UNBALANCE☆COUPLE:アンバランス☆カップル  番外編





「なあ。気づいた頃から当たり前に恋人がいるってどんな感じ?」

それは、とある昼の休憩時間。
教室の窓際の自分の席で、中河駿也は野菜ジュースを飲んでいた。
尋ねてきたのは平(たいら)という名の青年で、幼稚園の頃からの駿也の幼馴染だった。
もちろん、崎谷由那とも幼馴染だ。
『へー』というあだ名で呼ばれている平は、駿也と由那の関係を昔から知っている数少ない人間のひとりだった。
平は駿也の前の席の椅子に反対向きに座り、だらしなく背を丸めている。
真剣な問いなのかそうでないのか、いまいち判断しかねる態度だった。
なんだよ唐突に、と駿也が返すと、やる気のなさそうな手つきで平がひらひらとA4サイズの紙を振る。
それは朝のホームルームで配られた進路調査票だった。

「こういうの渡されると、否が応でも将来のこと考えんじゃん。ない頭それなりに振り絞ってさ」
「ああ…」
「今は学校来るのが当たり前で、たりーとか思う日もあるけどさ。真面目に考えてみると、この先って完全に自分次第なんだよな。大学行くか、専門行くか。どっちも選ばないで、働くって道もあるわけで」

そうなると、大学は四年制か二年制か、私立か国立か。
専門学校に行くにしても、少なくとも将来の職業につながるものにしなければ費用がもったないし、きっと親だって納得しない。
高校を卒業してすぐに就職、は、なんとなくまだ怖い。
まだまだぬるま湯に浸かっていたいと甘ちゃんなことを思うし、けれどやはり社会は-----自分の将来は、もう目と鼻の先まで迫っている。
そこでふと、平は考えた。
家が隣同士、幼稚園の頃からべったりくっついている駿也と由那は、この先の進路をどう考えているのだろうと。

「こんだけお前ら見てれば、別れるとか浮気するとかはぜってーありえねえからさ。当たり前に昔から付き合ってて、そんでどうせ同棲とかもすんだろ? 俺から言わせれば、他の選択肢がいっさいないって状態の方が不思議でたまんねえよ」

自分で言うのも悲しいが、平は自分が中身も容姿も地味であることを充分に自覚している。
いつか彼女ができたらいいなあとは当然思っているが、だからこそ、本当にできるのかなと大きな不安にも駆られた。
その点、幼馴染の駿也は、同じタイプの超地味男ながら、すでに崎谷由那という恋人もちだ。
同性なので大きな声では言えないけれど、正真正銘の女の子よりも可愛いと人気な、あの崎谷由那だ。
由那なら男でも俺付き合えるわ、と、派手なグループに属する男子数人がわりと本気の意味合いで言っているのを聞いたこともある。
なにより、なんと言っても駿也はすでに童貞を卒業しているのだ。
これは大きい。
ものすごく大きい。
男子高校生において、すでに経験済の『男』だということは、本気で、一種のハイステータスだった。
しばらく考えていた様子の駿也は、ずずっと音を立ててストローから口を離した。

「うーん…。とりあえず、由那が女の子だったら、たぶん由那が16になった時点で結婚してたと思う。高校行きながら夫婦」
「お前らの場合マジでそうなってただろうなあ。なんと言っても、おじさんとおばさん公認ってのがでかい」

うんうん、と互いに頷く。

「進路自体は、まだお互い考え中。由那は佐奈おばさんの仕事を手伝うかもしれないし、でも、スーツ着たサラリーマンには絶対なりたくないって言ってたな」
「なんで」
「俺のお嫁さんになりたいから」

平は、へっ、と目をすがめた。

「うちでご飯作って、俺を待ってたいって。可愛いだろ?」
「エプロンつけて三つ指ついて? 由那ならマジでやりそう」
「料理教室にも通いたいってさ」
「駿也のために美味しいご飯作りたいから~! もういいっつの」

由那の口真似をして、平は思いきり溜息をついた。
指先でつまんだ進路調査票をぴらりと振る。

「お前に聞いた俺がバカだった」
「大丈夫大丈夫。運命の相手っているもんだよ」
「上から! めっちゃ上から!」

あはは、と駿也が笑った。
平はもう一度、盛大な溜息をついた。
羨ましい。と思ってしまったことは、絶対に言ってやるものかと決心した。



悩めよ青年。
恋せよ青年。





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