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2種類が順番に出てくる仕様となっております、感想、誤字脱字の報告などございましたら、ぜひご利用ください。
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44 - 初めての嘘

 ぼんやりと、どこか遠くを見るような目をするあなたを見上げる。
どれだけ熱をもった視線を送っても、返してはくれない。
そんなことはわかっていた。
わかっていた、はずなのにずきりと胸が痛む。
体の中から訴えかけてくる痛みを無視して、私は精一杯の笑顔をつくる。

「婚約を、解消いたしましょう」

心ここにあらずの状態だった彼にとっては、唐突に響いた私の声に即座には反応できないでいた。
けれども、その意味するところが徐々に理解できるようになると、あからさまにうろたえた表情をする。
彼にとって、私はどう扱っても良い相手。
どこまでも従順で、いつも半歩引いた場所で彼のあとについていくだけの女。
そうふるまっていたのだから、そう思うのは当然だろう。
本当の自分はむしろ真逆の性質だけれども、彼が好む女性というのはそういうものなのだから仕方がない。
私は偽って、それでも彼のそばにいたかった。
そうしなければいられなかった。
なのに、と、つい恨みがましい気持ちが沸き上がる。

「私、不誠実な方は信頼できませんの」

彼の隠したがっていた何かを知っていると仄めかす。
たいして隠れてもいなかったから、とっくの昔に周知の事実ではあるけれど。
それでも彼は隠しているつもりだったのだろう。
彼女との、偽装してお淑やかに振舞っていた私とは真逆のような女性との恋愛模様を。
活発で、物おじせず発言し、ときおり無礼だと陰口を叩かれていた彼女は、文官を目指して勉学中だ。
女性は女官を目指すことが多いのだけれども、あの態度でとてもではないけれど勤まらないだろう。
それは、彼女自身も理解しているようなので、そのあたりは利口なのかもしれない。
そんな彼女を見初めたのは、今目の前でおろおろしているだけの彼だ。
割と良いお家の次男で、座学はよいけれども実習はだめ、そして取り柄はその美しい容姿だけ、という優男。
彼が微笑めば、隠しきれない悲鳴があがる、と噂されるほどの美貌は今も健在である。
どれだけ彼の態度や言動に私が傷ついて飽きれたとしても、正直その顔だけで許してしまいそうになる。
今も、ほんの少しだけほだされそうになる自分がいる。

「もう、好きでもなんでもありませんし、彼女とお付き合いなさったら?」

嘘をつく。
あからさまな嘘を。
私は、色々考えて考えて、それでもまだこのどうしようもない男が好きだ。
けれども、このままではいけないことも理解している。
私は家を継いで、家門を領民を守り抜かなければいけない。
顔だけの男を選んで、私が癒されるだけの利点など捨ててしまわなければならない。
いや、今はその唯一の癒しすら与えられていないのだから、やっぱり切り捨てるのは当然だ。
気が付かれないように深呼吸をして、彼に笑顔をむける。

「ごきげんよう、もうお会いすることもないでしょうけど」

そうして私は侍女や護衛を引き連れて彼の元を去って行った。
彼は最後まで、言い訳すら口にすることはなかった。
何かが、頬を伝っているような感覚がする。
さりげなく当てられたハンカチの感触は、柔らかくそんなはずはないのに温かかった。

しばらくして、私は地味だけれどもまっすぐで努力家な伴侶を得ることができた。
彼は、あれほど熱心だった彼女との付き合いをぱたりとやめ、おとなしくしているようだ。
そのうち、彼にも彼に合う誰かが現れるのだろう。
そのときまでにはこの痛みが消えている、のだろう。嘘つきの私にはちょうどいい罰なのかもしれない。



お題配布元→capriccio
update:05.21.2026



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