「おい、ケン。ここで不良の場所合ってんのか?」
立川区のシステムハードが置いてある区庁舎の箱の一部を開けながら、藤丸が確認するようにケンの顔を見た。
「うちの職員が、調べるなら取りあえずここからって言ってたからな。何か見つかったか?」
うーん、、、、と迷うように藤丸は調べるフリをして、どうケンに言おうか考えていた。
ーこんなせめぇ範囲じゃ、何も分からねぇし、ここ特になんにもねぇしな・・・・・・
特に緩める必要もないバルブを、キュッと一回緩めてから、すぐに元に戻した。
「ケンのさ、区長の端末って立川の全システム見れんだろ。」
「俺が見ても、ほぼ分からんがな。」
「見せてもらっていいか?」
と、藤丸が言うと、ケンがすぐに押しとどめた。
「藤丸。ここには何もなかったって事だよな。」
うん、、、、と誘導されるように藤丸は頷いた。
ケンは、それを確認すると、立川区のシステム担当にすぐに連絡を取っていた。
ーオレがやった方が早ぇのによ。
ぱたん、とシステムハードが入っている扉を閉じて、藤丸が脚立からするする降りる。
「もう一回調べて連絡すると言っている。藤丸、時間を取って悪かったな。」
「いや、ケンの頼みなら全然かまわねぇけどよ。」
でも、何か納得がいかない自分の気持ちがあって、ケンが職員に指示を出すのを黙って見守る。
「藤丸、せっかくだから、久々に軍のランチでも食ってくか?ちょっと遅いけどな。」
連絡が一区切り着いて、ケンが藤丸に声を掛ける。
「おう。」
と、あまり納得がいっていない答えが返ってきて、ケンは彼に笑顔を向ける。
「藤丸。気付いた事があったんだろ。聞くぞ。」
というケンの言葉に、藤丸の顔がぱっと明るくなる。
ーやっぱり、まだまだ子どもだな。
オレ、久しぶりにアメリカンビーフ・バーガー食いてぇな、と言って来る藤丸に、お礼に全部おごってやるぞ、
とケンは区庁舎を出て区長用ヴァンに乗ると、藤丸を乗せて軍用食堂がある建物に向かった。

「だからさぁ、全体を見てからじゃないと、不調の場所ってわかんねぇわけよ。」
藤丸のリクエスト通りに、アメリカン・アボカド・ビーフ・バーガーwith フレンチ・フライズを彼の目の前に持ってきて、
コーラを飲みながらフライドポテトを摘む藤丸が、早速さっきの作業の感想を言ってきた。
そうか、、、ともっともらしく相づちを打っているが、藤丸程のシステム理解度を自分のところの職員に求めるわけにもいかずに、
どう藤丸の気持ちを納得させようかと言葉を考える。
「八王子の職員も、口ばっかで全然これやれって言っても、結果でなくってよー。」
と、藤丸の性格だったらイライラして絶対自分で手を出してるな、と予想できる。
「藤丸、区長はもっと楽していいんだぞ。」
とケンが口を開いた。
ん?と極大のビーフバーガーをバク着く藤丸が、ケンを見る。
「職員に仕事をさせるのが、区長の仕事だ。お前がやったら、職員が楽してしまうぞ。」
と言われて、そっか・・・とケンの予想通りの行動をしていたらしい反応が返って来る。
ナイフとフォークを使わずに、バーガーをガッツリ全部手で直接食べきった藤丸は、べたべたになった指と手を、
テーブルの端にあるウェット・ティッシュを筒からひっぱり出して、気持ち悪くない程度に拭き取る。
「でも、イライラするんだよな。簡単にできる事を時間かけてやられると。」
と年若い適合者らしい言葉を聞いて、ふっとケンはまだこれから未来ある彼の言葉を頼もしく聞く。
「何か言いたくなったら、職員に言う前に、俺に言え。何でも聞いてやる。」
「ケンの方が、忙しいくせによ。」
でも、自分を思いやって言ってくれる言葉と、昔なじみの気安さで藤丸の顔には柔らかい笑顔が現れる。
時計を見るともう、そろそろ八王子に戻らないと行けない時間になったので、一言言って、藤丸は食堂を出て、
自分のバイクの所までケンに送ってもらう。
「ケン、時々は、弱音を吐いても許せよな。」
自分の方を振り向いたその顔は区長のそれではなく、実験時代のあどけない頼むような表情に少し見えた。
「Good luck, 藤丸。」
「Cheers, Ken.」
と藤丸は立川区から大きくエンジンをかけて、バイクを八王子の方へ走らせる。
この、地獄のような東京の環境でどこまで生きられるのか分からないが、勢い良く走り去る自分の親しい若者の様子を見て、
目の前の一日一日を、昔なじみと生きられた事をケンは自分の神に感謝した。


【4th July, 2014】
057.あどけない面影ー「カップリング創作好きに100のお題」から





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