【メダリスト:よだつか】謎時間軸+恋人同士で肉体関係有+?示唆
これでも大事にしてるつもり
交通整理バイトを終えた司が携帯端末を確認すると夜鷹からの「終わったら連絡して」のメッセージを見付けて
鼓動が跳ねたが呼吸を整えてから「いま終わりました」と返して着替え始めた。身なりを整えて外に出たところで
メッセージではなく着信があった。
驚いて出れば家に来てと有無を言わさない言葉。実はここ数週間都合が合わないからと誤魔化して夜鷹と会って
いない、せっかく付き合い始めたのに。
前回司が失態を見せたせいで合わせる顔がなく避けていたが夜鷹は気にしていないらしく、こうして数日に一度
誘ってくる。だがここまで有無を言わさないのは初めて。仕方なく「お邪魔します」と答えれば買い物してきてと
言われ呆れた。必要があれば海外にも行くフッ軽男だが基本的には用事がなければ外出しない家チル金メダリスト
なので仕方ないと息を吐いた。
「なにが欲しいんですか?」
「君だよ、司」
「――ッ。そ、そういうのではなくてですね!」
わざとなのか本心なのかいまだに掴めないがまさかの呼び捨てに心臓が止まるかと思った。普段はほぼ「君」と
しか言われないがベッドの中では名前を呼び捨てにしてくれる。お陰で心臓が鍛えられるが今みたいに不意打ちは
流石に効く。
立ち止まって胸を押さえて耐えていると受話口から微笑の吐息が聞こえた。そのかすかな音でも胸が高鳴るのが
気恥ずかしくて、けれどこれではいつまでも終わらないと思い直し顔を上げて話を続ければ買ってきてほしい物を
「少し大きいけど」と言われてピンッときた。
「トイレットペーパーですか? シングルとダブルどちらですか? メーカーとかあれば教えてください」
「……なんでそんな詳しいの。近いけどそれじゃない」
お世話になっている加護家の買い出しのテンションで言ってしまったが、夜鷹純の使用しているトイレットペー
パーは気になると浮かんだところで、そういえばこの間使ったなと思い出した瞬間なにかがフラッシュバックして
頭を振った。
「買ってきてもらうのはペットシーツ、大型犬用」
「犬、飼ってました?」
「君のためだよ」
「……俺のことペットにするんですか」
恋人だと思っていたのは自分だけだったのかと悲しみと怒りが湧いて思わず語気が強くなってしまった。けれど
嫌だと思ったことははっきり言わないと特にこの人には伝わらない。
先ほどのときめきを壊すような言葉に屈辱を感じていると、さっきとは違う息を落とす音が聞こえた。
「君はなんで僕がそんなことをすると思うの。これでも恋人の君に誠意を持ってるつもりだけど」
「ッ、じゃあなんなんですか!?」
夜鷹に「恋人」と言ってもらえて天にも昇るような気持ちだがそれは一旦置いて真意を聞き出すのが先。
電話ではなく顔を見て話したいけれど逃げ出すことになっても夜鷹は追いかけてくれないだろう。それを考えれば
むしろ顔を見ないほうがいいのかもしれない。
夜遅くて人通りが少ないからと声を上げてしまったのを反省するがこのぐらいは言わないとと心を強く持った。
「今ここで言っていいの?」
「い、いいですよ。俺しか聞いてませんし」
それじゃあ言うけど、と前置きされたのに合わせて背筋を伸ばしまだ見えない夜鷹の住むマンションを見据えて
真っ直ぐ前を向いた。
「君この間お漏らししたでしょ。またぶんまたそうなるけど、バスタオルじゃ間に合わないから。便利だし」
「……は?」
「潮吹きで済めばいいけど、そっちは君が気絶しそうだからお漏らしのほうが気楽だと思う。ペットシーツは枚数
あるし。介護用の防水シーツは高くて君の手持ちが心配だから。……聞いてる?」
相槌を打つ余裕もなく、反して淡々と凄いことを話す夜鷹の言葉をただ聞き続けるしか出来ない司が顔を真っ赤
にしていく。
たしかに前回夜鷹に抱かれた時に強烈な快楽の応酬にわけが分からなくなり射精感に似たもっと身近な感覚の中、
温い液体がシーツに広がっていく感触を最後に気を失った。目を覚ましたのは翌朝で、しかもソファーに寝かされて
いて驚いた。マットレスが広いベランダに干されていて夜鷹がどこで寝たのかも知らない。
起きて早々に土下座して謝れば「そんなことでいちいち憤ったりしない。顔を上げて」と言われるも上げられない
でいると目の前に立っていた夜鷹に爪先であごを引かれた。そういえばあの時「怯えた子犬みたい」と言われた。
それが先ほどよぎったからこそペット扱いされてるのかと思い込んだのかもしれない。恥ずかしいやら情けない
やらで返事も出来ないでいるとため息が聞こえてびくりと震えて携帯端末を落としそうになり慌てて持ち直した。
「ねぇ。声、聞かせてよ」
「ッ、あの……。すみません、早とちりで怒ってしまって」
「いいよ、怒ってない。それより、来るんでしょ?」
「えっと、はい、行きます。買い物してから」
少し低くて柔らかい夜鷹の声色に気持ちが落ち着いていくような、火が焚べられるような、相反する強弱を感じ
ながら穏やかに会話を続けた。
どこか甘えているような夜鷹の言い方は年齢を感じさせない子供っぽさがあり、夜鷹のほうがずっと年上なのに
可愛いと思えた。けれど数十分後にはあの人に抱かれて蕩けてしまうと考えればギャップもいいところ。
性的なことには関心がないどころか性欲があるのか疑ったこともあったが、結果は現状のとおり。そればかりか
このあと夜鷹のマンションに行きベッドをより頑丈な物に買い替えただけではなくマットレスも極上の寝心地を
約束する物に変更されたのを知って絶句することになるが、面映ゆい表情を浮かべて夜鷹と通話をする司はまだ
知らない……
──終了──
読んでくださりありがとうございました。
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