![]() 恋に気づいた友愛のお題『無自覚にこぼれた涙』 身支度を整えた黒子は、いつもの道をいつものように歩いた。 と言っても、学校に向かったワケじゃない。PTAが突然体育館を使う事になったのと相田ジムが点検日で使えない事が重なり、一日オフとなったのだ。 それでもいつもの時間に家を出た理由は、火神にある。 丸一日バスケが出来ないと知らされた時、部内でも一・二を争うバスケ馬鹿の黒子は当然ながら不満を抱いた。仕方がないと自分に言い聞かせてみたものの、理性はともかく感情は全く納得してくれない。我ながら諦めの悪いことですと思いながら傍らに視線を向けると、自分と同じ──もしくはそれ以上に──不満一杯の顔があった。 バスケ馬鹿の度合いで言うなら、自分の相棒も相当なレベルだろう。不機嫌そのものの横顔を無言で眺めていると、視線に気付いたのか火神がコチラを向いてきた。 大抵の人に『無表情』と言われる黒子の顔に浮かぶ不機嫌の三文字が見えたのか、彼はニヤリと笑う。軽く身を屈めた火神は「やるか、1on1。朝から」と言ってきた。 「──望むところです」 淡々とした声に、熱意を込めて答える。誘ってもらえて嬉しかったけれど、直前の身長差を見せ付けてくるような態度がムカついたので、脇腹に手加減した一発を叩き込むのは忘れなかった。 そんなこんなで、日曜である。 黒子がいつものコートに着くと、火神は先に到着していた。ストレッチ中の彼に近付き「おはようございます」と挨拶する。黒子が来た事に気付いていなかったのか、火神はヘンな悲鳴を上げて飛び上がった。 「黒子っ!? テメ、ビックリさせんじゃねーよっ!」 「別に驚かせてません、ボクは普通に来ただけです。キミが勝手に驚いたんじゃないですか」 「ウッセーよ!」 照れ隠しなのか、目を吊り上げた火神は黒子の頭をギリギリと鷲掴みにする。痛いですと無表情に文句を言った黒子は、フルフルと頭を振って大きな手を外した。 「ったく、オメーのせいでムダに体力を使っちまったじゃねーか。早くやろうぜ」 「待ってください、ボクは来たばかりなんですから」 ヤレヤレと反論した黒子は、バッグをベンチに置いてストレッチを始める。早くなと言った火神は、一足先にシュート練習を始めた。 ストレッチを終わらせた黒子は、シュート練習に熱中する火神をボンヤリと見つめた。 ──彼がシュートをする姿には、人の目を惹きつける何かがあると、黒子は常々思っている。 例えばフォームの綺麗さで言うなら、緑間の方が上だろう。どれだけ体勢を崩しても必ず入れるトリッキーさなら、青峰の方が断然上だ。迫力と言う点なら、紫原の方に分がある。 それでも黒子は、火神のシュートにいつでも惹き付けられる。相棒としての贔屓目だけじゃない何かがあると、黒子は胸中で呟いた。 「──オイ、コラ。何ボーッとしてんだよ」 無言で立ち尽くしている黒子に、眉を寄せた火神が大股で近付いてくる。調子ワリーとかじゃねーよな?と少しだけ心配そうに顔を覗き込んできた彼は、黒子が見惚れていた事には気付かなかったらしい。 それを見て取って、少しだけホッとした。シュートに見惚れていて動けなかったなんてバレたら、流石に少しだけ気恥ずかしい。 「…何でもありません、始めましょうか」 言いながらパスを要求したら、火神は満面に笑みを浮かべる。簡単な人で助かりましたと、黒子は胸中で失礼なコトを呟いた。 1on1をしたりコンビネーションプレーの確認をしているうちに、日が高くなった。柱時計に目を向けた火神は、そろそろメシの時間だなと呟く。つられて時計を見上げた黒子は「そうですね」と同意した。 「──じゃあ、ボクは1度戻って昼を食べてきますから、また午後に」 「ハ、え? 何言ってんだよ、ウチで食ってきゃいいだろが」 家に戻る旨を伝えると、火神は面食らったように目を丸くする。イヤイヤイヤと言う相手に、黒子はコッチこそイヤイヤイヤですと言い返した。 「そんな迷惑は掛けられませんから」 「そーゆーのは、メイワクだってツッコまれるほど食うようになってから言え」 黒子の言い分をバッサリと一刀両断した火神は、サッサと行くぞと仁王立ちで言い放つ。数秒ほど考えた黒子だったが、結局は火神の好意に甘える事にした。 母親に断りの電話をしている間に、彼は帰り支度を済ませてしまう。少し待っててくださいと言って手早く汗を拭いていると、火神の携帯が賑やかに鳴り出した。 「あ、ワリィ」 「いえ」 簡潔なやり取りの後で携帯に出た彼は、パッと表情を明るくする。 「タツヤ!」 弾んだ声に、黒子はピタリと手の動きを止める。数瞬後、何事も無かったように動き出した黒子の耳に、楽しげな声が飛び込んできた。 師匠のアレックスと兄貴分の氷室が相手だと、火神は英語で話す。全員日本語が使えるのにも関わらず、だ。 以前、何かの折に聞いたところ完全に無意識という事が判明した。帰国してウン年経っても日本語に苦労している彼の事だ、彼らとは英語で喋りたくなるのだろう。すんなりと納得したのは、それほど最近のコトじゃない。 隣に座るのは何となく憚られて、黒子はその場に立ったまま電話が終わるのを待つ。立ち聞きしている形になっていたが、黒子が英語をロクに解さないコトは火神も承知しているので、どちらも気にしなかった。 (…楽しそうですね……) 黒子の存在を忘れてしまったように、氷室との電話は終わりそうに無い。コロコロと表情を変えながら、話に夢中になっている。 見るとも無しに火神を見る黒子の頬を、冷たいモノが伝った。瞬きもしないで濡れた目元を拭った黒子は、自分の汗を吸わせたタオルを顔に押し当てる。 (──汗です) 目から零れた雫が汗であるハズが無いのは、誰よりも自分が承知している。しかし、黒子は汗だと自分に言い聞かせた。 自分の存在をスルーして旧友との電話に熱中する相棒を見て涙を零した、なんて、そんなコトがあるワケ無い。 零れた涙の意味なんて、考えたくも無かった。 コチラのお題は『恋したくなるお題』様からお借りしました。ありがとうございました。 サイトアドレス→http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/index.html |
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