拍手ありがとうございます。ささやかですがお礼として短い話を用意いたしました。
2種類が順番に出てくる仕様となっております、感想、誤字脱字の報告などございましたら、ぜひご利用ください。
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40 - はらはら

 それを拾い集めたら、なにか綺麗な宝石になるんじゃないか。
涙を流す彼女をみて、そんな詮無いことを考える。
今、僕と彼女がいるのは通りに面した喫茶店であり、そのテラスに向かい合わせで座っている。
彼女は、はらはらと、それはもうとてもきれいな涙を化粧が崩れないように落としている最中だ。
まばらに通りを歩いていく人も、ちらちらと彼女の様子を伺う。
自分がとても綺麗だとわかっている彼女は、まるで舞台女優かのように周囲から寄せられる視線すら自らの感情の糧にして演技を続けている。
そう、演技、をしている。

「ふーん、それで?」

思ったような反応を示さなかった僕に、彼女から一瞬だけ素が現れる。
けれども、そんなものはすぐさまひっこめて、彼女はしおらしく弱弱しく、そして庇護すべき何かに自らを落とし込む。
もう一度ぐだぐだと、彼女が何かを呟き始める。
何度でも聞いたそれは、結局のところもっといい獲物が出てきたので僕はお払い箱なのだと言い募っているだけだ。
まあ、そんな直截的な事は一切言っていないけどね。
そういうところは、立ち回りがうまいのだと素直に感心してしまう。

「まあいいや、これ以上君と話しても意味がないし」

こちらの言葉を聞き漏らさないようにしよう、という非常に好奇心旺盛な客たちがぐるっと見渡した僕から慌てて視線をはずす。

「あとは、家と家との話し合いとなるから」

立ち上がり、少しだけ服を整える。
おもむろに彼女の方へ近寄り、耳元に呟く。

「全部ばれてんだよ」


彼女がどこで何をやっているのか、もちろん全部知っている。 要領がよく、演技力の高い彼女は今高速で計算しているのだろう。
どうしたらうまく立ち回れるのかを。
少しづつ少しづつ論点をずらしていって最後には彼女が被害者の立ち位置にいる。
そんな風にして彼女は今までやってきた。
今までは。
彼女のことを丸ごと愛しているわけではない自分を引き寄せることによって、それは終わるのだろう、たぶん。
いや、彼女のことだから年を重ねても似たようなことをしている可能性すらあるけれど。
とり残された、少しだけ無防備な彼女を置いて、僕はその場を後にする。
これから起こるごたごたに、本格的にため息をつきそうになるのをこらえながら。



お題配布元→capriccio
update:05.29.2025



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