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★★★お礼小説はこの下から★★★





 ま、確かに俺も今回ばかりはお人好しだと思ったよ。
 今、俺の前にいる吉崎は俺に両手を合わせていた。
「ほんと、ありがとな。助かる村下」
「いえ……楽しいクリスマスを」
 俺はありがたがる先輩刑事の背中を見送ると、どっかりとソファーに腰を下ろした。西日が傾き姿を消し、もう夕闇に街は染められていた。沈んだ太陽の代わりに、イルミネーションが眩いほど輝いているだろう。
 今夜はキリスト教以外の宗教の人間でも、そわそわするクリスマス。もっともそれはすでに宗教的な意味合いを無くし単なるイベントと化した、日本人だけかもしれないが。とにかく日本中の大人も子供も、なんとなくわくわくしている日だ。別にキリストが生まれようが死のうが関係ない。もちろんキリスト教の信者たちには重要なことに違いないが、世間一般でいうクリスマスは、ケーキを食べてプレゼントをもらえる日ということだろう。
 もちろん俺も子供の頃はクリスマスが大好きだったし、別に今も嫌いじゃない。ただ今年のクリスマスはちょっと事情が違う。
 いつもなら恋人がいて、優しい彼女といつもより甘い夜を過ごすはずが、今年のクリスマスには恋人はいなかった。ぶっちゃた話し、大学時代から付き合っていた彼女は、俺が警察官になり、生活が不規則になるにつれ、疎遠になり、結局別れを切り出された。寂しいという彼女の言い分は十二分に理解していたし、だからと言って職業を変える気もなく、俺は彼女が別れたいと言った台詞を受け入れた。
こう言ってはなんだが、別に俺は美男子ではないが、醜男でもない。モテモテという事態は経験したことはないが、女の子に告白されたことも何度かはある。だが今年に入ってから飛躍的に異性に感心を寄せられなくなった理由は、俺は何となく気づいていた。
 俺の相棒は橋本幸之助という。いわゆるキャリアで、階級は俺と同じ警部補。父親は県議会議員、母親は元モデルで、家柄よし、顔よし、スタイルよし、と三拍子揃った男なのだ。おまけの果てに実に惚れっぽい性格。おっと、性格に付け加えなくてはならないことがあった。
 あいつは変人だ。
 変人がだめなら奇人だ。ともかくそういう男なのだ。それなのにどうにも女性は、橋本の外見に惹かれるようだ。おかげで俺の影は薄い、というわけだ。
 もちろんその橋本は先ほど元気よく俺に『じゃ、おっ先しまぁす! 今夜は美鈴ちゃんとデートなんです!』と嬉しそうに言って、はりきって帰って行った。ついこの間まで玲香ちゃんとか言っていたはずなのだが、もう別の女らしい。
 で、俺はというと、官舎で一人きりのクリスマスを迎えるよりは、署で過ごしたほうがいいということで、先輩刑事の代わりに夜勤を勤めることになったのだ。
 しばらくはテレビを見るなりとしていたが、しだいに腹の減ってきた俺は出前を取った。クリスマスなのにミソラーメンか…………と思わなくもなかったが、別にクリスマスにミソラーメンを食ってはいけないなんて、誰も言い出したりはしなかろう。ただ俺の気持ちはなんだがわびしくなったが。
 途中繁華街で喧嘩の一報が入り、人手が足りないということで俺も現場へ向った。もっとも俺が辿り着いた頃には喧嘩をしていた双方の酔いも覚め、真っ青になって派出所で何度もすみませんと謝っていた。結局無駄足だったわけだが、華やかな繁華街にいると、なんだか気がめいるので、俺はすごすごと署に戻ってきて、またクリスマスの特番をなんとなく眺めていた。
 そうこうしているうちに時間は九時を過ぎ、十時を迎えていた。
「寒いな……」
 ヒーターは入っているようだが、夜が深まるにつれ気温は下がってくるものだ。テレビは見たいが、仮眠室にでも転がり込んだほうがいいのかもしれない。そう思ったとき、人の気配を感じて俺は入口を見遣った。知り合いではないが、顔に覚えはある女性、いや婦警だ。確か少年課じゃなかったかな? そんな曖昧な記憶しかない。
「どうしたの?」
 俺がそう訪ねると彼女は入口に立ちすくむように止まった。不審に思った俺は彼女のほうに向き直った。
「何かあったの?」
「あの…………」
 事件の類いではないことはこれでわかる。もっとも事件の類いならここの電話が鳴っている。
「あの……わ、わたし………今月いっぱいで辞めて田舎に帰るんです。だからどうしても後悔しないためにも言っておきたくて…………」
「え?」
「村下さんが好きです」
 前に彼女を見たとき、俺は小さくてかわいいなと思ったはずだ。だがそれまでだ。俺はそれ以上の印象を受けていない。
「あーその、気持ちは嬉しいよ。だけど」
「いいんです! わたし………村下さんにどうこう迫ろうなんて、思ってませんでしたから。ただ……………一つだけ、お願いを聞いてもらえませんか?」
 顔が真っ赤だ。胸の前でぎゅっと手を握り、深呼吸をしている。そんな様子がかわいいなと思った。
「いいよ」
 今月一杯ってことは、もうあと数日か。
「キス………してもらえますか? 一度でいいんです…………」
 ぎゅっと目を閉じて耳まで真っ赤になっている彼女を見て、どうして断ることができるだろうか。俺はそんな彼女の一途さと純情さに、本当に嬉しくなった。
「隣りにおいでよ」
 そう声をかけると、ぎゅっと閉じていた目を開いて頷いた。
「あ………はい」
 ぎくしゃくとする彼女が隣に座ると、俺は肩を抱き、そっと唇を重ねた。ほんの少し、俺は調子に乗って、ちょっと長めのキスをした。真っ赤になっている彼女の純情さに、俺は暖かな気持ちを抱いた。
 どうやら、サンタは俺を見捨てないでいてくれたらしい。
たまにはこんなクリスマスもあり、かな? なんて思う俺は不純なのだろうか?


 そして聖なる夜が過ぎ去った翌日の朝、俺の机のそばにいたのは、泣き出さんばかりの橋本だった。
「ああぁぁ、村下さん、聞いてよぉ。美鈴ちゃんったら、ひどいんですよぉ」
「あぁあぁ、はいはい。そうかそうか」
「あーひどい! 村下さんも冷たぁいぃぃぃぃ! 俺がいったい何したんだって言うんだよ。だってさ、今夜こそ決めてやるって思っていたのに、美鈴ちゃんったら『橋本さんが本気とは知らなかったわ』って言って他の男とデートしていたんだよぉ! あぁ! ひどいよぉー………」
 と、まあこの調子だ。要するに、橋本みたいに外見がよすぎると、本気も遊びに取られがちということなのだろう。まぁ、俺としては楽しいことだ。
「嘆いたって事実は変わらないだろ」
「そう、そうなんです…………だけどっ! サンタさんは俺を見捨ててなんかいなかったんだ! 昨日の帰りに通りかかった花屋さんにいた子なんだけどね、無茶苦茶かわいいの! 清楚っていうのかな、可憐というのかな。野に咲くコスモスのようにかわいくてね、彼女だって思ったんですよ」
 おまえは野に咲くコスモスを見てかわいいと思ったことがあるのか、と鋭く突っ込みをいれてみたくはあったが、ここで深く掘り下げると後悔するのは俺だ。こいつの演説癖はうんざりさせられることがあるのだ。
「俺、絶対彼女を振り向かせようと思ってますよ」
「…………がんばれよ」
 美鈴ちゃんと嘆いた同じ口で、よくもまぁこれだけ内容が違うことを語れるものだなと、俺は正直に思った。
 もしもサンタがいるのなら、一刻も早く橋本とペアを解消したいと、そう望むべきだったことに俺は気付き、深くため息をついたのだった。


 ――終わり――



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