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お礼 1/3 『紅に染む』より 秋人と美冬 *** 習い事から帰宅するな否や、美冬は小さな肩を怒らして叫ぶ。 「秋人!」 「はい」 「果し状を叩きつけに行くわよ」 美冬が胸をはって言った言葉に、秋人は半眼を向けた。頭ごなしに却下したいのを飲み込んで、反論もできずに口を結ぶ。 華道を学びにいっただけのはずなのに何があってこんな事態になるのか予想もできない。 「さっさと紙と筆を持ってきなさいよ」 令嬢らしからぬ勢いと身のこなしで鞄を叩きつけて、美冬は吠えた。執事が見たら額にてのひらを当てそうだ。 お嬢様と一呼吸おいた秋人は烈火のごとく燃える瞳を見返す。 「誰に送られるのですか」 「父様によ!」 常日頃から人形よりも無表情な秋人の顔に、なぜという明確な意思が出る。波風たちにくい心も美冬の前ではいかない。 無言の疑問に美冬は目をすがめて、感がにぶいわねと悪態をついた。 悪態をつかれても心は微動だにせず、続きを待った。答えがないならないで、それでも構わないからだ。 「華道を極めたら、稽古をつけてくださると約束してくれたからよ。契約書なんて、まどろっこしい。首を洗って待ってなさいと果し状を書くの」 体よくかわされたことに腹をたてていたらしい。目に入れても痛くないほど、父は娘のことを溺愛している。本心では怪我をするような体術を教えたくはないのだろう。 秋人はため息を押し殺して紙と筆を用意してやった。親子で好きに喧嘩をすればいい。美冬は本気だが、父は何だかうれしそうにしている。執事も口を出さないだろう。 「秋人!」 「はい」 「立会人はお前だから」 秋人は返事をしないでおいた。否と答えても、承諾されないからだ。 貧乏くじ秋人を書きたかっただけです。 メッセージへの返信希望はカクヨムの近況ノートで行います。良識の範囲内で書き込みをお願いいたします。 拍手を連続で押すだけで、私の気分がうなぎのぼりになりますので、よろしければ無駄に押してください。 |
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