い。常より一段と弱々しい手など指先ひとつで押し退けられる。
つまりは、自分から倒れてやったのだ。
あっさりと後ろに倒れた自分を見て数回瞬きをした太宰が、一瞬安心した表情を浮かべたのが判った。
この表情はきっと無自覚だ。
「なあに、嬉しそうな顔して」
「……何でもねえよ」
表情を変えたのが相手だけではなかった事に少し驚いてから、降りてくる唇を静かに待った。