【Bright new day(銭次)】




「誕生日プレゼント、何がいい?」
「は?」
唐突に銭形から発せられた言葉。
それは年末、あと数分で年が開けるといった状態の時。
たまたま銭形と次元――二人で年末特番の歌番組を視聴し、ああだこうだと今年を振り返っている最中での出来事である。






本来であれば、次元は年末年始とルパン一味で過ごしているはずだったのである。
しかし今年はルパンは不二子とハワイへバカンスへ出かけるといい(勿論諸経費諸々の負担はルパンという条件で)
五右ェ門は山奥で静かに過ごし、一年を振り返ると言っていた。
五右ェ門に付いて行っても良かったのではあるが、携帯の電波さえ繋がらないところのようで早々に諦めた。
「暇潰しに行ったつもりが逆に暇を持て余しちゃ意味ねぇもんな」
そう笑いながら、次元は仕込んでいた重箱をつつく。
「で、なんだよ……誕生日って」
「ああ、それな」
年越し蕎麦を啜りしながら、銭形はテレビを切り除夜の鐘を聴く。
「互いに忙しくて俺の誕生日もお前の誕生も今年は禄に祝えなかったからな。なんかしてやろうか、と」
普段はそんな気配りなど微塵にも見せない銭形から発せられた言葉。その珍しさに、次元は思わず目を丸くする。
「……っ、ごほ……せっかくの酒を不味くするするような事をいうなよ」
「なんだ?俺の提案がそんなに嫌なのか」
なれない事を銭形が発したせいか、次元が思わず咽てしまう。
「いや、そうじゃねぇけど……あんたがそんなロマンチックな事言うなんて柄じゃねぇからさ」
本心では嬉しくて、思わず手のひらで口元を隠す次元。
銭形はその隠していた掌をそっと外すと、今度は自分から触れるだけのくちづけを落とした。
「――嘘じゃねぇけど」








思えば、銭形に誕生日など祝ってもらった経験などあるだろうか。次元は必死に照れ隠しでくるまった毛布の中で考えた。
次元の誕生日は年明けで、だいたい仕事が忙しない時期なのである。そんなときに誕生日を祝えなんて言う通りもない。そして、言う権利もない。
だいたいいい年なのであるから、そういってものは逆に邪険に扱うべきなのである。迫り来る老齢を誰が嬉しく祝うものか。
なのに次元の心は浮き足立っていた。銭形の口からそんなことがでるなんて、何か自分は悪いものでも食わせただろうか。
そうくすくす笑っていると、銭形も毛布の中に体を突っ込んだ。
「なに楽しそうな事考えてる」
「え、作戦会議」
「誕生日のか」
なんだろう、この高揚感は。次元は無い頭で考える。
「でも金ねぇだろ」
「そういう心配はするな」
銭形は次元の上に覆いかぶさる。テレビはとっくに歌番組を終了させていて、来年の抱負やら願望やらをインタビューしている内容へ切り替わっていた。
「……このまま姫始めに雪崩れ込むか?」
「まだ早いッツの、おっさん」
銭形の指先が次元に触れる。柔らかく撫でるその指先に、次元は心地よさげに目を伏せた。








「誕生日さー……三つ星ホテルの最上階、スイートルームでシャンパン開けながらジャグジーに身を委ねて」
「おう、何でも言いやがれ」
「っていいたいところだけど、別にいいや。あんたと過ごせたら」
狭い風呂で、安い酒で、そしてシングルベッドの上で。
「それで誕生日おめでとうって言ってくれたらいいよ」
触れる銭形の掌に、次元は自分の掌を重ねる。
「本当にいいのか?インペリアルスイートルームじゃなくて」
「ああ、だって俺にとっちゃここが一番の居心地いい場所だし」
次元は笑う。窮屈な部屋がやはり自分には似合っているのさ、と。





もうすぐ百八つの鐘が打ち終わる。
新しい年はどんな年になるだろう。
「銭さん、今年も公私ともどもよろしくな」
「ああ、手加減せんぞ」
「わかってる」




いい年になることを願いながら、銭形と次元は毛布の中笑いあった。



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