拍手ありがとうございます。ささやかですがお礼として短い話を用意いたしました。
2種類が順番に出てくる仕様となっております、感想、誤字脱字の報告などございましたら、ぜひご利用ください。
------------------------------------------------------


36 - 冷めたコーヒー

 部屋の鍵を開け、暗い玄関をくぐる。
仕事帰りに買ってきた、弁当の入った袋を乱雑に机の上に放り投げ、灯りのスイッチを押す。
ぱちり、と言う音とともにすぐさま部屋が明るくなる。むわっとした空気とともに、乱雑な部屋があらわとなる。
食卓の上に朝から置きっぱなしとなっていたマグカップが転がっていた。
無造作に投げた袋があたり、あっけなく飲み残しの琥珀色の液体をぶちまけていた。
思わず舌打ちをして何か拭くものを、と、台所へと踏みこむ。
シンクには昨日食べた弁当のパックが置かれたままだ。
自分しかいないこの部屋で、それを自分が片付けなければずっとそのままなのだと。あたりまえのことに気がつく。
結局、それらしいものが見つからずティッシュを数枚引き抜き、液体を拭う。
もうすっかり冷たくなったそれは、それでもきちんとコーヒーのにおいがしていた。
ペットボトルのふたを開け、少しぬるくなったお茶をあおる。
夏になったらいつでも冷たいお茶が飲めた頃を思い出す。
それはほんの昨年のことだったにもかかわらず、今ではひどく懐かしいものと思えてきた。
そう、ほんの少し前。
自分は換気のされた明るい部屋に、温かい食事が用意された生活が待っていた。
それなのに、と。

歯抜けのように何かが欠けた部屋を見渡す。
一人きりでは広いその部屋は、ところどころに何かが持ち出されたような空間が存在する。
それを見てはため息をつき、もそもそと味気のない弁当を口にする。
残骸を昨日の残りの残骸の上へ置き、さらなるため息をつく。

ようやく一日が終わる。
何かが欠けて、満たされないまま。
 


お題配布元→capriccio
update:07.27.2024



何かありましたら、なくてもどうぞ(拍手だけでも送れます)
あと1000文字。

簡単メッセージ