知ってんだぜ ※クロアイ うんざりだ。青年は疲弊していた。普段から労働に身を窶さず酒に浸かり慣れたアイオーンと、先日成人して酒の味を覚えたばかりの普段は飲まないクロウでは、同じペースで飲んで良い訳がなかった。しかも彼は缶チューハイ数本という、甘く弱い酒しか手を付けていなかった筈。アイオーンがその3倍は強い酒をガンガン煽っても全く顔色を変えない所為でムキになったのだろう。 酒で喉を焼こうものなら石を抱かせるくらいの音楽に対する潔癖振りを見せるアイオーンの思惑など露ほども理解せず、べろべろになった男はソファに青年を押さえ付け、酒臭い息で迫っていた。 なあアイオーン、やいヘタレオン! 色々な呼び名を駆使して至近距離から話し掛けてくるのだが、肝心の内容は特になく、ただ呼びたいだけといった様子だ。ベタベタとくっつき、体温の上がった頬をアイオーンに擦り付け、時折何が楽しいのかも解らず不気味に笑う。思考能力まで小動物並になったようだなとアイオーンはクロウを哀れんでいた。 と、そんなおざなりな態度が気に入らなかったのか、少年の目付きが急に細められる。ヒトの耳を噛んで、鋭い痛みに青年が呻くと、少年は恍惚とした表情で言う。 アイオーン、愛してるぜ。 オマエもオレの事、好きだろ。なあ。オレ様は何でも知ってんだぜ。 色々な意味でカッとなった青年の衝動は、クロウを風呂場に引きずって、着衣のままぬるい水の張られた浴槽に放り投げるに至り、流石に双方反省をしたという。 |
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