□時計の針を□
音のしなくなった時計に耳を寄せた。
時を刻むことがない時計は少し前の自分のようだとも思う。前に進むことが出来なかった。忘れていた振りをしていただけで、実は立ち止まっていた。
「それ、まだ修理してないけど」
シャッドが不思議そうに首を傾げている。
「……うん。知ってる」
「そう? ならいいけど。それ、預かり物だからちゃんと返してくれよ」
「わかってるよ。とったりしないって」
手の中の時計を、そっとシャッドの前に戻す。修理の技術を持っている彼は最近特に色々な依頼を請け負っている。もちろん全て直せるわけじゃないけど、物を大事に使うことを強いられる者にとっては有難いことだ。しかもシャッドはなるべく安価で請け負っている。
時を刻まない時計――が、時を刻む時計に生まれ変わった時には、オレも前に進められればいいと静かに思った。
「夜の窓」 ムーン
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